見出し画像

中小製造業が考える1Dayインターンシップの意義とむずかしさ。

ー インターンシップ

学生が企業で実習や研修的なプログラムをもとに就業体験をする制度のこと

出典:コトバンク - https://kotobank.jp/

機械の精密部品を量産している中小企業では『製品品質の確保』だけでなく『量産スピード』が要求されるため、最低でも2~3ヶ月間は先輩作業者に『品質とスピードの両立するため』のノウハウを教わって一人前になっていく。

つまりインターンシップという僅かな期間、それも今回のような1日という場合では、製造業の根幹たる"製造"に触れることは難しいのだ。

母校でもある近畿職業能力開発大学校に1Dayインターンシップの依頼をされてからというもの、このインターンシップの内容を以下に充実させるかは僕にとって大きな悩みの種になっていた。

初めてのインターンシップ

開催までの経緯

こんにちは、株式会社エナテック 5代目アトツギ(予定)の榎並 幹也です。

三脚自撮りマン(29)

2022年2月23日、エナテックでは2023年卒(見込)の学生2名に対して、創業以来初めてのインターンシップを開催しました。

これまで新卒採用から遠ざかっていたエナテックが、どうしてインターンシップを開催することになったかというと、僕の母校のひとつでもある近畿職業能力開発大学校(以下 能開大)に求人をお願いしに行った際に、逆にインターンシップのオファーをされたことがきっかけになっています。

新卒採用をどうしていくか

昨年の夏に中途採用の運用を任されるようになった僕は、半ばなし崩し的に新卒採用も担当するようになりました。そんな僕がまず思いついたことはというと、能開大にアプローチするということでした。

これは僕自身が能開大の卒業生であったということや、卒業後も先生との付き合いが続いていたことが理由です。ただ、もちろん他にも能開大を選んだのには理由があって、基礎知識への理解の深さや技能レベルの高さなどがそれに当てはまります。

能開大で使うものとよく似た工具

とにかく能開大に話を聞きに行かなければと思った僕は、すぐさま能開大の先生に連絡し、翌日に面談の機会を設けてもらえることになりました。これが今から約半年前、21年9月のお話です。

能開大とインターンシップ

能開大は就職率の高さを売りの1つとしているので、学生の就職支援にはかなり注力しています。9月にもなると、まだ就職先が決まっていないという学生の方が珍しいくらいです。なので、狙うべきは23年卒。と、そこでインターンシップの話が浮上しました。

ただ、この時は「エナテックでインターンシップは開催可能ですか?」程度のことで、すぐにインターンシップの開催が決まったわけではありません。

この相談をきっかけに、能開大生2名がエナテックにアルバイトで勤めてくれるようになったり、社内教育の一環で旋盤の講習を進めることが決まったり、能開大に弊社で作成・利用していた治具を提供したり…と、能開大との関係が深く(ズブズブに…)なっていきました。

12月上旬のこと。能開大の先生から「アルバイト2名が卒業後もエナテックにお世話になりたいと学校で言っていた」という電話がかかってきます。詳細を伺うために能開大に伺ったところ「その他にも2名、それも女性がエナテックに興味がありインターンシップを希望している」と言うのです。

エナテックの女性社員は全体の12%と少なめ

最近では設計を担当する女性が増えたなどの話も耳にしますが、機械部品製造業を志望する女性というのはそれほど多くはありません。
これはチャンス!
と思った僕はすぐに女学生2名との面談を済ませ、エナテックは創業以来初のインターンシップに挑むことになりました。

インターンシップで何をする?

能開大は職業訓練校としての側面があり、欠席や単位については非常に厳しいです。もちろんインターンシップを開催するとしても、学業に影響が出ないような範囲で行わなければなりません。となると必然的に期間は1日だけ。そんな短期のインターンシップで、何が出来るのでしょうか。

当初1月下旬の水曜日に開催する運びとなっていましたが、直前になって能開大で新型コロナウイルスの感染が発覚したことを皮切りに、協力会社の急な廃業などのトラブルが多発。1月開催を諦め、2月に延期することに。学業への影響が少ないことやエナテックの営業日だったこともあり、祝日2月23日の開催が決定しました。

とはいえ協力会社廃業の影響は大きく、2月に入ってもなかなか落ち着きを取り戻せない日々が続いていました。というのも、協力会社に依頼していた品種は約20種で、これらは他社から協力会社ごと引き継いだもののため、社内での生産実績がなかったのです。エナテックは加工に必要なものをすべて1から揃えなくてはなりませんでした。

短納期で多品種の生産を行っているエナテックでは、こんなことがなくても目まぐるしく加工品種が切り替わります。サイクルタイムや可動率を用いて2週先までの生産計画はバッチリ管理されています。そこに急に追加された20品目の部品たち。生産計画はすべて変更を強いられることに。落ち着くはずもありません。

1日の生産数をCT/可動率で管理

「こんな中で本当にインターンシップが無事開催できるのか。どうすれば満足のいくインターンシップになるのか。」と、頭の中で不安がかけめぐります。

インターンシップ、つまり単なる会社見学ではないからです。
企業で実習や研修的なプログラムをもとに就業体験をこなさなければならないのです

現場はインターンシップどころではないだろうし、他の部署もどこもかしこもてんやわんや。対応できるのは僕以外にはいませんでした。

『どうすれば良い体験をさせてあげられるだろうか…?』

困った僕はアルバイトの子たちに「学校と実際の工場・現場を見比べて、ここは知らなかったな。とか、学校でも見たことないな。と思ったことはある?」と聞いてみましたが、返ってくる答えは学校にない機械や設備のことくらい。

