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地域とともに学びを育てる③ー十勝・本別高校のコミュニティスクールへの道ー

地域で子供たちを育てていく取り組みであるコミュニティスクール。
そのコミュニティスクールの枠組みの中で、産声を上げた「とかち創生学」。

僕は、2020年春からコミュニティヅクールとなった北海道・十勝にある北海道道立本別高等学校のアドバイザーおよび特別講師として関わることになりました。

これは、さまざまな地域のしがらみとか、固定概念とか、そのようなものを乗り越えて、地域が一体となって高校生たちの学びを育てていく、取り組み。

コミュニティスクール(学校運営協議会制度)については、前回の記事もご参考まで。


「とかち創生学」の学び

今回は、「とかち創生学」の授業内容などについて、もう少し詳しく説明していきたいと思う。

「とかち創生学」とは、学習指導要領の改訂により、2022年度から変わることになった高等学校の「総合的な探究の時間」を用いて提供される。

もともとは、この教科は「総合的な学習の時間」として実施されていたもので、教科や科目の枠組みを超えた課題に取り組む点はこれまで通りだが、自ら探究するテーマを設定する点に重きを置いている。

「とかち創生学」で取り組む課題解決のフロー

とかち創生学の流れ
「とかち創生学」の課題解決の段階


「とかち創生学」は、人口7000人を切り、人口減少が大きな問題となっている本別町の「地域課題」をそれぞれがテーマとして選択し、これらの「地域課題」について、

  1. 課題分析 ・・・決定したテーマに関する問題について、扱える状態にまで深ぼる

  2. 仮説構築 ・・・課題分析を踏まえて、あぶりだされた課題をどのように解決していくかの「仮説」を構築

  3. 解決策検討 ・・・「仮説」に基づいて、自らの出来ることや、町の特性などを踏まえて、解決策のアイデア検討

  4. 解決策提案 ・・・検討した解決のためのアイデアを具体的に実行可能な「解決策」として提案

の段階を経て、約10カ月程度をかけて少人数のグループごとに、解決策を検討していく。

「地域課題」をテーマに扱うのということは、本来大人たちが、本気でその解決のために取り組んでいるものばかりなので、もちろん簡単に解決策提案などできるものではないが、高校生たちが、自分たちの町を自分ゴトとしてとらえるためのきっかけとなると考えている。


「とかち創生学」の学びの目標

「とかち創生学」は、本別高校にとって新しい取り組みではあるが、その中でも以下のことを「学び」の目標として掲げ、全体の設計をしてきた。

① 正解のない課題に挑戦し探究し続ける力を育成する。
② 次世代の十勝を牽引し地域を支える力を育成する。
③ グローバルな視点をもって地域を支える人材を育成する。

VUCA時代**と言われ、これから高齢化40%を超える高齢化先進地域の本別町で起こることは、すでにこれまでの想定を大きく超えるものばかりであるはず。

それならば、目の前の与えられた課題を丁寧に効率的にやり抜く高度経済成長期に求められた力よりも、「正解がない課題」に向き合う力の方が圧倒的に必要。実はこれって、僕がこれまで学校教育や大きな組織で教えられてきた経験からすると、これまでの日本の教育の在り方を本質的に変えていくくらいのことが求められると感じる。

誰かに言われたことをやることが大嫌いで、何度も目の前に敷かれているレールから脱線してきた天邪鬼な僕でも、この分野なら自分の経験と実践の中から教えられることがあるのではないかと、胸が高鳴る。

レールを踏み外した僕のことは、以下まで。

**VUCAとは、一言で言うと「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」を意味する。元々は1990年代後半に軍事用語として発生した言葉ですが、2010年代に入ると、昨今の変化が激しく先行き不透明な社会情勢を指して、ビジネス界においても急速に使われるようになりました。V(Volatility:変動性)、U(Uncertainty:不確実性)、C(Complexity:複雑性)、A(Ambiguity:曖昧性)の頭文字をとったもの。


「とかち創生学」で身につけてほしいと考えること

「とかち創生学」の3つの目標に加えて、身につけてほしいと考えるものとして、「人生100年時代の社会人基礎力」がある。

社会人基礎力とは、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力(12の能力要素)から構成されており、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」として、経済産業省が2006年に提唱したもの。

