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パリ逍遥遊 トラピストビール

以前紹介したフォントネー修道院とモン・サン・ミッシェル。いずれもフランスを代表する修道院である。

修道院の拡大とブドウの北限でも述べた通り、フランスの修道院、中でもシトー修道会はクレルヴォーのベルナール(後の聖ベルナール)の入会後、その勢力を拡大しベルギーまで到達する。その後、フランス、ノルマンディー地方を中心とした修道規律の改革が起こり、その厳しい規律に従うシトー修道会として、厳律シトー修道会(改革が行われた修道院の名前にちなみ、トラピスト修道会とも呼ばれる)が成立した。ベルギーではシトー修道会よりもトラピスト修道会の方が有名である。

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さて、ベルギーほどの北部まで来ると、ブドウ栽培の北限を超えており、ワイン醸造に必要なブドウが手に入らない。そこで、ベルギーの修道士たちは、小麦を使って赤ワインを作ることを試みた。見た目はワインっぽいが、原料が小麦なので、もはや黒ビールであるが。その中でも、上述のトラピスト修道会の醸造するワイン(もといビール)は質が高く、後にベルギービールの中でもトラピストビールとして有名になる。

ベルギービールの中でもトラピストビールを名乗れるのは、トラピスト修道院で作成される7つのビールで、それぞれ、アヘル(アヘル修道院)、シメイ(スクール・モン修道院)、オルヴァル(オルヴァル修道院)、ラトラップ(コーニングスホーヴェン修道院)、ロシュフォール(サン・レミ修道院)、ウエストマール(ウエストマール修道院)、ウェストフレテレン(ウエストフレテレン修道院)である。

ウエストマール(ウエストマール修道院)併設のカフェ

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なお、ベルギー以外にもトラピストビールは存在し、また、ベルギービールの中で修道院スタイルのビールがあるがこれはアベイビールと呼ばれる(昔は修道院で醸造していたが、レシピを開放し現在はビール会社が醸造している)。したがって、ベルギービールのトラピストビールは上記7つだけだ。

さらに、「ベルギー」ビールとは言ったが、ラトラップ(コーニングスホーヴェン修道院)は、現在は完全にオランダ領に属した場所に立っており、アヘル(アヘル修道院)は、オランダとベルギーの国境上に位置する(国境が修道院の敷地を横切っている)。また、ウェストフレテレン(ウエストフレテレン修道院)も、自転車で少し移動するとフランスとの国境が見えてくる位置にある。長い歴史の中で国境が変化するので、なかなか定義しづらいが、上記7つのビールがベルギービールのトラピストビールだ。

アヘル修道院の地図。赤い点線が国境を示す。

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ベルギー・オランダ間の国境

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さて、これらトラピストビール、現在は流通が発達し日本にも出回っているが、基本的に修道院内で消費されるために醸造される物であり、私がベルギーに住んでいた当時は入手困難なものがいくつかあった。特に、ウェストフレテレンは、修道院に併設されたカフェでしか売っておらず、これを飲むためには、空路(日本からブリュッセルへ)、鉄道(ブリュッセルからコルトレイを経由して、田舎町のポペリンゲへ)、自転車(ポペリンゲにある自転車屋で借りて、走ること20分程度)を駆使してようやくたどり着ける有様だ。(時々、何の予告もなく閉店になっており、カフェの前で絶望したことも一度や二度ではない。)

遠い道のりを経てたどり着いたウェストフレテレンの併設カフェ。
この日は閉店。店の前で気絶した

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ウェストフレテレン。ラベルが存在せず、王冠のみで判別できる

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また、アヘルも瓶ビールは流通しているものの、アヘルの生ビールは修道院併設のカフェでしか飲むことができない。これも電車と自転車を併用しながら、とぼとぼ行くしかない。さらに、夏季しか提供されないオルヴァルのセゾンビール(農民が夏に飲むように作った度数の低いビール)、修道院の修道士体験でしか飲めないシメイの黒ラベル(最近は外部にも流通したようだ)など、そこに行かないと飲めないビールがいつくかあり、ビールファンの前に高い壁が立ちはだかる。

アヘル修道院併設のカフェ

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困難なのはわかっているのだが、それでも飲みに行ってしまう。
そこにビールがあるから。

オルヴァル修道院

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ラトラップ修道院と併設カフェ

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シメイ(スクール・モン修道院)

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