スピンオフ小説「1/3の失恋」-7
第 13 章
部活の後、職員室の片隅で、Y先生に相談に乗ってもらってるアタシの名前は、山神恵子。
中学3年生の女子だよ。
部活は吹奏楽部で、クラリネットを吹いてるの。
実はアタシの何気ない行動で、色んな人を傷付けてるって分かって、ただいま落ち込み気味なの…。
吹奏楽部の顧問のY先生に悩みを聞いてもらってるんだけど、肝心のアタシの本音はどうなんだ?って聞かれてて…
「先生、建前とかじゃなく、女子の、アタシの本音として聞いて下さいね」
「おお。分かったよ」
「アタシ、現状はN先輩という彼氏がいる状態だけど、本音は…別れたいです。別れて、ミエハルくんに謝ってから、改めて好きって告白したいです」
「そうか、それがお前の本音か」
「はい」
「…じゃあ、俺も秘密の話を独り言で喋るけど、聞き流してくれるか?」
「あっ、はい…?」
「んー、各クラスの担任は、絶対自分のクラスにほしい生徒を、クラス替えの時に5人まで指名出来るんだよなあ。俺はミエハルが吹奏楽の部長職で心配だから、ミエハルは俺のクラスにしてくれって言った。あと、ミエハルが部活で仲がいい女子も同じクラスにしてやりたかったから、2人ほど指名したんだが、そのうち1人は指名が被ったんだよなぁ。俺は既にミエハルで1人分先に枠を使わせてもらったから、指名が被った生徒は、泣く泣く譲らなきゃいけないんだなぁ。だからミエハルと同じクラスにしてやりたかったんだけど、出来なかった女子が1人いるんだ。その女子が誰だとは言わんけど、どうかその女子には、これからもミエハルを嫌いにならないでやってほしいと、俺は思ってるんだよな。無理して年上と付き合わんでもいいとも思うし。今までと同じように、ミエハルに話しかけてみてほしい、と思ってる。以上、独り言終わり!」
アタシは涙がポロポロと流れてきたよ。先生の独り言だから、答えちゃいけないのかもしれないけど、先生に背中を押してもらえたよ。
「せ、先生、ありがとう…」
「いやいや、何処の誰が言ったかよく分からんけど、人間何歳になっても、素直な気持ちを大切に、ってことだな、うん」
「また明日から、気持ちを入れ替えるね、先生!」
「おお、暗くなってきたから、帰り道は気を付けるんだぞ。じゃあな」
「ありがとうございました!」
アタシは、元気を取り戻せた気がする。
ミエハルくんだって、もしかしたら意地を張ってアタシや他の女の子と喋らないだけかもしれないし。
だって、後輩の女の子とは普通に喋ってるしね。
特にアタシのクラリネットの2年生の後輩、MちゃんとFちゃんは、いつもクラの片付けが遅くて、ミエハルくんに目を付けられてて、毎日のようにドアに鍵をかけるカウントダウンしたりして、楽しそうに喋ってるから。
うん、ミエハルくんに普通に話しかけてみようっと♪
第 14 章
「ケイちゃん、最近、悩んでた?」
ある日の部活で、Tちゃんに聞かれたの。
「うっ、うん。ちょっとね」
とだけ、アタシは返した。
「もうその悩みは解決した?」
「え?なんで?」
「もし解決してたら、アタシの悩みを聞いてほしくて…」
アタシの悩みは二つあって、Y先生のお陰で一つは解決したけど、一つは宙ぶらりんのままだったの。
解決したのは、ミエハルくんと喋れるようになったこと♪
普通の何でもないようなことを女子同士で喋ってて、そこを偶々ミエハルくんが通りかかったから、
「ね、そう思わない?ミエハルくん」
って話し掛けてみたの。そうしたら、
「うっ、うん。よく分かんないけど、山神さんの言う通りじゃない?」
とか、おどけて返してくれたの。
そのなんでもない言葉のキャッチボールが、アタシ、とっても嬉しかったんだよ!(*^^*)
それからも、おはようとか、バイバイとか、会話といえるかどうかはちょっと怪しいけど、全然喋れないってことはなくなったから…。
本当に良かった。まだアタシ、ミエハルくんの心に入り込めるよね?
