見出し画像

#28(昔話)北野劇場

大きな大きな映画館

 今回の昔話は、北野劇場です。現在はTOHOシネマズ梅田のスクリーン1になっているところが、TOHOシネマズ梅田になる前は北野劇場と呼ばれていました。現在でもTOHOシネマズ梅田のスクリーン1はDOLBY ATMOSが入るTCXシアターとなっていて、大迫力の洋画の大作が上映されています。昔から、北野劇場は洋画系のハリウッド大作が上映される大きな劇場でした。

 昔は、今のTOHOシネマズ梅田の本館8階の場所に東宝系の北野劇場、梅田劇場、梅田スカラ座がありました。また、ホワイティ梅田の泉の広場を上がったところには松竹系の梅田ピカデリーがあり、大阪駅前第三ビルのすぐ南の曽根崎新地に東映系の梅田東映会館がありました。大阪ステーションシティシネマ梅田ブルク7ができる前の話です。この頃、北野劇場は梅田ピカデリーや梅田東映会館に比べて駅に近くてアクセスが良く、圧倒的に大きな映画館、という印象がありました。

『タイタニック』の狂騒

 そんな北野劇場で『タイタニック』を見ました。それも、公開直後の元日に。たしか『タイタニック』は、お正月映画として1997年の12月に公開されました。当時から毎月1日は映画の日で、サービス料金1,000円で鑑賞できたため、私はよく1日を狙って映画を見に行っていました。そういえばこの当時は、12月1日だけでなく毎月1日が全部1,000円でしたね。その後、サービス料金が1,100円、1,200円、と値上がりしたときに、12月1日だけは映画の日として1,000円のまま据え置きとなり、現在の形になりました。

 話がそれました。当時の私は、元日は商業施設もお休みだと思い込んでいて、1月1日に映画を見に行ったことはありませんでした。それがこの年、何気なく映画館の上映スケジュールを見ていたときに、元日でも映画館は営業していて、しかも1日だから1,000円で見られることに気づきました。

 例年、私の家では元旦はゆっくり起き出して、昼過ぎからおせちやお雑煮を食べ、夕方近くになってようやく、暗くなる前にと近所の神社に家族でお参りに行くのが恒例でした。家族みんなゆっくり過ごしているので、誰も元旦から映画館に行こうとはしません。ただ、元旦から家族と過ごさず外出するなんてけしからん、と言われるような家でもなかったため、映画を見に行きたいというと、じゃあ勝手に行っておいで、という感じになりました。当時、お正月は家で過ごすもの、という感覚で、まだ携帯電話も持っていなかったので、一緒に行こうと友人を誘うこともできません。そこで、ひとり梅田まで『タイタニック』を見に行くことにしました。

 『タイタニック』と言えば、いまだに日本の歴代興行収入の第2位に君臨している大ヒット映画です。1位は『千と千尋の神隠し』なので、洋画ではトップです。そんな映画の公開直後の元日のサービスデイがどうだったかというと、もうとんでもないことになっていました。当時は今のような座席指定はありません。ただ、ようやく各回入替制になり上映時間ごとにチケットを取るようになっていたか、または立ち見が出るほどの混雑時は入替制にしていたか、そんな頃だったと思います。若い方はご存知ないかもしれませんが、昔の映画館は各回入替制ではなく、映画の途中から入って次の回の途中まで見るとか、2回続けて見るとか、自由な時代がありました。

 また話がそれました。座席指定がなかった頃の北野劇場での『タイタニック』の上映時、それも公開直後のサービスデイの元日の映画館のロビーは、大勢の人でごった返していました。それまで元日に映画を見に行くという意識自体がなかった私は、元日なんてみんな家にいて映画館は空いているんじゃないか、などと思っていたので、みんな元日からこんなに映画館に来るものなのか!と驚きました。

 ものすごい人出に面食らいつつ、なんとかチケットを購入し、入場待ちの列に並びました。あまりの人の多さに、普段は使わないような廊下だったか階段だったかにまで、入場待ちで並んでいたような記憶があります。ようやく劇場内に入ることができたと思ったら、もう座席は全部埋まっていました。

 座席指定のある現在では、座席数分のチケットが売れたら完売となりますが、当時は座席指定がないため、立ち見がありました。入場後、「まだ立ち見なら大丈夫です」と言われ、仕方なく立ち見することにしました。『タイタニック』は3時間以上ある映画なので、今この歳では立ち見なんて考えられませんが、若かった当時は、仕方ないか…と受け入れていました。まあ、立ち見が嫌で次の回まで待つとしても3時間以上あって、しかも座席指定がないから、次の回を見るなら入場待ちの列にずっと並んでいないといけないわけです。もうそれなら3時間立ち見しよう、となったのだと思います。

 1階席の一番後ろで、胸くらいの高さのところにあるバーに寄りかかりながら、立ち見で3時間以上の『タイタニック』を見ました。でも、立ち見で疲れた記憶はまったくありません。傾くタイタニック号の船内で右往左往する乗客の様子やダイナミックな映像など、緊張感あふれる場面の連続で、3時間という時間を忘れる面白さでした。

二十年後の『タイタニック』

 あれから20年が経過した2018年の午前十時の映画祭9で、『タイタニック』が上映ラインナップに入っていました。2年前の4月、TOHOシネマズなんばの別館で上映された『タイタニック』を見に行きました。TOHOシネマズなんば別館のスクリーンは北野劇場ほど大きくはないものの、20年のときを経て見る『タイタニック』は昔と変わらず大迫力で、色あせることのない面白い映画でした。今見てもこれほど面白いわけだから、劇場公開当時はどれほどすごかったことか。そう思うと、劇場公開時に北野劇場の大スクリーンで『タイタニック』を見ることができたのは、とても幸せなことだったな、と思います。

この記事が参加している募集

映画館の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?