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国語を勉強しても書けるようにならない理由/作家の僕がやっている文章術084
鑑賞する文章と、内容を確実に伝える文章とでは、書き方を使い分ける必要があります。
<文例1>
赤いあざだらけの足首をあらわに見せるほどに短い裾のスラックスをはいて、赤い靴下も編み上げの茶色の靴もボロボロで、スラックスに突っ込んだ両手は見えないが、半袖のひじも、そこから伸びる痩せた腕にも赤や紫のあざが点々とにじんでいる。
英治は直感的に虐待かもしれない、いや虐待だと、しかし感情的にはならずに冷静に、そう判断した。中学1年生だと記録にあるが、小学3、4年生にしか見えないミチルの、ただぼう然と目の前に突っ立っている姿を眺めて、事務的に書類のチェック項目に市役所が支給した安物のボールペンで静かに記述する。ミチルはその間、ひと言も発しなかった。
【ミチル/美樹香月】
英治の視線と思考と行動を中軸において、英治側の流れのままに記述していく文体です。
![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/69567684/picture_pc_dbb9bcf97c0f84a06c17d0c4290ffa22.jpg?width=1200)
重文、複文を含む長文で、時間軸にも空間軸にも、はっきりとした境界を定めないで、流れに読者の意識を乗せることを狙っている文体です。
鑑賞してもらう文体だといえるでしょう。
<文例2>
英治は、ミチルと対面した。
部屋に入ってきたミチルは、あざだらけだった。
小学3、4年生にしか見えない。
書類を見ると中学1先生とある。
短い裾のスラックスのポケットに両手を突っ込んで黙って立っている。
足首に赤いあざがのぞく。赤い靴下も、編み上げの茶色の靴もボロボロだ。
半袖のひじにも、そこから伸びる痩せた腕にも赤や紫のあざが点々とにじんでいる。
英治は、虐待かもしれないと直感し、瞬時に確信した。
ミチルは、ただぼう然と英治の目の前に突っ立っている。
英治は書類のチェック項目に事務的に記述していく。
市役所が支給した安物のボールペンだった。
ミチルはその間、ひと言も発しなかった。
【ミチル/美樹香月】
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/69567704/picture_pc_72d55f059a8ffb4c263b5be2043ab92d.jpg?width=1200)
文例2は、文例1を単文化して、事項が明瞭に分かるように、伝わるようにとリライト(書き改め)をしたものです。
文例1と文例2のどちらが優れているかは、ここでは議論をしません。
ただ、鑑賞する文書の場合には、明瞭さ、伝わりやすさ、意味のとりやすさは、さほど問題視されないことを知っていただきたかったのです。
小説やエッセイなど、作家の書く文章は鑑賞される文章です。それに比して、仕事や日常で書く文章は鑑賞されることを前提にしなくても構わないのです。
この鑑賞される文章を意識して書くクセがついていると文章を書く際に迷走が起こります。
ではどう書けば迷走なく、スラスラと書けるのでしょうか。
次の文章を例に、お話を続けます。
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