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料理から学べる創作文の書き方/作家の僕がやっている文章術047

物語の構成はコース料理に似ている

日本料理は、次のような流れに沿って運ばれてきます。

先付
凌ぎ

向付
八寸
焼物
炊合
御飯
水菓子

【1品目:先付】
最初にでてくるのが先付(さきづけ)です。お通しに相当するものです。

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【2品目:お凌ぎ】
ひとくち寿司、少量の蕎麦など、空腹を凌(しの)ぐために出されます。お凌ぎで、どんな料理が後に続くのかの察しがつきますし、期待が高まります。

【3品目:お椀】
出汁のひきかた、盛り付け、味、香りなど料理人の腕前がこれでわかると言われほどです。

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コースの変化であり、休息であり、次への期待へ繋がるポイントです。
固形物から、液体への変化でもあります。

物語の起承転結にあてはめると「転」です。

【4品目:向付】
「向付(むこうづけ)」とは、魚を使ったお造り(刺身)のことです。

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先付け→お凌ぎ→お椀→向付

で第1章の完成と言えるでしょう。

さり気なく、小さく、静かに始まり、お椀で変化して、向付にたどり着いたときに、いったんの満足を与える。

物語も同様で、第1章の区切りを用意しておかなくてはなりません。

物語がスペクタクルな大団円に入ったからといって、次から次へと「向付ストーリー」を繰り出したのでは、読者は料理を楽しむ流れから疎外され「もう結構、もう満腹、もう要らない」と逃げだしてしまいます。

【5品目:八寸】
「八寸(はっすん)」は、山海の素材を使用した肴の盛り合わせです。次の料理までこれでお酒を召し上がっていてください、という意味合いがあります。

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ここが第2章の発端に相当します。

第1章を引き継いでいるので、第1章の世界観(時代観、舞台設定、キャラクター設定)は、あまり変えない方が無難です。

新しく登場するサブキャラクターを描くなら、ここです。

あるいは展開に変化をつけるなら、ここです。

しかし第1章を放り出して、別の話を挿入するのは避けた方が無難です。

【6品目:焼き物】
「焼き物(やきもの)」は、その季節の旬の魚を使用した焼き魚で、もみじや松、ときには桜などがあしらわれ、見た目も美しいのが特徴です。ここで肉料理を供する店もあります。

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第2章の山場(メインデッシュ)がここに来ます。

舌とお腹を満足される流れに乗ったら、料理は重量級が続いても、受け入れてもらえるのです。

むしろ第2章が始まったら展開は変化に富ませて山場を早めに書く。

読者(食客)と、筆者(料理人)の物語(コース料理)を介しての感情のリンクが始まります。

【7品目:炊き合わせ】
「炊き合わせ(たきあわせ)」は、旬の野菜などを用いた煮物のことです。汁気の多い煮物です。

第1章と第2章とを合わせての一連の流れのまとめが、炊き合わせです。

テーマの結びと言い替えることができるでしょう。

料理は「秋の山奥」を表現したのか「都の賑わい」を表現したのか「寒港の漁り火」を表現したのか。

物語は「海賊王への第一歩」を表現したのか「魔法使いへ成長すると共に両親を殺した闇の魔法使いの存在」に気がついたのか「鬼になってしまった妹を人間に戻す秘訣を鬼のボスが知っているかもしれない」と期待して、冒険を続ける決意を新たにしたのか、と、コース料理の順番は、人間が持つワクワク感と、それを読んだ(食べた)あとに待っている満足感に通じるものがあるのです。

【8品目:ご飯】
炊き込みご飯や、小さな丼ものなど色々とシメのご飯には趣向が凝らされます。漬け物、味噌汁かすまし汁が添えられます。

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コース料理では、ご飯が最後に提供されます。

コース料理の順番は「流れの芸術」であり「流れによるおもてなし」であり、「流れに共感する」ことで得られる、それこそ一編の物語なのです。

【9品目:水菓子】
口の中をさっぱりとさせるために、季節の果物やアイスクリーム、シャーベットなどが供されます。

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「水菓子」は、物語のあと味です。
全編を通じての結びと例えられるでしょう。

シリーズ物であっても、一冊完結であれば、あと味(結び)を書くべきかもしれません。「続く」として結びが、ないまま終わらせないことです。

物語が綿々として続く場合であっても、読者(食客)をもてなす精神は忘れてはいけません。

一皿のなかの宇宙にも私は注目します。

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「どんな素材」を「どんな形、色、食感」に仕上げ「どんな色彩と形状の皿(器)」に盛り付けたか。

一皿に込められた、鍛錬の末の調理技術にも思いを馳せていただきます。

鍛錬の末の技術=文体と文章表現です。

日本料理に限りません。フランス料理、イタリア料理、インド料理、トルコ料理、中華料理にも、流れによるもてなしと、鍛錬の末の調理技術=文体と文章表現は、みてとれます。

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物語を創るのに難儀しているとき、文章表現に迷ったとき、そもそも自分が何を伝えたいと考えているのかを見失ったときに、私はちょっと贅沢な料理を食べに出かけます。


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