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『度胸星 続編もどき』_第1話「度胸、火星へ」


scene_打ち上げ後のロシア有人探査船M1船内

――パチ、パチ、カタカタカタ、パチ
地球の大気圏離脱後すぐに機器を操作しながら指示を出すハリコフ。

ハリコフ「さあ、ここからが本番だぞ。」
「すぐに月のスイングバイの準備だ!」

度胸・茶々・武田「ダー(はい)!」
と声をそろえ、それぞれ持ち場についたまま、モニターを確認したり制御装置やスイッチなどを調整したりしている。

――回想シーン始まり――

2週間前、ロシアのカプスチン・ヤール宇宙基地内のオフィスに集合したハリコフと度胸たち。
それに、彼らを前にした基地の発射場管理者とロシア連邦宇宙局の幹部の面々。

幹部A「・・・以上が今回の火星探査ミッションの大まかな流れだ。」
「ロシアとしては、アメリカの後塵を拝している感のある火星有人探査の遅れを取り戻すことが重要だと考えている。」

度胸に向かってつぶやく武田。
武田「ふん、苦境のアメリカに恩を売って優位に立つのが本音なんだろ。」

言葉はわからないが雰囲気を察し、武田を一瞥してニヤリとする発射場管理者。

幹部B「君たちにはとても過酷なミッションになる。」
「まず、地球と火星の最接近時から3ヵ月遅れの打ち上げになることだ。」「これは通常ならありえない。」
*地球と火星の公転軌道の図挿入。

幹部B「そこで我々は、重力を使ったスイングバイ航法を採用する。」
「月でのスイングバイと地球を利用したスイングバイだ。」
「これにより、軌道修正と推力の加速を狙う。」
*スイングバイの説明図挿入。

幹部C「知ってのとおり、日本初の火星探査機『のぞみ』と同じやり方だよ。」

幹部B「有人飛行のスイングバイに世界で初めて成功すること。これが最初のミッションだ。」
「成功しても火星に着くのは9ヵ月後だ。通常に比べると3ヵ月余計にかかる。」

幹部C「その間、喧嘩しないで仲良く過ごすことが第2のミッションだ。」

ロシア側スタッフ「ワハハハハ」 
一方、乗員四名は硬い表情のまま。

発射場管理者「正直なところ、我々ロシアの宇宙飛行士が参加しないのもそのことが理由だ。」
「非公式であることに加えて、失敗するリスクも低くない。」

度胸たち三人の顔を見つめながら続ける。
発射場管理者「だが、日本人の君たちには『のぞみ』から受け継いだ成功のノウハウと運があるはずだ。」
「期待している!」

――回想シーン終わり――

ハリコフ「スイングバイの軌道はコンピュータで制御されている。」
「我々がやるべきことは、燃料逆流防止バルブの動作障害が起きたときに正常に戻すことぐらいだ。」
「さあ、訓練どおりの手順でみんな頼むぞ!」

計器やモニターに集中する乗員四名。
茶々「軌道傾斜角、正常。」
度胸「エンジン制御装置、異常なし。」
武田「電力系統、すべて異常なし。」
ハリコフ「衛星測位目標地点からの誤差、およそ200m。」

【場面スイッチ】
ロシア管制塔「スイングバイ成功! スイングバイ成功!」
「ホッ」という吐息があちらこちらであがる。

茶々「よかったわ。成功ね。」

ハリコフ「ハラショー! みんなよくやった。」
「だけど気を抜くなよ。次は地球重力のパワードスイングバイの番だぞ。」

武田「まったく、一息くらいつかせてほしいぜ・・・」

【場面スイッチ】
数十分後、コックピットで放心する四名。
度胸(心の声)「やったぞ、筑前。必ず助けるからな、待ってろよ。」

scene_火星の南半球の極冠にいるブラッドレー

テセラックに南極付近まで移動させられたブラッドレー。
――ハッ、ハッ、ハッ

ブラッドレー「いったいどこだ、ここは?」
「ハッ、ハッ」「この白いのは氷か?」「ハッ、ハッ」
あたりをキョロキョロと見渡す。

・・・・・しばらく経って
少し落ち着いた様子のブラッドレー。

ブラッドレー(心の声)「テセラックに火星の北極か南極かまで飛ばされたってことか・・・」

宇宙服の計器を操作し、ヘルメットシールドに緯度情報を示す。
数値は南緯69.4度を指している。
*註:ヘルメット内がディスプレイになっている。

ブラッドレー(心の声)「南極冠のほうか・・・」
「確かにこの氷はドライアイスじゃなく水が凍ったものらしい。南半球は今は夏だからだな。」
*註:冬は大気中の二酸化炭素が冷えてドライアイスになり、氷の上を覆うが、夏にはドライアイスは気化して氷が姿を現す。

荒涼とした赤と白の大地に一人たたずむブラッドレー。

ブラッドレー「・・・それでも相当寒いな・・・」
「少し歩くか。」

scene_火星の筑前たち 新型ローバー車内

筑前と石田はローバーに乗って、火星の南極付近にいるブラッドレー救出に向かっている。

――ギュロロロロロ
運転するのは石田。
筑前はローバーのフロントガラスに映る遠くのクレーターの山々を見ながら考え事をしている様子。

石田「単調な景色だね、筑前さん。」
「どこまで行っても砂と岩ばかりだよ。」

筑前「・・・・・」

ローバーが残した轍が背後に延々と続いている。

おもむろに口を開く筑前。
筑前「なあ、石田ァ。坂井輪さんが研究している超ひも理論について、何か知ってるのか?」
「お前、NASDAでは宇宙物理学の成績もよかったじゃないか。」

石田「超ひも理論かあ。あれは宇宙論というより、素粒子論だからね。」
「NASDAでもNASAでもちゃんと勉強したわけじゃないからわからないよ。」

筑前「・・・だよな・・・」
再び考え込む筑前。ローバーの後ろ姿。
――ギュロロロロロ

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