『度胸星 続編もどき』_第6話「マルス3号」
scene_ソ連のマルス3号着陸機に向かう石田と筑前
ローバーのエンジン音。自動操縦中。
――ギュロロロロロ
石田「そろそろだよ。ソ連のマルス3号が着陸したと言われている場所は。」
筑前「1971年の代物だぞ。コンピュータユニットひとつで170kgもあるんだろ?」
「使い物になるとは思えねぇけどな。」
石田「信号は着陸から14秒後に途絶えたそうだよ。」
「でも機械は生きていて不思議じゃない。」
筑前「そうだといいがな・・・」
――ギュロロロロロ
・・・・・しばらく経って
運転席のモニターに映る空中写真と現在地を照合させながら石田が告げる。
石田「どうやら、あの盛り上がったところが目的のマルス3号だよ。」
フロントガラス越しに大きく目を見開いて凝視する筑前。
筑前「石田ァ。着陸機にしちゃ大きすぎないか?」
「おい、行くぞ! ありゃ違う何かだ!」
と急いで宇宙服のヘルメットを被り、外に出る二人。
――プシュー、バタン、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ
石田「これは・・・」
筑前「ああ、これは・・・半分になっちゃいるが、母船だぞ・・・」
急いで機体のネームを確認するため、レゴリスを手で払いのけていく二人。
すると、「Schiaparelli 2」の文字が現れる。驚いた表情のまま筑前がつぶやく。
筑前「!!」「これは、墜落したスキアパレッリ2号機の母船だ!」
【場面スイッチ】
母船の状態をチェックする二人の描写。
石田「通信機はないね。というか、コックピット自体が別のところに落ちたみたいだ。」
「でも内蔵アンテナは予備も含めて使用できそうだよ。」
筑前「外部アンテナもフレームは使えそうだ。」
「母船の壁材も剥ぎ取っていこう。うまくいきゃ大きな送信アンテナが組み立てられるかも知れねぇぞ。」
二人は希望にあふれた顔を見合わせる。
石田「地球と交信できそうだね。」
作業しながら筑前が小さくつぶやく。
筑前「でもどこに行ったんだ・・・マルス3号は?」
scene_ハリコフの告白
【打ち上げより107日め】
度胸たちは順調に宇宙空間を航行。船内の様子の描写。
コックピットに座るハリコフが1970年代前半にアメリカと競っていた火星探査計画、通称マルス計画について語りだす。
ハリコフ「知ってのとおり、マルス計画は月面探査でアメリカの後手を踏んだソ連が、名誉挽回を期して、火星に先に着陸してアメリカを制すことをめざした宇宙開発計画だ。」
茶々「知ってるわ。そしてソ連は打ち上げた15機中13機を失った・・・」
武田「部分的に成功したのが2機だけか。悲惨な結果だったな。」
ハリコフ「そう、その部分的成功のマルス3号のことなんだが・・・」
「マルス3号は不運なことに砂嵐の真っ只中を着陸しなければならなかった。」
「だから一般的には砂嵐が通信断絶の原因だと考えられてきた・・・」
思わせぶりに一呼吸おくハリコフ。
ハリコフ「・・・公にはされていないが、実はマルス3号が発した14秒間に我々は不思議な信号をとらえていたんだ。」
――回想シーン始まり――
ソ連の深宇宙通信基地・エフパトリア。
管制部では管制官たちがマルス3号からの画像を今か今かと待っていた。
そのとき火星は日中の空高くにあった。
テープレコーダーの再生コマンドが送信された。
管制部には画像を描き出すペンプロッターが準備され、誰もが固唾を飲んでいた。
手に汗握りモニターを見つめる管制官たちの様子。
十字を切り神に祈る者もいる。
いよいよ信号の受信が始まった。
「シャーッ、シャーッ」とペンプロッターが音を立てて、映像を描き始めた。
しかし、14秒経過したところで信号は停止してしまった。しかも2系統同時に・・・。
「アーーァ」といっせいに落胆する管制官たち。
頭を抱えたりそばの機械に八つ当たりする者の姿も。
その後、何度かリプレイが行われた、結果は同じだった。
――回想シーン終わり――
ハリコフ「ふつうは2つの独立した送信機が同時に壊れることはない。どう考えてもおかしいんだ。そう思わないか?」
周りを見渡して反応を確認するハリコフ。
度胸たちは三人とも神妙な面持ちで見つめ返す。
ハリコフ「実は最近その信号の周波数を再分析してみたのさ。」
「するととんでもないことがわかった・・・」
「周波数がほんのわずかだが低くなっていたんだ。」
「フーーッ」と大きく息を吐くハリコフ。
ハリコフ「我々はこれはドップラー効果だと考えた。つまりマルス3号はそのとき地球から遠ざかっていたことになる。」
「!!!」いっせいに驚く度胸たち三人。
度胸「どういうことだ。砂嵐で遠くに飛ばされたってことなのか?」
ハリコフ「いや、その程度ではドップラー効果は表れないさ。」
「ここからは私個人の考えだが、火星には高度な文明を持つ異星人が出没しているんじゃないかと思う。」
「!!!」再びいっせいに驚く度胸たち三人。
ハリコフ「異星人がマルス3号を回収して持ち去ったと考えている。」
「ひょっとすると他の火星探査船の失敗もそれが原因かもしれない。」
「そして今のスキアパレッリの状況だ・・・」
冷汗をひとすじ垂らすハリコフ。
ハリコフ「・・・人類に友好的ではない可能性だってある。」