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百日紅某日日記。

某日。

実家に帰省する。

同じタイミングで帰省していた小学生の姪が、学校があるときは塗れないからと、夏休みを堪能すべく自分の指にマニキュアを塗って嬉しそうにしている。

男子しかいない我が家にはない光景で微笑ましい。

せっかくの機会なので、外遊びをして剥げてしまった私のネイルを好きな色に塗り直してもらう。

自分ではしないであろう色使い。

嬉しくて、思わず会うみんなに自慢してしまう。


某日。

実家で夢野久作を見つけて読む。

幻想怪奇小説のイメージが強い人だったけれど、人間の心理描写の的確さに打ちのめされる。

「空を飛ぶパラソル」はSNS全盛の今だからこそ「ひとりの人生をぐちゃぐちゃにしてしまう報道や投稿」について考えてしまうし、「いなか、の、じけん」で描かれるスキャンダルには地方ゆえの大らかさと暴力性が入り混じっていて。

もともと記者だったということもあってか、その観察眼や筆力は鮮やか。ぐいぐいと引き込まれていってしまった。

「人間腸詰」には心底ぞっとした。残酷な物語には慣れているつもりだったけれど、これは物語の筋も描写もこわい。この夏一番の納涼だった。

次は「ドグラマグラ」かな。

某日。

夫と私それぞれの実家から帰ってきて、海方面へ旅へ。

結局この8月は数えるほどしか自宅にいなかった。

川に海にプールに、田舎への帰省、スイカ割りに花火に水族館、美術館に博物館と、思いつく楽しいことを次々と実現していった夏だった。

コロナ禍で失われた、ここ数年の子ども達の夏を、取り戻すような。

最後に訪れた海からの帰り道、「今年は、楽しいこといっぱいだったね」と満足そうに笑った子ども達の顔に、彼らが大人になってから、ひとかけらでも思い出すそんな夏になれていたらと願う。



百日紅(さるすべり)。

家の近所に百日紅林を見つけた。朝の金色の光に、濃い花色と葉の緑色に幹の白さが際立ってヨーロッパのどこか田舎の風景のようだった。

祖母の家にあって、幼い頃に聞いた「猿が滑る」というどこか滑稽な印象が塗り替えられた。


昨年は、こちら。いろいろあった夏だった。


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