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#26(昔話)南街会館

南街会館の思い出

 Save the Cinema in My Memory として昔あった映画館の思い出話を書くと宣言してみたものの、どこから書こうかなあ…と考えて浮かんできたのは、やっぱり南街会館でした。現在のTOHOシネマズなんばの場所に、2004年頃まであったでしょうか。南大阪で生まれ育った私には、大阪で大きな映画館と言えば南街会館でした。中学生くらいまでは、買い物でも遊びでも難波まで出ることは少なく、難波といえば大都会。地元の中心街で毎年の映画ドラえもんを上映している映画館とは違って、大きなスクリーンでハリウッド映画を上映しているのが大都会の南街会館、と認識していました。

南街会館の場所とかスクリーンとか

 現在は、なんばマルイが入るビルの最上階にTOHOシネマズなんばが入っていますが、南街会館の頃は、建物全部が映画館でした。入口も、高島屋に面した側に映画館の正面入口がありました。6階くらいまであったでしょうか。1階、3階、6階みたいに、間の階をとばして劇場入口があったように記憶しています。各スクリーンの名前も、今のようにスクリーン1、2などでなく、南街劇場、南街スカラ座、南街東宝、といったものでした。特に、1階の南街劇場がものすごく大きな劇場でした。

南街劇場の大スクリーン

 その南街劇場で『スピード』を見ました。キアヌ・リーブスとサンドラ・ブロック主演、ヤン・デ・ボン監督のアクション大作です。それまで、『ダイ・ハード』や『ダイ・ハード2』あたりのアクション映画が大好きでしたが、ビデオでしか見たことがありませんでした。当時、映画館に行くのは年に数回、春休みや夏休みの特別なお出かけといったところで、映画はレンタルビデオで見るのが中心でした。そんな頃に南街劇場の大スクリーンで『スピード』を見たら、度肝を抜かれました。このとき、映画館で見ることの衝撃を思い知ったというか、やっぱり映画は映画館で見なきゃ、と痛感しました。今こんなに、DVDや配信など自宅での視聴手段がいくらでもある時代になったのに、私が映画館通いをやめられないのは、このあたりの原体験を引きずっているからのような気がします。

初めてのひとり映画

 また、南街会館は私が初めて映画をひとりきりで見に行った映画館でした。年齢がバレそうなので詳しくは言いませんが、初めてひとりで見に行った映画は『フォレスト・ガンプ/一期一会』でした。トム・ハンクス主演のロバート・ゼメキス監督作で、ベトナム戦争の頃のアメリカを生きたひとりの男性の生涯を描いた物語です。アカデミー賞受賞作というのが気になってどうしても見たくて、親に買ってきてもらった前売券を手に、南街会館へ行きました。

 今思えば、たぶん『スピード』を見に行ったときに予告編でも見たんでしょうね。『スピード』の衝撃で映画熱が冷めやらず、どうしても映画館で見たくなったものの、それまで年に数回しか映画館に行かないような生活をしていたのに、またすぐに映画を見に行こうと友達を誘うわけにもいかず、ひとりで見に行くことにしました。

 当時は大都会に思えた難波の映画館に、友達と遊びに行くでもなくひとりきりで行くのが、何とも心細かった記憶があります。初めてひとりで行った映画館にはカップルのお兄さんお姉さんが多く、なんだか場違いで命を取られそうな気もしてきて、とても緊張したものです。その分、見終えて映画館を後にするとき、「あ、ひとりで映画を見に行っても別に大丈夫なんだ(命取られなかったし)」とすっかり安心して、とても爽やかな気分になっていました。

