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雨音の旅〜奈良・信貴山宿坊から唐招提寺・御影堂特別拝観へ

6月の奈良へ。
6月6日、鑑真和上のご命日に合わせ、年に数日間だけ公開される唐招提寺・御影堂の鑑真和上像と、東山魁夷画伯の襖絵に会いに行きます。

せっかくなので信貴山の宿坊に泊まろうと楽しみにしていたものの、天気予報は大雨。
今回ばかりはリスケすると1年後になってしまうので、かなり悩みました。
関西は午後から雨が激しくなるということで、予定を早め、早朝の新幹線で出発。
JRが運休になる前に最寄り駅へ着くことができましたが、既に10分歩いたらずぶ濡れになるような大雨。
タイミングよく停まってくれたタクシーに乗り、山の中腹にある宿坊、信貴山玉蔵院を目指します。

峠道を登っていくと、前のトラックがハザードをたいて止まっていました。
運転手さんがわざわざ降りてきて、大きな倒木が道を塞いでいると説明してくれます。
前日からの雨で地盤がゆるみ、倒れたようです。
宿坊まではまだ1キロ以上の距離。
ずぶ濡れを覚悟して歩くか…と思っていたら、町の職員の方々が駆けつけ、のこぎりで倒木を切りはじめました。
停まっていた車の運転手さんたちも次々と走り寄り、濡れるのも厭わず倒木の撤去を手伝っています。
奈良の人たち、いい人…

無事倒木が取り除かれ、親切な運転手さんに助けられて、宿坊に到着。


予定より何時間も早く着いてしまったのですが「事情が事情なので…」とロビーに迎え入れて熱いお茶を出していただき、お部屋も早めに使わせてもらって、本当にありがたかったです。
何度でも書きますが、奈良の人たち、いい人…!

宿坊の施設は豪華ではないけれど、新しく清潔で、とても気持ちがいいです。
テレビがない部屋で、雨にけぶる山を見ながら静かに本を読んだり、ヨガをしたり。
家にいると、常にやるべき家事や仕事に追われているので、こんなゆったりした時間は久しぶりです。

夕方には雨足も弱まり、本堂のご本尊、毘沙門天さまにご挨拶に行きました。
信貴山は聖徳太子ゆかりの地。
毘沙門天さまが、日本で最初に出現した場所と言われています。

緑ゆたかな山内を散策した後は、お楽しみの夕食。
精進料理は見た目も鮮やかで体にやさしく、心配りに気持ちがふっくら満たされます。

食事の席では、ひとり旅の女性2人と同じお部屋になり、声をかけていただいて会話が弾みました。
神社仏閣好きの人が周りにあまりいないので、お寺トークで盛り上がれてうれしい・・・!

降り続いた雨も翌朝には上がり、明け方4時すぎから真言密教の最秘法と言われる護摩祈祷に参加。
(縁日なので、いつもより開始時間が早かったようです)

静寂の中、薄暗がりの浴油堂に炎が燃え上がり、おごそかな雰囲気に圧倒されます。
お客さんは7割くらい外国の方で、住職さまは日本語と英語、両方でお寺の説明をしてくださいます。

5時すぎからは本堂に場所を移してのおつとめと、ご祈祷。
その後、まだ人が少ない朝の山内をゆっくり歩きました。

聖徳太子の前に毘沙門天が現れたのが寅の年、寅の日、寅の刻だったということで、山内のあちこちにある寅スポットを巡るのも楽しいです。

いい気分で部屋に戻り、空気を入れ替えようと窓を開けたら、大きな百足がぽとりと落ちてきてびっくり仰天。
食事のとき、30年来の常連という素敵なご婦人に話したら「百足は毘沙門天のお使い。ここでは吉兆なんですよ」と教えていただきました。
「毘沙門天さまは何でも願いを叶えてくださる」とお坊さんに聞き、あれもこれもとたくさんお願いをした私。
「しょうがないやつだなあ」とお使いの百足がわざわざ会いに?来てくれたのに。
私ときたらぎゃあと悲鳴を上げ、ぴしゃりと窓を閉めてしまいました。
ごめんなさい百足さん…
境内のあちこちにある百足の彫刻に、あらためて手を合わせました。

「毘沙門天王」の文字の左右に、黄金の百足が!

清々しい気持ちで信貴山を降り、唐招提寺に向かいます。
何度訪ねても、やさしく大らかで気持ちのいい場所。

鑑真和上像が安置されている御影堂へ入るには時間帯ごとに整理券が必要なのですが、朝のうちに着いたので、待ち時間なくスムーズに拝観することができました。

苦難を重ね命がけで日本へたどり着いた和上の姿をお弟子さんが写したという坐像は、ただただ穏やかなお顔で胸を打たれます。

そして東山魁夷の代表作である御影堂の襖絵。
盲目になった鑑真和上が見られなかった日本の海と山、和上がついに帰ることができなかったふるさと中国の風景が描かれています。
それぞれの場面に物語があり、この上なく静謐なのに映画を観ているようにドラマチックです。
和上の情熱にふれた東山画伯もまた、命がけでこの作品に取り組んだのだと思います。
しばらく身動きできないほど心ゆさぶられました。
本当に来てよかった。

いつでも今日のことを思い出せるよう、2021年にひらかれた障壁画展の図録を買いもとめます。

とても大きくてあたたかい贈りものを受けとったような気持ちで、西ノ京を後にしました。


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