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【季節のおすすめ絵本】6月:お父さん

この季節だからこそ、味わいたい絵本、というものがあります。
もちろん、子どもたちが、真冬に水遊びの絵本が読みたくなったり、雪だるまの絵本が好きすぎて1年中楽しんだりする姿も、それはそれで微笑ましいので、あんまり厳密に「絵本を使って季節を教えよう!」とは思わないのですが。
もっと緩やかな感覚で、〈今年も、この季節だなぁ〉とか思いながら、手に取りたい絵本があってもいいよね、という想いで、月ごとの絵本をご紹介していこうと思います。

先月は、「母の日」にちなんで、「お母さんに届けたい」絵本をご紹介しました。

6月は、父の日、ということで、「お父さん」の絵本をご紹介していきます。

絵本の世界で、お母さんは「子どもに充分に愛情を注ぐ存在」として描かれることが多いです。(そういう「お母さん像」だけじゃなくてもいいのにね、と思った気持ちは、5月の絵本紹介の記事で書いた通りです。)また、おじいさん/おばあさんは、知恵者であったり、子どもをフラットな視点で見守る存在として活躍します。日本の昔話の登場人物がおじいさん/おばあさんであることが多いのは、現役世代ではない彼らだからこそ、子どもの持つ異世界と繋がるチカラを理解できるからだとも言われています。

一方、お父さんは、そういう「絵本における型」からは比較的自由なので、色々な描かれ方をする、色々なお父さんに出会えるんじゃないかな、と期待して、今月の本を探しました。

1つ驚いたことがあります。今回紹介しようと思っていた絵本の中で、書店(や絵本ナビ)での取り扱いが終わっている絵本が多かったのです。お父さんに求められる役割が変わってくる中で、昔ながらの「お父さん像」が時代に合わなくなったのかしら、と、少し余計な心配をしていますが、実際の理由は分かりません。単に私の選んだ絵本が古かっただけかもしれませんし。

小さなお子さんのいる家庭において、父親に求められることは、確かに変わってきていて、実際に父親の振る舞いも変わっていると感じます。例えば、10年前は、保育園で開催した「子育て講座」に講師として呼ばれると、参加者はほとんどが母親でした。今ではお子さんを連れて夫婦で参加する人が増えています。

父親と母親の双方が、我が子の育ちにじっくり関わるのはとても大切なことだと思っています。ただ私は、せっかく2人いるのだから、2人が同じ役割を分担するだけではなく、異なるアプローチをしてもいいと思っています。叱る人と共感する人、とか。遊ぶ人と見守る人、とか。現実を伝える人と広い世界を伝える人、とか。
もちろん、その役割も固定ではなく、場面場面に応じて、変わってもいい。

そんなことを考えながら、子どもに対して様々なアプローチをしている「親」の姿の一例として本を選びました。

まずは、おなじみ、くまたくんの絵本から。

おとうさんあそぼう』わたなべしげお:作 大友康夫:絵 福音館書店
くまたくんの絵本は、お父さんの登場頻度が高いです。この絵本は、題名の通りお父さんと一緒に遊びますし、『おふろだ、おふろだ!』は、お父さんと2人でお風呂に入るお話です。自身の三男・光太くんがモデルだと言われている「くまたくん」とお父さんとのやりとりは、渡辺茂男さん自身の姿なのかもしれません。
この絵本に出てくるのは、「たかいたかい」や「ひこうき」など、身体を使って親子で存分に楽しめる遊びばかりです。絵本を読んで、「ぼくも/わたしも、ひこうきして!」みたいに、リアルな遊びに発展したら楽しいですね。

お父さんと遊ぶ絵本をもう1冊。

おうまさんしてー!」三浦太郎:作 こぐま社
三浦太郎さんが有名になるきっかけとなった『くっついた』を、友達のお子さんの出産祝いに贈ったことがあります。学生時代に一緒に人形劇をやっていた男性でしたが、絵本を読んで、ちょっと悲しそうに言ったんです。「おとうさん〈も〉、って、いわないでよー」って。お母さんのおまけみたいに感じたのかもしれません。
彼に、こんな絵本が出たよ、と教えてあげたい気がします。パパと一緒に遊ぶ姿を通して、誰かと触れ合いながら遊ぶことの喜びや嬉しさが一杯感じられます。

