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Wakana Kimura 木村若菜「 アーティスト」(6日目)

>>以前の記事を読まれていない方は1日目からどうぞ。

私は0歳からの記憶を持ち合わせていて、2歳くらいでは覚醒していたので、物心ついた頃には「絵描きさん」になろうと決めていた。私の最初の作品は赤ん坊時代、居間のコーヒーテーブルの裏に描いた天井画である。当時、アーティストという概念はまだ私の中になかった。

自分も赤子のくせに
「みんな赤ちゃんだから話にならないな」

と思っていたかなり変わった子供だったと思う。乳母車を押して散歩する母に「きゃー!可愛いですねー!」とお世辞を言いながら、私の顔を覗き込んであんまり可愛いくないなといいたげな微妙な表情をする女性3人も鮮明に覚えている。

しかし、幼稚園になってもみんな同じで
「小学校になったら面白くなるかもしれない」
と思っていた。

ところが、小学校、中学、高校に上がっても変わらない。藝大に入学してやっと面白い人間が沢山いて、それは年齢の問題ではなく私がアーティストだったという事を知った。

先日の記事で「“アート”が多用されている」とやんわり書いたが、正直日本でアートという言葉は乱用されていると感じている。有象無象が増えてきた事をアートの土壌が広がったと歓迎する人もいると思うが、それがアートを軽んじて誤解する人間の増えた要因ではなかろうか。 

宝くじより倍率の高いと言われた当時の東京藝大の油画科に入った時、
入学式で学長がこういった。 

「 この中で一人成功する者が居るかも知れない。
その他の全ての者はそれを磨く研磨剤となれ!」

まぁ、そうだよねぇー。
と生徒はみんな普通に聞いていたが、可哀想に他分野の両親はかなりショックを受けていた。

アートは西洋で出来た現代の文化であって、日本の美術という感覚で見るものではない。先ず歴史を学んでから、それが何かを理解した上でやっと楽しめる基礎ができる。

「いやいや、私はアートはわからないから。」
という人がよくいるが、

そりゃ、わからないだろうよ。勉強しようよ。

と思う。イタリア語のオペラを内容がわからないのに楽しもうと思っても無理があるのと同じ話だ。内容がわかって、時代背景がわかって、言葉がわかって初めて音楽と一緒に楽しめる。

日本で作品展示をすると、
「私もアーティストになりたい」
とかいう人を時々見かけるが、これも失礼な人だと思って話している。引退してからアーティストになりたいとよく聞くが、ピアニストになりたいとは言わないだろう。同じことなのに認識がずれている 。

そういう人に限って「食べていくのが」とか何とかいうが、食べていけないのは趣味であってプロではない。ファンで良いではないかと思う。引退してからプロバイオリニストを目指したりプロバレリーナを目指す人がいないように、希少なアーティストの職業として成り立たせるには他の仕事と同様に並大抵の時間と努力では成り立たない。

世界的に売れている先輩たちも、

人生に2度波があれば大成功だ!

と、それ以外の日の当たらない時間を一生黙々と自分と向き合って 日々制作している。 プロの作家で引退した人なんて見たことないし、80代の超大御所アーティストの大先輩も365日朝から晩まで仕事場にいる。

初日に書いたJ先生との思い出をもう1つ書こう。

明治に開国した際、幕府使節団がアメリカに渡り帰国してたくさんの新しい日本語を作った。その中でも福沢諭吉先生が「自由」という言葉を作ったというのは有名な話だ。たかだか150年ほど前まで、日本に「自由」という概念が存在しなかったことに驚くのはさておき、J先生のお話にはこの続きがある。

「若菜君、この自由の他にもう何個か候補になった言葉があるんだ。
その中で僕がとても好きな言葉があるんだよ。何だかわかるか。」

え? わかりません、それは何ですか。

「天下御免だ。」

おお、自由よりfreedomに合った言葉ですね、私も使おう!

「ワハハ。わかるか。
いい言葉だろう。僕はこの天下御免が好きでね。
何か色紙に書いてくれと言われると
必ず天下御免と書く様にしている。」

実直に人生に向き合う本気の人たちもアーティストと同じ言語を使う。
俄かアーティストよりずっとアートな人生を生きている。
生き方を見せることによって人の心を揺さぶる。

「天下御免で頑張りなさい」

 J先生の応援が聞こえるような気がする。

令和4年3月18日
三島にて。
Wakana Kimura / 木村若菜
@wakanakimurastudio

(Wakana Kimuraのまとめ記事(最終回)はこちら>>)

2018 LAメトロのイベントでのサイン会にて。  © Wakana Kimura

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 Wakana Kimura プロデュースのパフォーマンス 2016 The paper offering ceremony for the Nehanzu project © Wakana Kimura

Wakana Kimura 2022 マイクロアートワーケーション
全7話 記事リンク一覧

1、Wakana Kimura「一期一会」(1日目)
2、Wakana Kimura 「異文化」(2日目)
3、Wakana Kimura 「望郷の念」(3日目)
4、Wakana Kimura 「こっちの道」(4日目)
5、Wakana Kimura「美しさ」(5日目)
6、Wakana Kimura「アーティスト」(6日目)
7、Wakana Kimura「まとめ」(最終回)



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