見出し画像

Wakana Kimura 木村若菜「 美しさ」(5日目)

>>以前の記事を読まれていない方は1日目からどうぞ。

私がロサンゼルスを拠点に選んだ大きな理由の一つは

街が汚い事だ。

カナダ、ブラジル、イタリア、フランス、スペイン、ベルリン、ロンドン、アメリカのニューヨークとアートのための移住先を探して歩いたが、正直どこもしっくり来なかった。

なんだよ、これなら東京の方がよっぽど面白いや。。

ニューヨークで肩を落としていると

「そんなにガッカリするなよ。
ここがダメならロサンゼルスに寄って帰ったら?西は全く違う世界だよ。
こっちに飽きたやつが結構行くから肌に合うかもよ。」

と現地で言われた。

無知だった私は偏見丸出しで、

「え。ロサンゼルス。。。
ハリウッドと*ヒップホップのチャラチャラしたとこじゃんか。」

と、怪訝な顔をしていたが、アメリカ人のポジティブなノリに押されて、日本に行く前にロサンゼルスに立ち寄る航空券を予約していた。
(*後日アメリカの学生相手に講演した際に指摘されたが、正確にはロサンゼルスはラップで、ヒップホップはニューヨークらしい。 )

たった二週間ほどのロサンゼルスだったが、
その短い間に全く有名でないけれど、
アートで食べてるプロアーティストに沢山会う事が出来た。

自由な時間、広い空間、見たことのないプロジェクト。
カッコイイ刺激的な生活をしている人達に沢山沢山出会った。
生きる事を、ものすごく楽しんでいる。

なんなんだここは。。。

プロアーティストなんて世界の一握りの人が掴める
話なんじゃないかと思っていたが、エネルギーの溢れた
不思議な土地だった。

治安は悪いなんてもんじゃないし車も毎日運転しなきゃだし、
タフそうだけどワクワクに押されてそのまま
ロサンゼルス全ての大学院に願書を出して受け入れ先を見つけて、
日本には帰らないつもりで飛び出した。

ロサンゼルスは126ヶ国語が話されていて、
それぞれの人種がいがみ合っていて、何かあるとすぐ暴動が起きる。
ギラギラした超上流階級からゴミのように捨てられている人間もいる。
天国から地獄まで隣り合わせで共存している。

未来の問題も可能性も全てが見える
クリエイティブな人間にとってはこの上なく
魅力的な土地で、正に世界の縮図だった。
人間も街も全てがむき出しで荒く汚い。

しかし汚いからこそ、
そこで美しいものを作る意味があると思った。

仕事がフィットしないので外国に出ただけで日本が大好きなので、日本に戻ると決心が揺らぐから「形になるまで帰らない」と心に決めて突っ走っていた。
いつの間にかそれに慣れてしまって、次に祖国の土を踏んだのは7年後になった。

気づけば初期に掲げた目標は早々にクリアして、
随分遠いところまで来たと思う。

日本は美しい。

日本の人は優しく、感性も美しい。
多分日本にいた頃は、美しさが身近すぎて客観視出来ずに持て余していた。

アメリカの国立公園に遊びに行くと、皆が光に照らされる絶景を眺めている傍、 いつも日本人観光客だけ逆方向の太陽に向かって拝んでいて、微笑んでしまう 。

みんな、私は無宗教と言いながら
自然を拝んだり、食事に手を合わせたりと、
なんて信心深い民族なんだと思う。

日本にいると当たり前の事が、他のどこにもない美しいものだと
とても貴重な事で有り難い事だと思い知る。

最近、日米両国で制作する機会が出来てきた。

雑多なロサンゼルスにいるときアトリエでは、雅楽をBGMに制作する。
私もさぞかし仙人みたいな境地にいるのかと思っていたが、 日本での制作BGMはアメリカンポップスや雑な音楽で、単に中庸を保っていたのに気付かされた。

美しいものに囲まれた人たちはアートに関しても独特の価値観を持っていて
美しすぎて繊細でとても脆い。

15年経って、私が変わってしまったのか。
周りが変わってしまったのか。
それともその両方かはわからないが、
今は美しさよりも、脆さや危うさを見て取れるようになってしまった。

故郷を歩きながら、今は ここで作る意味を感じている 。


令和4年3月17日
三島にて。
Wakana Kimura / 木村若菜
@wakanakimurastudio
WAKANAKIMURA.COM

(Wakana Kimura 6日目の記事はこちら>>)

画像1
Wakana Kimura, Heavenly Maiden 2017, Mixed media © Wakana Kimura

トップ画像
Daily Practice 2016 at the Brand Library Art Center © Wakana Kimura

Wakana Kimura 2022 マイクロアートワーケーション
全7話 記事リンク一覧

1、Wakana Kimura「一期一会」(1日目)
2、Wakana Kimura 「異文化」(2日目)
3、Wakana Kimura 「望郷の念」(3日目)
4、Wakana Kimura 「こっちの道」(4日目)
5、Wakana Kimura「美しさ」(5日目)
6、Wakana Kimura「アーティスト」(6日目)
7、Wakana Kimura「事業を終えて」(まとめ)最終回


WAKANAKIMURA.COM

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?