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【遺稿シリーズ】さしこの箪笥

みこちゃん家のタンスの裏から、某文豪の未発表の遺稿が見つかったので掲載しました
(゜0゜)

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お母様の箪笥をこっそり開けたことがあった。

きらびやかな和服がたくさん丹念に畳んであった。

それをうっとりと眺めていて、何だか自分もお母様のようになりたいと思った。

丹念に畳んである着物を崩してそれを纏ってみた。

まるでお母様のようになれたのかな。

そう思って鏡の前に立ってみた。

痩せこけた頬の貧相な男がそこにいた。

お母様のようには、なれないんだな。

五時のお寺の鐘が鳴った。

お母様は五時に帰ってくるとおっしゃっていた。

急いでこれを畳まなきゃ。

そう思った時に、お母様が後ろから「なにしているの」とおっしゃった。

頬に涙が伝っていた。

言い訳をしようとしたら、僕の口をお母様は右手で塞いだ。

きれいに肩の部分を整えて、着物を着せてくれた。

鏡を一緒に見た。

鏡越しにお母様の顔を見た。

「母」そのものの慈愛に満ちた笑顔だった。
まるで他人のように美しかった。

何も言わずに母は着物を端正に畳んだ。

何ごともなかったかのように、帰宅した父と一緒に食事をした。

もう僕が母の着物を着ることはないだろう。

幼いころの思い出は、やがて
途方もない生きていけないような恥から、愉快な思い出に変わった。

往来を歩いている、和服を着た美しい女性に妙に魅力を感じる。

もし肩が乱れていたら、そっと後ろから、鏡越しのように直してあげたい。

そんな思いを、いくら恥ずかしくても手放せない。

母の名はさしこと言った。

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嘘ですみこちゃんのオリジナルでしたー(^-^)
第二回目は! 太宰治でしたー

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