樹 菩尊(みきぼそん)

元官僚。パリ出向時、OECDシニアエコノミストとしての業務の傍ら、欧州の根底にある深淵…

樹 菩尊(みきぼそん)

元官僚。パリ出向時、OECDシニアエコノミストとしての業務の傍ら、欧州の根底にある深淵をめぐる旅に出る。帰国後は、コロナ禍で疲弊した数々の日本企業に対し、欧州で体得した芸術・科学・哲学等に裏打ちされた経験を当てはめた、新しい働き方を提唱するコンサルティングを生業とする。

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  • パリ逍遥遊

    フランスでのライフスタイルから、ワークライフバランスを考えてゆきます。

最近の記事

知財情報開示のあるべき姿とは

 近年、製品開発などでSDGs(持続的な開発目標)を意識した取り組みが求められ、また、世界的に注目されているESG(環境・社会・ガバナンス)投資にもSDGsの観点は重要である。一方で、ESG 投資における評価の点では、日本企業はアンダーウェートの状態にある。例えば、年金積立金管理運用独立行政法人の 2020 年度 ESG 活動報告では、ESG 評価の国別ランキングや改善度合いにおいて、日本は海外先進国と比べて低評価である。  ところで、この1年は企業による知財・無形資産の情

    • プロセスエコノミーの一形態? ー特許分野の事例ー

      プロセスエコノミーという言葉をご存知だろうか? 従来の製造業やコンテンツ産業にありがちな、完成された最終プロダクトに対し課金するアウトプットエコノミーの対局の概念で、製品を作成する途中段階のプロセスを無料・有料で公開し、最終プロダクトができた頃には多くのファンを虜にする手法だ。SNSとの親和性も高く、近年この手法を採用する企業も多い。 詳しくは、尾原和啓氏の「プロセスエコノミー」を読んでいただきたい。 話は変わって、私は仕事で科学技術指標を扱うため、科学・特許に関連する企

      • パリ逍遥遊 世界のはざまと案内人

        パリ逍遥遊 イスラム圏からキリスト圏では、トルコ・イスタンブールのアヤソフィアから、スペイン・グラナダのアルハンブラ宮殿とコルドバのメスキータへの旅であった。ともに、イスラム教建築からキリスト教建築へ、またはその逆を経て、「イスラム教の世界とキリスト教の世界のはざま」を見たわけだ。 アルハンブラ宮殿とメスキータ。両者ともに、他のキリスト教圏で見られる建築とは大きく異なった、しかしどこか共通点もあるような不思議な建築物だ。 ところで、法華教に化城(けじょう)という逸話がある

        • パリ逍遥遊 イスラム圏からキリスト圏

          インスタンブールの空港に降り立つのは2度目だ。一度目はオリエントエキスプレスに乗車するときだった。今回の旅のテーマは、「イスラム教の世界とキリスト教の世界のはざまでたゆたった世界」だ。このテーマに最もふさわしいのは、まずはトルコインスタンブールのアヤソフィアだろう。 アヤソフィアは、もともとキリスト教の大聖堂で、コンスタンティノープル総主教庁として、また、東ローマ帝国の皇帝の霊廟として用いられた。イエスが磔にされた「聖十字架」等が聖遺物として置かれていたと言われている。

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        • パリ逍遥遊
          34本

        記事

          パリ逍遥遊 トラピストビール

          以前紹介したフォントネー修道院とモン・サン・ミッシェル。いずれもフランスを代表する修道院である。 修道院の拡大とブドウの北限でも述べた通り、フランスの修道院、中でもシトー修道会はクレルヴォーのベルナール(後の聖ベルナール)の入会後、その勢力を拡大しベルギーまで到達する。その後、フランス、ノルマンディー地方を中心とした修道規律の改革が起こり、その厳しい規律に従うシトー修道会として、厳律シトー修道会(改革が行われた修道院の名前にちなみ、トラピスト修道会とも呼ばれる)が成立した。

          パリ逍遥遊 トラピストビール

          パリ逍遥遊 フランス語を習う

          フランスでは日本人はよく声をかけられるのだ。 パリに赴任して1年が過ぎた頃、地下鉄に乗っていたら、とある男性が声をかけてきた。金髪のフランス人だ。しかし、その口元から発せられる言葉は日本語。小脇に日本語の教科書を抱えている。彼の日本語の教科書を見せてもらうと、結構難しいレベルの教科書だ。自宅の最寄り駅に近づき、”Au revoir”を言おうとしたら、彼も同じ駅だという。 一緒にメテロを降り、しばらくパリの街路樹を歩きながら、「フランス語を教えるので、日本語を教えてもらえな

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          パリ逍遥遊 クラリネットは壊れたか?

          「クラリネットを壊しちゃった」は、誰もが子供の頃に聞いたことがある童謡だろう。大人になって、我が子が「パパからもらったクラ~リネット♪」と歌っているのを聞くと、超ロングセラーだな~と改めて感心する。 この童謡、途中で変な歌詞になることを、みなさん覚えているだろうか?以下のフレーズだ。 「オー パッキャラマード! パッキャラマード! パーオ パーオ パパパ!」 パパからもらったクラリネットが壊れて、子供が慌てている心境を表現していて、シックリくるフレーズだが、よくよく考えて

          パリ逍遥遊 クラリネットは壊れたか?