喋れなかっただけで、ミエハルくんのことを嫌いになったわけじゃなかったから、この数ヶ月…。
もう一つの悩みは、やっぱりN先輩と別れたいってこと。
どうやらN先輩は、アタシの気持ちを察知して、別れたくないからか手紙を書いても返事くれないし、電話しても取り次いでもらえないの。
…そんなんじゃ自然消滅しちゃうじゃん。
アタシは、ケジメはちゃんと付けたいから…。
で、Tちゃんの悩みだったね。どうしたの?
「こんなこと聞けるの、ケイちゃんだけだから聞いてほしいんだけど、ミエハルくんって、アタシのことどう思ってるのかな、なんて」
アタシは一瞬表情が固まったけど、Tちゃんには悟られないようにしてね話を聞き続けたよ。
「去年、アタシの髪の毛の件で、ミエハルくんはアタシを助けてくれたじゃない?でもその後、特にアタシに対して何かアクションがあるわけじゃないし、アタシはその件でミエハルくんには感謝してるけど、何か喋れるようになった訳でもないから、なんとなく気になるだけの存在なのよね。それならアタシ、ミエハルくんはもう気にしないようにして、別の男の子を好きになったほうが良いのかなって…」
アタシには難しい話だった。本音を言えば別の人を好きになっちゃいなよ!って言って、ミエハルくんはアタシのものにしちゃいたい。
だけどTちゃんは、アタシがN先輩とまだ続いてると思ってるから、そんなことしたら泥棒猫!って言いそうだし。
だから当たり障りのない返事しちゃった…。
「今度さ、7月に林間学校があるじゃん?その時がチャンスだと思うよ。ミエハルくんと同じ班になれれば色々喋れるチャンスもあると思うし。せっかく同じクラスになったんだもん、次の男の子に行く前に、ミエハルくんの気持ちを確かめてからにした方が、絶対にいいよ」
でもそこで、ミエハルくんの気持ちがTちゃんにあるって分かったら…。
アタシの密かな恋も終わっちゃう。
じゃあN先輩と続けるか?っていうと、もう嫌。
全然会えないし、アタシからの問い掛けを無視し続けるような卑怯な態度取られたら、やり直すなんて考えられないよ。
自然消滅にしちゃうんだ。
「そうだよね。ケイちゃんの言う通り。半年以上、ミエハルくんのことが気になり続けてたんだもんね。勝手に気になっておいて、勝手に次の人へってのは、ちょっとミエハルくんに失礼かもしれないよね」
「そうだよ、Tちゃん。そういえばね、ミエハルくんと卒業式の後にちょっと話したんだけど、ミエハルくん、自分自身のことを『バレンタインにチョコを義理ですらもらえない、こんなモテない男』って自信喪失してたから、彼女はいないはず。絶対にチャンスはあるのよ、誰にでも…。もしミエハルくんが、他の女の子と付き合ったと想像したら、どう?」
「えっ…それは想像したことなかったけど、うーん…。他の女の子に取られるのは嫌だなぁ」
アタシは、自分のことは棚に上げて、力説しちゃった。なんでだろう…。
「ね、嫌だって感情があるなら、ミエハルくんを諦めちゃダメだよ。もっと部活でもクラスでもミエハルくんとお話しして、彼の良い所を見付けなよ」
アタシはTちゃんに言ってるのか、自分自身に言ってるのか、分かんなくなっちゃった。
「ありがとう、ケイちゃん。うん、せっかくのチャンスなんだし、もう少しミエハルくんのことを知ってから、結論出すね」
この瞬間、アタシとTちゃんは、ミエハルくんを巡るライバルになった…って言えばカッコいいんだけどね。
その日の部活も終わって、今までは帰る時にはミエハルくんに声掛けたりしなかったんだけど、今日は声を掛けてみたよ。
「じゃあね、ミエハルくん。バイバーイ」
「あっ、山神さん、…バイバイ」
相変わらず照れ屋さんなんだね。俯きながら、アタシにバイバイって言ってくれたよ。
ちょっと昨日までよりはいい気持ちで家に帰れたんだけど、そろそろ3年生だけのビッグイベント、林間学校があるんだよね。
その時にアタシ、ミエハルくんに告白出来るかな?💖(n*´ω`*n)エヘヘ
でもまさか、あんな事態が待ってるなんて…
(次回へ続く)
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