翼2

透明な翼は黒く見える|女の哲学

折れ曲がり煤け
羽は抜け落ち
ボロボロになった右の翼。
折りたたんで
そこにあることも忘れてしまった。
 
たまに左の翼だけで飛ぼうとすると
バランスを崩し大地に墜落する。
 
そしていつしか翼があることも忘れ
初めて降り立った大地の
珍しい香りに時間を忘れた。
 
やがて大気の重さにも慣れ
地上の引力も気にならなくなった。
 
それでも地上の生活は
偽りとは言えぬが
真実だともいえなかった。
 
あなたと出会ったから。

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あなたは不思議な顔をする。
「なぜ翼を使わないのか」と。
 
    「いえいえ
     私の翼は折れ曲がり
     とうに失くしてしまいました。」
 
       あなたは怪訝な顔をする。
        「そんなに大きな翼があるのに」と。
 
            「私は地上に落ちたのです。
             奇麗な翼はありません。」
 
                あなたは笑って言い放つ。
                 「その透明なからだには
                  大きな翼が光っているよ」と。
 
ああ、
なぜ気が付かなかったんだろう。
 

今の私の眼には
透明は黒く見えるのだった。
地上の幻影に惑わされ
忘れていた真実の姿

 
傷は強さだった
怒りは許しだった
失望は感謝だった
悲しみは喜びだった
  
真実の眼で見た時
そこには巨大な一対の
純白の翼が青空を映していた。
折れ曲がり煤けて見えたのは
プリズムの悪戯
 
大きな翼は
故郷からの風を受け
大きく大きく羽ばたいた。
 
懐かしい空
全身にかかる風圧
重力のない上昇気流
翼に踊る水蒸気
駆け抜ける稲妻
真っ直ぐに降り注ぐ光
何もない真空
際限のない青
紺色のグラデーション
金銀に瞬く星
漆黒に膨らむ銀河
影のない光
光のない闇
 
おもいだした
わたしはわたしだった
永遠の
 
白く輝く翼は
誓いの印
 
あなたとわたしが
 はるか遠い
果ての果てで交わした
 
最初からひとつの
再会のための
 

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 (Photo: Grand Canyon) ©Mikarin) 



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