子どもの目から見れば、お父さんは頼りなく見えることもあるのかもしれません。

とうさんまいご』五味太郎:作 偕成社
〈ぼく〉が迷子になったのではなく、〈とうさん〉が迷子になった、という視点がすてき。ページを開くのが楽しくなる仕掛け絵本です。
〈とうさん〉の落ち着きはらった雰囲気が、とてもいいんですよね。淡々としているからこその、妙なおかしさが感じられます。

飄々とした雰囲気の〈とうさん〉の絵本は、まだあります。

おりょうりとうさん』さとうわきこ:作 フレーベル館
肩肘張らない雰囲気のとうさんが、カレーライスを作ってくれるお話。とうさんが料理をすることが珍しい、とか、とうさんにはお料理されたくない、と玉ねぎやにんじんが逃げ出したり、とか、今だったら少々批判されるかもしれません。ただ、『ばばばあちゃん』で有名な、さとうわきこさんの描く人物像は軽やかで、人としての魅力があるので、時代的な価値観の違い、みたいなものは、私は気になりませんでした。
『だいすきとうさん』『おもしろとうさん』と3部作のようになっています。

一味ちがう「とうさん」像も。

ねえとうさん』佐野洋子:作 小学館
久しぶりに返ってきたとうさんの姿に、圧倒的な頼もしさと、かっこよさと、憧れを抱くこぐまのお話。とうさんが、どんな風にかっこいいのかは、具体的には描かれていないのですが、こぐまの振る舞いから、その頼もしさが伝わってきます。
とうさんに憧れて、くまらしいくまになろう、と決めるこぐまの姿が、とても愛おしい。こんな風に、誰かへの憧れが、自分の心の支えになるんですよね。

親の役割とは何か、考えさせられる本。

おとうさんのちず』 ユリ・シュルヴィッツ:作 さくまゆみこ:訳 あすなろ書房
戦禍を逃れて、新しい土地で暮らし始めた家族。パンを買うお金でおとうさんが買ってきたものは、1枚の地図でした。地図は、少年の心の扉となり、広い世界へと想いを馳せるきっかけとなり、希望を与えます。
ものすごく色々な解釈のできるお話だと思います。生きるために必要なものは何か。そして、親の役割は何か。地図は何の象徴なのだろうかと。1人1人の解釈全てが正解なんだろうな、そういう本です。

最後に紹介するのは、「おとうさん絵本」の代表と言ってよい本だと、、私は思っています。元は学研から出版され、その後、復刊ドットコムでも出たようですが、現在絵本ナビサイトでは取扱いが終わっています。いい本なのになぁ。

きはなんにもいわないの』片山健:作 復刊ドットコム
公園に出かけて「き」になるお父さん。すーくんが木に登り、虫に驚き、降りるのがこわくなったりする様子を、何も言わずに、じっとじっと見守っています。心の中で、ずっと「きはなんにもいわないの」と言いながら。
『おとうさんのちず』に比べて、親の役割が、この絵本の方が明確に描かれていると思います。子どもの手を離し、じっと見守り、何も言わずに、ただ見守る。とはいえ、子どもの手を離しても、こどもがよじ登れるくらいには頼りがいもあり、拠りどころにもなってくれる。そして、見守ることは、親にとっても喜びであることも伝わってきます。
親だから、当然、何か言いたくなります。このお父さんも、色々言いたい、アドバイスしたい、助けたい・・・と感じる自分を抑えるつもりで、「きはなんにもいわないの」って言っていたのかもしれませんね。
今度、お子さんと公園にいったら、「き」になったつもりで、何にも言わずに、子どもの様子を見守っていてください。きっと、子どもの成長に、一杯一杯気づくことと思います。

いかがでしたか。
1人1人異なるお父さんの姿が描かれましたが、現実の「お父さん」も、もちろん1人1人異なることと思います。自分らしい「お父さん」になって、お子さんと幸せな時間を過ごしてくださいね。

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