人生100年時代の社会人基礎力より


これって、当たり前のもののように感じますが、意外と大人でも簡単ではないことに気が付かされる。

例えば、大きな会社組織に所属していると、主体的に自分が前に踏み出すようなことが求められることはほとんどない。組織が「連帯して責任を引き受ける」構図が出来上がっている。

これまで、当たり前のように正しいとされて繰り返されてきた意思決定を、外部環境が変化していることが分かっていても変えることには大きなリスクが伴う。それが、例え変化しないことの方がリスクであっても、新しい種類のリスクを「敢えて引き受ける」ことの方が、組織人としてはリスクだと考えてしまう。

だからこそ、あらためて「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力を身に着けることが、これからの時代に求められる資質だと言えると考え、「とかち創生学」の中では約10カ月の個人とグループ活動を通じて、このような社会で活躍していくための基礎力を身に着けることを大切にしている。

出典:経済産業省資料


「とかち創生学」では、少なくとも僕は全体の授業を総合的なアドバイザーとして設計し、講義する立場として、如何なる状況でも解決策を見出してい行くことが出来る人づくりを目指してきた。


「とかち創生学」のコミュニティスクールとして意味

「とかち創生学」の最大の特徴の一つは、この授業がコミュニティスクールの枠組みとして提供されていること。

学びを支えるコーチの存在

2020年度から本別高校がコミュニティスクールとなったことは、前回の記事で触れましたが、この授業の最大の目玉は、町がこの授業の運営を全面的にバックアップし、「学び」を支えていること。

まずは、総合アドバイザー兼講師として関わっている僕の活動予算は、町の高校を支援する予算の中から拠出されている。

そして、何よりもこの授業の「学び」を支えているのは、コーチと呼ばれる役場や一部民間の地域の人々。2020年度では約10名強、2021年度では18名のコーチが、「とかち創生学」の学びを支えてくれている。

コーチの方々は、生徒たちと伴走して一緒に課題に向き合ったり、時には気づきを与える存在として、時には背中を押す存在として、時には町の既存の資源と接着するような役割を担う存在として、コーチング的な関与をしてくれている。

授業時間だけでも、年間10数回、さらには、フィールドワークや授業外の個別の対応まで含めるとかなりの工数になる。これだけの大盤振る舞いの人的資源を投下してくれている”本別町”は、やはり子供たちの教育に本気であるということだと思う。

コーチとのミーティングの様子

高校生が大人を本気にさせる

高校生の取り組む課題や活動内容は、おおよそは、「大人」の想定の中に収まるものが多く、関わる講師やコーチの視点からすると、もどかしさを感じる場面も多々ある。

それでも、時折感じる「制約条件」を振り切った思考の深まり。ドキっとさせられるような、切り口。

例えば、「日本一の豆の町」と謳っている町のキャッチフレーズ。日本一の豆の町って言っても、町民の自分たちは普段どのくらい「豆」を食しているだろうか?

本別町の風物詩である豆の「ニオ積み」

そんな、素朴であり的を得ている問題意識から始まった「豆を使った特産品づくり」。豆を使ってただ作れるものをつくるのではなく、どのような商品をつくれば食べてもらえるかを逆算して作る。

高校生の、全力で「地域の課題」に向き合う姿勢は、ときに大人を本気にさせる。子供たちの活動が、大人たちの凝り固まった脳内のシナプスをつなげていく。

この子達の未来のためにも、私たちができることをやらなければならない。

コミュニティスクールという形式で運営し、多くの地域の大人たちが関わる意味は、①子供たちにとっての学びの深まりでもあり、②大人たちにとっての活性化でもあったりするのではないかと感じる。

さあ、このシリーズもだいぶ長くなってしまいましたが、次回は、具体的に2020年度からはじまった「とかち創生学」の学びの様子や、そこで具体的に起こったエピソードなどの中から見えてくる気づきをご紹介していこうと思います。


以下、前回の記事もぜひ併せてお読みください!


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