 のちに大学生になって梅田の映画館に行くようになったとき、18歳女子が友達と映画を見に行くでもなくフラフラひとりで梅田のあちこちの映画館を回るようになったのには、間違いなくこのときの南街会館でのぼっち体験が影響していると思います。だってほら、田舎から出てきた10代女子が、いきなりひとりで梅田ロフトの地下のテアトル梅田に続く階段を降りるとか、ちょっとハードルあると思いません? でも、ひとり映画に耐性ができていた私は、三番街の地下街で迷って梅田ロフトにたどり着けなくなる不安はあったものの、テアトル梅田の扉は案外平気で開けたように思います。あ、いや、テアトル梅田が私は大好きで、褒めているつもりですけどね。今やもう、あの地下へ続く階段は、私を吸い込むブラックホールにしか思えません。あれ? なんだか書けば書くほど妙な方向に行きそうなので、話を戻します。

 ひとりで見た『フォレスト・ガンプ』はどうだったのかというと、このときの私にはなんだかよくわかりませんでした。「こういうのがアカデミー賞の作品賞なのか…ふむ」という感じでしょうか。「だって『スピード』のほうがよっぽど面白かったし」なんて思っていました。

ラストショー

 その後も、ちょくちょく南街会館に映画を見に行っていましたが、大学生になってからは梅田で映画を見ることが多くなり、さらに就職してからは職場が南大阪になったのもあって、しばらく南街会館に行っていませんでした。そんな頃に知ったのが、南街会館が閉館するという話。たしか2004年に入ってすぐくらいのことでした。建て替えて新しい映画館ができるということで、映画館がなくなってしまうわけではないとわかっていたものの、なんとも寂しい気分でした。

 南街会館の閉館直前には、ラストショーがありました。閉館前に洋画、邦画の名作をそれぞれ一挙上映するもので、鑑賞料金はワンコインの500円だったと思います。上映作品の中には『フォレスト・ガンプ』もありました。初めてひとりで見に行った映画ということで印象に残っていたので、ラストショーでの上映を見に行ったように思うのですが、記憶が定かではありません。時間が合わず、見られなかったのかもしれません。見たのか見なかったのかはっきり覚えていませんが、いずれにしても、この時点では『フォレスト・ガンプ』はやっぱりまだ私には響いておらず、その良さを理解するのはさらに数年後のことになります。

 それよりもラストショーで見た映画ではっきり覚えているのが、『トップガン』です。大好きな映画でしたが、それまではビデオでしか見たことがなく、このとき初めて映画館で見ました。上映劇場は、上のほうの階にある一番小さなスクリーンだったと思います。当時の劇場は座席の傾斜もあまりなく、前の人の頭が邪魔になるようなつくりでしたが、ラストショーはさほど混み合っておらず、小さめのスクリーンでも映画館で見る『トップガン』は十分迫力がありました。昔から、迫力のあるハリウッド映画を見るのはここ、と思っていた南街会館で、最後に『トップガン』を見ることができたのが、なんとも嬉しかったのを覚えています。

記念碑

 ラストショーが終わり、南街会館が取り壊され、ああ、本当になくなったんだな…と難波に行くたびになんだか寂しくなる日がしばらく続きましたが、そうこうしているうちに、なんばマルイが完成し、8階にTOHOシネマズなんばがオープンしました。オープンは2006年だったでしょうか。初めて行ったのがいつだったか忘れましたが、スクリーン数が多く、プレミアスクリーンなんていう豪華な座席の劇場もあり、どの劇場も傾斜が大きくてどの座席からでもスクリーンが見やすく、この映画館でこれからたくさん映画が見られるかと思うと心躍る気分でした。

 その後いつだったか、1階のエレベーターホールで直通エレベーターを待っていたとき、ふと目にしたのが、南街会館が映画興行発祥の地であることを記した記念碑でした。なんだか、「ああ、ここにまだちゃんと南街会館がある」と思えて、なんとも懐かしくて嬉しくて、その日は見に行った映画よりも記念碑の方が印象深かったように思います。

 今ではもうTOHOシネマズなんばに南街会館の面影なんてないのに、私にとって、あの地にある映画館は、いつまでも南街会館のような気がしています。

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