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Naked Desire〜姫君たちの野望

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舞台は西暦2800年代。 世界は政治、経済、そして文化のグローバル化並びにボーダーレス化が進み、従来の「国境「国家」という概念が意味をなさなくなっていた。 欧州大陸にある、…
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2019年6月の記事一覧

Naked Desire〜姫君たちの野望

第5回 メモワール-5

「お祖父様、なんだけどさ……」
「なんだい?」
「確かに晩年は、影響を窺わせる行動や言動が多かったけど、それでも皇太孫様のことは、最後まで気にかけていたと思うの」
「ああ、いわれてみれば確かにな」夫は頷いた。
「自分の意識がはっきりしているうちにと、皇太孫様を呼んで、二人きりで話し合っていたようだね」
「皇太孫様も、お祖父様の生きている時は、その教えを守ろうと努力していた

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Naked Desire〜姫君たちの野望

第4回 メモワール その4

「高そうなお酒ね? どんなお酒なの?」
と、私は夫に質問した。
「ヘネシー家当主6代目の生誕100周年を記念し、今から7世紀以上前のコニャックをブレンドして作られた一品だ。たぶん、ボトル1本20万フロリンはくだらないだろうな」
「ボトル1本で20万フロリン!」
貧困層の年収の倍以上じゃない! 私は絶句した。
このご時世に、吞気にそんな酒を引っ張り出す彼の神経がわか

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Naked Desire〜姫君たちの野望

第3回 メモワール その3

そして勢いよく立ち上がると、窓に映る景色を見つめた。
暗闇の中に、部屋から漏れる光が、幻想的な光景を生み出している。
それを眺めながら、私は知り合いから、日本に古くから伝わる昔話を思い出した。
ある日、民のかまどから煙が上っていない光景を目にした天皇は、その理由を家臣に問うた。
家臣は天皇に、税金が重すぎるから、民のかまどから煙が立たないのですと返答した。
その話を

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Naked Desire〜姫君たちの野望

第2回 メモワール その2

ところがそんなある日、意外なところから虐げられる者のために立ち上がる勢力が現れた。そしてその勢力の中心人物は、私もよく知る人物だった。
そして彼らは旧勢力を打倒し、中心人物は新皇帝として即位した。
人々は狂喜乱舞した。ついに、自分たちの願いを聞き届けてくれる人間が現れたと。
国民は口々に
「新皇帝万歳!」
と叫んだ。
国中の至る所に、新皇帝を称えるポスターが貼られ、

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Naked Desire〜姫君たちの野望

Naked Desire〜姫君たちの野望

第1回 メモワール その1

宮殿の自室の窓からみえる、月明かりに照らし出された景色を一人で眺めながら、私は過去を振り返っていた。
手の届かない場所に行ってしまった人たちの顔を。
そして、二度と戻ってこない景色を。

私の暮らす国では、これまでありとあらゆる不条理がまかり通っていた。
差別。
嘘。
本音と建て前の乖離。
弱者に対する侮辱行為。
富の偏在。
えこひいき。
拡大する格差問題と、固定化

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