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ネタバレ考察【呪術廻戦0から見る他者を“受け入れる”ということ】

週刊少年ジャンプにて連載中の人気漫画『呪術廻戦』の前日譚に当たる作品『呪術廻戦0』。幼い頃に亡くなった幼馴染の折本里香に憑かれている主人公の乙骨憂太が、呪いの祓い方を学ぶ学校「呪術高専」に入り里香の呪いを解くために奮闘する物語です。
既に観た方なら分かる通り、この作品は乙骨と里香の物語であると同時に五条悟と夏油傑の物語でもあります。今回はこの作品を見て気付いたことをまとめていきます。

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呪術廻戦0は“受け入れる”物語

作品の主人公である乙骨は作中常に「否定」をしている人間です。
幼い頃、里香の事故現場に遭遇した乙骨は里香の死を心の中で否定します。そのせいで里香は乙骨に呪われる形で怨霊になってしまいました。
そして高校生になった乙骨は、周りの人を傷つけたくないが故に里香が出てくることを拒絶して生きています。さらには自分の存在までも否定するかのように自殺を図ったこともあります。


しかし高専に入り、五条や同級生のみんなに受け入れられたことにより乙骨は「里香の呪いを解く」という目的を見つけます。そしてその呪いを解く方法は、乙骨が里香の死を「受け入れ」主従契約を破棄することでした。そして呪いをかけられた側の里香もペナルティを望まず、乙骨の決意を「受け入れ」ました。二人の関係はまさに否定と受け入れを表していると言えます。


そしてまた、この作品で最も「受け入れる」という行為を体現している人物がいます。五条悟です。そもそもこの作品は、死刑が決定していた乙骨を五条が高専に入学させ受け入れたことから物語が始まりました。五条はどんな場面でも無駄にその状況に抗おうとはせず、その時々の状況を一旦は受け入れたうえで自分のすべきことを考え行動に移している人物です。

逆に「否定」という行為を乙骨と同じくらい体現しているのは夏油傑ではないでしょうか。夏油は今の呪術師が虐げられる世界を否定し、力のない人間を「猿」と呼びその存在を否定しています。しかしラストシーン、乙骨に敗れ満身創痍の夏油の前に五条が現れます。五条はその時夏油の考えや行為を否定することなく一人の親友として接しました。そしてそんな五条に夏油は笑いかけ、五条の攻撃を受け入れその命に幕を下ろします。あのシーンの二人の掛け合いは、どちらもこの結末に抗うことなく全てを受け入れたかのような穏やかさがありました。


このことからもこの作品は、他者や今の状況を「受け入れる」ことで救われる物語だということが分かります。

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受け入れることは即ち他者を救うこと

もう一人、他者に受け入れられたことによって救われた人物がいます。禪院真希です。彼女は家族に否定され生きてきた人物です。そんな真希も家族を否定し高専へやって来ました

しかし真希が乙骨に自身の身の上話をし禪院家をぶっ潰すといった際、乙骨は真希に「その考え真希さんらしい」と真希の考えを受け入れ、「僕は真希さんみたいになりたい」と真希を肯定しました。全てを否定しながら生きてきた真希にとって、あの瞬間は本当の意味で自分に自信を持てたシーンだったのではないでしょうか。


このように、人は他者から受け入れられることによって救われることが数多くあります。しかし、受け入れるといった行為は簡単なことではありません。耐え難い状況や無視できない事柄にぶつかったとき、人はそれらを否定したいと思うでしょう。夏油のように、思うだけでなく実際にその状況を否定するため行動する人も少なくないかもしれません。確かに否定することは状況によっては大事です。しかし本当に大切なのは、五条のようにその時々の状況を一旦は受け入れたうえで自分のすべきことを考え行動に移す、ということではないでしょうか。

乙骨が、里香が自分に呪いをかけたのではなく自分が里香に呪いをかけたのかもしれないと気付いたときも、乙骨が怨霊になった里香を受け入れ自分の力として召喚し、冷静に自分の状況を見れたからこそ出てきた仮説でした。そしてその仮説は当たっています。


受け入れるという行為は自身だけではなく他者をも救うということを、この作品は語っているのではないでしょうか。

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まとめ

呪いとは強い感情によって生まれます。「否定」という感情はそんな強い感情のひとつです。そして「受け入れる」といった感情は、「否定」の感情をも包み込む優しい感情です。

否定を受け入れることによって負の感情が中和される。この作品で乙骨や五条が語っている、呪いを「祓う」のではなく「解く」ということ。それは即ち「受け入れる」ことと同じ意味なのだと私は解釈しました。


そしてジャンプで連載中の呪術廻戦本編は、主人公の虎杖悠仁両面宿儺の指を取り込んだ、解釈によっては受け入れたことで物語が始まりました。里香の死を否定したことで物語を始めた乙骨宿儺を受け入れたことで物語を始めた虎杖。この対比が今後どう物語に絡んでくるのかも楽しみですね!

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