結局散々悩んだ挙げ句、ある程度アウトラインをまとめておきつつ「当日の朝、直接どういう体験をしたいか」と質問して、それに合わせていくということくらいしか思いつかないまま時間が過ぎていきました。

インターンシップの付加価値とは

そうこうしているうちにやってきた2月23日。
約束していたよりも少し早い8時45分、学生2名がエナテック本社に。
さっそく工場見学と行きたいところですが、まずは会社概要の説明とざっくりとした1日の流れについての説明です。

会社説明資料2022

緊張をほぐすために雑談を交えながら、企業説明を進めていきます。この後、見学を開始するまでにある程度内容も決められればと思っていましたが、実際の現場を見てみないことにはどういうことを体験してみたいかなどわかるはずがありません。結局、詳細は何も決まらないまま工場見学が始まってしまいました。

インターンシップvs 工場見学

さて、突然ですが、みなさんは『インターンシップにあって、工場見学にないもの』ってなんだと思いますか?

これは僕なりの考えですが
工場見学』から連想されるのは『安全通路の範囲内からの見学』
対して『インターンシップ』から連想されるのは『作業現場での就業体験』という違いがあるように感じます。

つまり工場見学とインターンシップの境目は安全通路という仕切りそのものです。その仕切りを超えた先で感じられることこそが、インターンシップの付加価値ではないでしょうか。

コミュニケーションは付加価値になり得るか

エナテックのような量産製造業におけるインターンシップ、特に1Dayの難しさはここにあります。というのも、体験可能な作業の多くが製品として出荷されるものに直結しています。品質や納期のことを考えるとインターンシップの学生に作業をしてもらうことは難しく、ましてや協力会社の廃業に代表されるトラブルの嵐の真っ只中。製造体験などをさせてあげられるほどの余裕はありませんでした。

『どうにかして工場見学だけではない、インターンシップの要素を盛り込まなければ…。』

そう考えている僕の目に、新人作業者が治具交換(段取り替え)を1人でしている風景が飛び込んできました。これは学校で見ることはまずありません。入社して間もないためにぎこちない手付きですが、反対に新人ならではの観点などもあるかもしれません。

エナテックで働く人達

「…そうだ、単純な見学にしないためには、実際に作業している作業者との直接コミュニケーションを増やして、新人・ベテランなどの目線を話してもらえば良いんだ。」

こうして僕は、作業者と同じ場所に立ち、間近で手の動きや物の動きを見学し、また直接作業者とコミュニケーションを取ることで、工場見学をインターンシップに昇華させようとするのでした。

インターンシップは"体験"であるべき

色々な作業場所を転々としながら、作業者とコミュニケーションを重ねていると、気付けばもうお昼休み。ただその頃にもなると、製造現場は殆ど見終わっていて、午後の内容を改めて考える必要がありました。

お弁当を食べながら「午後はどうしようかなぁ。」と頭を悩ませていると、品質保証課のMくんから午後からインターンシップ2名に作業体験の提案が。Mくんは弟が能開大生で、インターンシップ2名と同級生。そんな縁もあってか、忙しい中時間を割いて対応してくれるというのです。

これは後からMくんが聞いたことになるのですが『せっかく祝日に来てくれた2人にどうにか学校では出来ない経験をさせてあげたい』と考えてくれていたらしく、学校で見ることのない複雑な図面を見せたり、コンピューター制御の難しい測定器具の使い方を1時間以上にわたって教えてくれたりしました。これには2人も満足気な表情。話し上手で褒め上手なMくんは、どんどん盛り上げて2人をやる気にさせてくれています。

面倒見の良いMくん

さらに、その様子を見て気を利かせた品質保証課長が品質社内検定に参加してみてはどうか、と提案してくれました。エナテックの品質社内検定は機械検査技能士2~3級相当の難易度で、そうやすやすと合格できるものではありません。少しためらいながらも2人の回答は「やってみます!」

他の受験者たちと一緒に説明を受け、測定箇所を確認し、いざ挑戦!
残念ながら2人とも不合格でしたが、制限時間内にすべての箇所を測定することができ、間違いもわずかなものでした。その後、測定のコツやアドバイスを聞いて、嬉しそうな表情でインターンシップ終了の時間を迎えることになりました。

インターンシップとその後

翌々日、能開大の先生から連絡があり、2人とも非常に満足して帰ってきたこと、色々な企業を回ってきた中でエナテックが一番良かったと言ってくれていること、学校の先生に社内検定で惜しいところまでいったことを自慢していたことを教えてくれました。

このインターンシップを、ここまで満足度の高いものにすることが出来たのは、僕の他にも「より良い会社づくりをしたい」「より満足度の高いインターンを提供したい」と考え、協力してくれる従業員みんなの力があったおかげです。

こんなにも素敵な従業員たちと一緒に、エナテックを150年、200年と続く企業にしていけるよう頑張っていきたいと思います。

最後になりますが、ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
また次のnoteでお会いしましょう!

株式会社エナテック
榎並 幹也


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?