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【読書】「大川の水」芥川龍之介 〜龍之介さん、涙していて可愛い〜

芥川龍之介の随筆が好きだ。
正直、小説は、堅苦しい感じがして難しかった。
角川文庫の『羅生門・鼻・芋粥』に収録されている「尾形了斎覚え書」は、漢字が多くて読みづらそうだったから、飛ばした。

そんななかで、「大川の水」に出会った。
川の水の描写が目に浮かぶようだったし、何よりも、「大川」を、そして「東京」を愛する芥川の心が素敵で感動した。

「すべての市は、その市に固有なにおいを持っている。フロレンスのにおいは、イリスの白い花と埃と靄と古の絵画のニスとのにおいである」(メレジュコウスキイ)もし自分に「東京」のにおいを問う人があるならば、自分は大川の水のにおいと答えるのに何の躊躇もしないであろう。独りにおいのみではない。大川の水の色、大川の水のひびきは、我が愛する「東京」の色であり、声でなければならない。自分は大川あるがゆえに、「東京」を愛し、「東京」あるがゆえに、生活を愛するのである

「大川の水」-芥川龍之介 ※太字は記事作成者


「大川」そして「東京」への「好き」が伝わってくる。
心がときめく感じ。

あれ?芥川龍之介ってこんな人なんだ。
大学への入学前の課題で「羅生門」「鼻」を読んだけど、なんか難しい、という印象で、ちょっと苦手意識があった。
でも、芥川龍之介というこの人は、私はなんだか好きかもしれない。

同じ本に収録されていた「葬儀記」も読んでみた。
夏目漱石先生のお葬式のことが書かれていた。

 僕はとうとうやりきれなくなって、泣いてしまった。隣にいた後藤君が、けげんな顔をして、僕の方を見たのは、いまだによく覚えている。
 それから、何がどうしたか、それは少しも判然しない。

 涙の乾いた後には、何だか張合ない疲労ばかりが残った。会葬者の名刺を束にする。弔電や宿所書きを一つにする。それから、葬儀式場の外の往来で、柩車の火葬場へ行くのを見送った。
 その後は、ただ、頭がぼんやりして、眠いということよりほかに、何も考えられなかった。

「葬儀記」-芥川龍之介

繰り返しになるけど、小説の印象から、この人はもっと堅苦しい人かと思っていた。
慕っていた人の死と向き合い涙を流し、何も考えられなくなって、眠くなっている姿がなんだか可愛らしく思えた。

そういえば、「大川の水」でも、夕暮れに渡し船に乗りながら見た大川の景色に、「思わず涙を流した」と書いてあった。
ほかの随筆にも、友人が小説を苦しんで書いている姿を見て涙したことが書かれていた。
芥川龍之介は、意外と涙しやすい人だったんだろうか。

涙しやすいって、なんだか魅力的にも思える。
弱さ」を見せているからだろうか。
太宰治の作品にも通じるけれど、「弱さ」があるから人を魅力的に思うのかもしれない。

私は、自分の「弱さ」をまだ認められていない。
他人に見せることにも抵抗がある。
けれど、他人の弱さに魅力を感じている自分がいるということは、私もちょっとくらい「弱さ」が見えたほうがよいのかもしれない。

文豪たちの作品を読みながら、そんなことを感じています。

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