          パリ逍遥遊 受胎告知(フランス修道院編)

          私は一時期カトリック系の大学で禄を食んでいた。学長は「置かれた場所で咲きなさい」の著者、彼女に「あなたはシスターになるとばかり思っていました」と言われたことが忘れられない。予想は外れ、私はシスターになることはなく、修道院に住んだこともない。キリスト教の精神にのっとって集団を生活する場所を修道院と呼ぶ。修道院ではもちろん祈りや聖書の研究に関わることが行われることはもちろん、これから紹介するように葡萄を植え、ワインを創りだしたりもしたのである。 特にブルゴーニュワインと関係の深

          パリ逍遥遊 受胎告知(フランス修道院編)

          パリ逍遥遊 フランスで道を聞かれる日本人

          パリに住んで数ヶ月。始めはこいつら何ボソボソ言ってるんじゃ?とか、知っているフランス語は「ジュトジュデ、ニジュ、アトジュデ、サンジュ」(注:「10と10を足すと20、あと10を足すと30になる」という日本語をフランス語っぽく発音したもの)ぐらいしか知らなかったが、段々とフランス語会話に慣れてきた。 となると、ついつい話したくなっちゃうのが人間の性。そこは、さすがパリ。みんな普通にフランス語を話してくるので、スーパーの買い物とか、こちらが客のはずの観光とか、我が家が雨漏りした

          パリ逍遥遊 フランスで道を聞かれる日本人

          我が国の「大学ファンド」

           遅ればせながら、トマ・ピケティ(Thomas Piketty)の「21世紀の資本」(Le Capital)を読んだ。トマ・ピケティ(Thomas Piketty)は、フランスが誇る経済学者だ。  ピケティは、資本収益率(r)、経済成長率(g)とすると、その関係は、r>gとなり、資本によって得られる富は、労働によって得られる富よりも成長が早く、資本収益率もよいと言っている。そしてこれを「最もよく理解するには、過去数十年間に米国の大学の基金に起きたことに目を向けるといい」とあ

          我が国の「大学ファンド」

          パリ逍遥遊 お墓

           お墓詣りと言えば、1992年ウィーンで開催された学会で最優秀論文賞をいただいた時の賞金は1,000シリングだった。まだ当時の通貨はEuroではなく、オーストリアにシリングだった。1,000シリング、当時のレートで10,000円ほどだった。このお札の顔は、量子力学の骨幹をなす方程式、シュレーディンガー方程式の発見者であるエルヴィン・シュレディンガー、お札の中から「おめでとう!」と言ってくれたような気がした私は、アルプバッハにある彼のお墓詣りに出かけた。彼のお墓の墓標には、Ψの

          パリ逍遥遊 ブルゴーニュワインに合う究極の食材

          「たゆたえど沈まず」な都市パリにいて手軽に楽しめるものといえば、やっぱり飲食。ワインはフランス各地から、その地のテロワールを見事に表現したワインが気軽に手に入る。また、さすが農業大国フランス。食材についても新鮮な海の幸から山の幸まで、簡単に手に入る。となると、ついついマリアージュ(ワインと食材のマッチング)に挑戦したくなる。 生牡蠣とシャルドネ、鶏肉とリースリング、ラム肉とシラーなどがよく知られているが、せっかくだから自分だけが知っている組合せを発見したいものだ。 とは言い

          パリ逍遥遊 ブルゴーニュワインに合う究極の食材

          パリ逍遥遊 メドックマラソンで臨死体験か?!

           臨死体験と言えば、20代の若い頃、「臨死体験」をしたことがある。1キロほど泳いで、サウナで汗をガンガンに出した後、母の誕生祝にレストランに出かけた。のどが渇いていた私は、弱いくせにワインで喉を潤してしまった。「運動で血流が早まり血液脳関門をアルコールがバンバン通って、脳に到達した」状態になった私は、急に気持ち悪くなり席を立った。席を立った瞬間、意識がなくなり、全面から無防備に倒れてしまった。自分の前歯で自分の下唇の下に穴をあけ、血だらけになっている娘を父は、血だらけの頬をた

          パリ逍遥遊 メドックマラソンで臨死体験か?!

          パリ逍遥遊 メドックマラソン

          普段何気なく過ごしている生活であっても、その延長線上には未だ見た事のない事象が広がっている。皆さんはそこに行った経験があるだろうか。 例えば、音楽プレーヤー。iPodなりステレオなりの音量を最大にしたことはあるだろうか? おとなしいクラシック曲でも爆音になり、ベートーベン6番やブラームス4番と初期のアイアンメイデンとの区別がつかなくなる臨界点がある。 例えば、自動車。タコメーターが振り切れるほどのスピードを出したことはあるだろうか? ドイツのアウトバーンで、プジョー207

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          パリ逍遥遊 受胎告知

           受胎告知とは、御使ガブリエルが、マリアに聖母になることを告げることだ。聖書「ルカの福音書」第1章の以下の部分。 1. 六か月目に、御使(みつかい)ガブリエルが、神からつかわされて、ナザレというガリラヤの町の一処女のもとにきた。 2. この処女はダビデ家の出であるヨセフという人のいいなづけになっていて、名をマリヤといった。 3. 御使がマリヤのところにきて言った、「恵まれた女よ、おめでとう、主があなたと共におられます」。 4. この言葉にマリヤはひどく胸騒ぎがして、このあい

          パリ逍遥遊 受胎告知

          パリ逍遥遊 パスカルを通じて見えてくる人生の意味

          見る、聞く、読む、感じると言った五感をフル活動させて、至上の文化・芸術に触れ、真理に魂を震わせる、それこそ最高の贅沢だ。そして、宗教、法律、哲学が長年にわたり浸透してきた地であり、文化・芸術の中心地でもあるパリは、そのための格好の場所である。 ところで、なぜ文化・芸術等々に触れることが最高の贅沢なのかを考えたことはあるだろうか?それは単に美術館やコンサートに行くことと違うのだろうか?ここでは、パスカルの定理や圧力の単位ヘクト・パスカルでおなじみの、パスカルの名言とともに考え

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