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Wakana Kimura 木村若菜 「一期一会」(1日目)

先日尊敬する恩師 が逝去された。 

正確に言うと医師である父が若い頃から慕う師で、私は弟子の娘。
私が赤ん坊の頃から家族ぐるみで良くして頂いているJ先生だ。 

小学校でアメリカを離れて、15年前にアートのためにアメリカに戻った時から日本を出て頑張る私を奥様と共に力強く応援してくださった。 

結婚の際には奥様から地元では娘に送る伝統だという品を頂いたり、親族としてアメリカで初めて借りるアパートの連帯保証人になったりと本当の身内のように常々気にかけてもらった。 

J先生は、戦後すぐのフルブライト奨学金で渡米し、80代になっても尚その道の第一人者で後継者が追いつかず、アメリカの大学と日本の有名国立大学で教鞭を取りながら世界中を講演して廻っていた。医師としても亡くなる数日前まで現役で、この大変な時期の大学病院で活躍されていた。 

渡米してからは年に何回か 

「若菜君、元気ですか。今イスラエルでの講義が終わって明日は上海に寄ってから日本で講義をしてアメリカに戻るので、その帰りにロサンゼルスに寄るから少し会いましょう。」 

といった連絡をくださった。  

アメリカ国内とは言え、飛行機で6時間ほど離れた 地にお住まいで、ちょっと寄るという位置付けではないのだけれど、世界中飛び回る超絶多忙なスケジュールの中、J先生は近所の散歩に行く様子でさらっと仰る。
そして一週間もしないうちに、 西海岸で絵を描いている私を勇気づけに立ち寄られて、数時間の間に私の士気を上げて帰って行かれた。

 4年前にJ先生が83歳になられた時、いつもの様にロサンゼルスで学会があるから何か若菜の食べたいものを食べさせてくれと連絡をいただいた。
 
ゲストスピーカーで一流ホテルも泊まれるだろうに「僕には性に合わない」とゲットーのモーテルにお泊まりで、危険な地域を徒歩で移動しているというのでハラハラしながらお迎えに上がり、J先生のお好きな韓国料理屋にお連れした。 

匂いがキツイからと奥様に講演前には禁止されているキムチを沢山食べながらJ先生は 

「僕はね、平均寿命を超えたので 肩の荷が降りたと思っているよ。
これからはオマケのご褒美の人生だから、
とにかく健康に気をつけて他人に迷惑をかけないように頑張るよ。」

 当時『毎日、精一杯生きていればいつなんどき死んでも悔いなし。』
と本気で思っていた私には目から鱗だった。

 先生にお伝えすると、 

ワハハと 笑いながら 

「若菜君、君の時代はもっと大変だよ。平均寿命も延びるから100歳くらいまで生きないといけないよ。しかも健康に。
絵を描いて自分の役目を果たさないとならん。」 

それに続けて 

「 君が今40歳なら3年後43歳になった時に、
僕は86歳でやっと僕の半分だ。
その時僕が元気だったら一緒に盛大にお祝いしよう。」 

パンデミックで約束の半分祝いは実現できないまま、 J先生のお誕生日にお祝いのメールをお送りして五日後、先生は逝去され、私は先週44歳になった。  

この変化で世界中の人々同様に、私の人生も動きを変えた 。
一時避難でコロナ疎開した結果、 助成金をいただいて幼少の頃過ごした三島に里帰りする。2年前には想像できなかった事業で、故郷へと新しいご縁を つなぐ旅に向かっている。 

J先生に最後にお会いした時にこう尋ねた。

先生、人生の意味はなんですか。 

「若菜君、人生とは人に出会うことだ。それだけだ。それに限る。」 

J先生はいつもの豪快な笑顔でおっしゃった。  

本日から始まる一期一会も有意義なものとなりますように。 

 J先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。   

令和4年3月13日
名古屋から三島の新幹線にて。
Wakana Kimura / 木村若菜
@wakanakimurastudio
WAKANAKIMURA.COM

Wakana Kimuraの2日目の記事はこちら>>

Wakana Kimura 2012 Hole of Donut, Mixed Media © Wakana Kimura

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Wakana Kimura, 2010 I, Video © Wakana Kimura

Wakana Kimura 2022 マイクロアートワーケーション
全7話 記事リンク一覧

1、Wakana Kimura「一期一会」(1日目)
2、Wakana Kimura 「異文化」(2日目)
3、Wakana Kimura 「望郷の念」(3日目)
4、Wakana Kimura 「こっちの道」(4日目)
5、Wakana Kimura「美しさ」(5日目)
6、Wakana Kimura「アーティスト」(6日目)
7、Wakana Kimura「まとめ」(最終回)



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