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『度胸星 続編もどき』_第2話「焦る筑前」


scene_無人のスキアパレッリ3号により先に火星に送られていた居住モジュール2の室内

夜になっても一人待機するブロンソン。
スチュアートが残したビデオを見ながら、コンピュータを叩く音が響いている。

――カタカタカタ
入力しているコンピュータ画面には「スチュアートは黒いテセラックをローバーですり抜けた。」
「彼が言うように、どうやら黒いほうはテセラックの影らしい。」
の文字がおどる。

一息つき、椅子にのけぞり、頭の後ろで両手を組みながらひとりごちる。

ブロンソン「超ひも理論か・・・直接観測できない科学はやはり苦手だ。」
「しかし、テセラックは観測しうる。いったいなぜなんだ?」

部屋の片隅に、小さく立体十字架状で浮遊するテセラック。
室内をしきりに物色している様子。

やがて人工重力装置の前で制止する。
「ウィーーン」と静かな起動音をたてる人工重力装置。
*註:人工重力装置は現在もまだ開発されていない(人工衛星等の重力は遠心力で代用している)。

テセラックは装置を裏返し始める。
――ギュイーン、ギュイーン

異音に気づくブロンソン。
振り返ると、人工重力装置が裏返ろうとしているのが目に映る。
驚愕するが、科学者らしく取り乱したりはしない。

ブロンソン「!!」「いったい何が起こってるんだ・・・」

その近くではテセラックが立体十字架から超立方体へと変異中。
しかも表面の膜が波打っているようにも見える。

それをじっと凝視するブロンソン。

すぐに地球のGに調整されていた重力がなくなり、火星のGへと戻される。
完全に機能を停止した人工重力装置。
その変化にブロンソンが体を固める。

――ギュイーン(という音が次第に小さくなり、無音へ)

ブロンソンはまじまじと装置を見つめながらつぶやく。
ブロンソン「なんてこった。人工重力装置を裏返したのか?」
「スチュアートの報告はやはり事実だったのか・・・」

点滅しながら小さくなり、消えていく超立方体のテセラック。

scene_夜になった南極付近のブラッドレー

大きな岩が重なってできた横穴に体を横たえているブラッドレー。
周囲には寒そうな雰囲気が漂っている。
真上の堆積岩にはリップル斜交層理の模様が浮かんでいる。

ブラッドレー(心の声)「これはリップルマークだな・・・」
「火星に水があった痕跡か。」

感慨深げなブラッドレー。
というのも、スチュアートたちスキアパレッリ2号は火星の生命探査と有用な鉱物資源の調査を行う予定だった。

ブラッドレー(心の声)「本当ならスチュアート、お前たちは火星に微生物がいるか、生命の痕跡はあるかを調査して、その成果を持ち帰るはずだったんだよな・・・」

――回想シーン始まり――

スキアパレッリ2号出発前に、バーのカウンターで酒を飲むスチュアートとブラッドレー。

ブラッドレー「『火星に生命はいるか?』を探るのは火星探査の最大の醍醐味じゃないか!」
「絶対みつけてこいよ!」

スチュアート「ああ、任せとけ!」
「そんなのがいたら、バーベキューにして食ってやるぜ!」

二人「ガハハハハハ」

――回想シーン終わり――

ブラッドレー「よお、相棒。アレはいったい何者なんだ?・・・」

scene_夜もローバーで移動する筑前たち

前方のヘッドライトをつけて火星の岩石砂漠を走る筑前たちのローバー。
自動操縦中。
――ギュロロロロロ

石田「まずいよ、筑前さん。」
そう言いながら、ノートパソコンに計算した数字を打ち込んでいる。

石田「極冠までおよそ2000キロなら、自動操縦で3昼夜も走れば着くって計算だったよね?」

筑前「あぁ。」

石田「でも、こう露頭した岩石が多いエリアじゃ、時速20キロが関の山だ!」
「おまけに揺れが激しすぎて眠れりゃしない。」

筑前「しかし、いくら夏でも夜は氷点下になる気温だぞ!」
「急がないとブラッドレーが凍死しちまうんだ!」

石田「わかるけど、ローバーを停めて、1時間か2時間かでも仮眠をとらなくっちゃダメだ!」
「でないと、危険な窪みや崖に気づけない可能性が高くなる!」

筑前は逡巡するが、やがて運転席のボタンを押す。
ギュロロロロロという音が小さくなり、プシューとエンジンが切れる音。

筑前「わかったよ、石田ァ。あせりは禁物だな。」
「あのブラッドレーだ。そう簡単に死んじまうタマじゃねぇよ・・・」

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