義理歩兵自伝(9)

義理歩兵自伝(1)はこちら!

ここでひとつ、深い理解のために、
二歩兵が義理歩兵の実家へ移り住んだ時の家族内の背景を説明いたしますと、

そこには母・ホオアカ無知畑と祖母・障がいグルメ官能が、相変わらずいがみあいながら、それなのにいつもなにか一緒に食べることを楽しみにしながら、不思議なバランスを保って住んでいました。

祖父・純真クロマニョンは残念ながら私が中学3年生のときに他界していました。
享年69歳でした。

彼はいくつになっても野生性が常人の域ではなく、亡くなるその時まで、人間界のどんなルールも通用しませんでした。
私が自分の人生で出会ったことのある人物の中で最も、常識からおっ外れた人でした。

亡くなるしばらく前に入院することになった時も、点滴などはすべてまとめて力任せにぶち外して病院服のまま帰ってくるということを繰り返して、説明もなしに帰ってきては、腹ごしらえをしてニコニコ(^ω^)していました。
じさま、体大事にさねばダメだべ?などと優しく諭そうとすると、一時的に見た者の脳内から説教用ワードをすべて削除する威力のある

テヘペロ(*´◡`*)

を放ってくるため、私はどうしても純クロを怒ることができませんでした。
しかしこのため、亡くなる前はとうとう病院のベッドに手枷足枷をされて寝かせられてしまっていました。

それを見ると私は純クロのことが可哀想でたまらず、病院側に殺意が沸いて、ホオアカやグルメ官能に
「なんだもんだ?!じさまさこったらごどさいででえのが?!家さ連れで帰ぇるべぇ!」
とかなりしつこく何度も訴えましたが、病院の方針だがらどうにもならね・・といって毎度却下されてしまうのでした。

結局祖父は、手枷・足枷によって自由を奪われた時点で突如として食事の摂取を拒み、何度口内に食べ物を与えても、ペッ!と吐き出すようになりました。
人間に傷つけられた野生動物そのものでした。

こうして幾日も幾日も食事をせず、そのまま衰弱していき、ある日すぅっと心臓が止まって、可愛かった純クロは眠るように亡くなりました。
自由を奪われたことにより餓死を選択するとは、最後までロックな原始の人でした。

純真クロマニョンは、私と妹が小さな頃、私たちを川原や野原に連れて行って、ただただ小さな人間が可愛くてたまらないという様子で、私たちが無邪気に遊ぶところをいつまでも微笑んで眺めていられる人でした。

その時の、あの類い稀な、いかなる目的も意図もないような、

時間を気にすること、場所を気にすること、これが子等の役に立っているのか、人からどう見られているのかを気にすること、そういった「彼のアイデンティティーの保全に利用できる要素を目の前の出来事から見つけ出そうという小賢しい意図」の一切ない、

ただ満たされた表情.☆.。.:*・゜

を今でも鮮明に覚えていて、目を細めて、というのはあの顔の事を言うのだという思いとともに、かの美しき眼差しを思い出します。

そして、哲学ヤクザは会社の事務所に寝泊まりすることが多く、あまり家には帰っていませんでした。

私がまだ大卒歩兵と出会う前、会社の経営が難しくなってきてから徐々に父は、コンスタントに家に生活費を入れられなくなってきていました。
そしてそこに追い打ちをかけるように彼は私たちの知る近しい女性と突然親密になり、一家全員に「呪怨」という名の魔法を覚えさせる大打撃を与えました。

ホオアカはそのことで完全に打ちのめされて、パートの仕事を完全無欠勤で真面目にこなして職場でどんどん信頼を得つつ、どんどん酒に溺れ毎晩ウイスキーをがぶ飲みして泣きながら寝落ちするという、ひとりボケツッコミ、みたいな状態に陥りました。

私はそこにニートとしているわけにもいかなくなってきて、強く後ろ髪を引かれつつ、そのために後頭部に10円ハゲを作りつつ、タイミングよく家を出たのでした。
 
そしてご存知のようにクラブで多少のお金を貯めてから大卒歩兵とともに戻ってきて、
 
 
その頃にはすっかりお酒も飲まなくなって安定していたホオアカと、
純クロを亡くして未亡人となってから変に元気になっていたグルメ官能と、
ともに暮らすようになったのです。
 
 
このような、その背景に非常に低俗な問題を網羅するように抱えていた我が家においては、二歩兵がやっとのことで投資してくれる企業を見つけられたことは、久しぶりの朗報、めでたく明るい天からのニュースでした。
我らは調子に乗ったノリノリ歩兵となっていました。

そこに鳴った、玄関のチャイム。
  
 
出てみると、現れたのは父・哲学ヤクザでした。
 
 
久しぶりに見るその顔は、どこかこれまでと様子が違いました。
どう表せば良いのかわかりませんが、哲学ヤクザ(小)という感じでした。

 
そしてこの哲学ヤクザ(小)の口から語られたのは、
 
約25年もの付き合いだった私たちも子供の頃から知る人物から会社のお金を根こそぎ持ち逃げされたこと、彼はそれから音信不通なこと、家族ですら彼の行き先を知らないこと、経営が苦しかったために借金をした先に今月分の返済ができないこと、それにより会社は実質的に倒産したこと、 この自宅も抵当に入っていてもう住むことはできないこと、借金先は暴力団関係者ですぐにでもここに向かってくるということ、 
 
でした。

 
私は事態をとりあえず頭だけで理解し、感情のパックの蓋をきっちり密封して冷暗所に置いて、落ち着いて聞きました。
 

おっとう・・逃げる金、あるあだが?
 
 
もちろん彼にはポケットマネーなどないことは、わかっていました。
土曜も日曜も、経営が苦しくなってからは夜間もひとりで現場に出て、
有り金をすべて従業員の給料に、困った親類の生活費に、秋田から出てきた姉夫婦の家を建てることに、その娘夫婦の借金の保証人になることに、
カラッカラに使い果たしているのを知っていたからです。
 
 
義理歩兵「歩兵・・・すまねけんど・・ここは、おっとうを助けでやってもえべが・・」
 
大卒歩兵「当たり前だよ。ぜんぶ義理歩兵のいいようにして。こういう時にケチったりしたら、一生後悔すっからさ」
 
 
二歩兵は潔く、クラブで働いて作った貯金のすべてを、逃亡資金として哲学ヤクザに渡しました。

ホオアカは動揺で慌てふためきながら、
「これ・・!オラのパート代の貯金だ・・・!こごにみんな入ってるど・・・!」
と言って、いつものところに隠してある貯金通帳と印鑑を持ってきて、
それらを両手でぎゅうっと握り締めたまま、父の胸元に預けました。

こうして哲学ヤクザ(小)は、哲学ヤクザ(逃亡中)となりました。
 
 
「すまねえ・・・気丈にな・・」
父はどこに行くとも言わず悲しそうに家を去り、残された私たちが考えねばならなかったのは今にもやってくるかも知れない、借金の取立てへの対処でした。
 
しかし一瞬ですっからかんになった私たちは、泣くグルメ官能をなだめる余裕もなく、一旦は完全に途方に暮れました。
私も先ほど密封したはずの感情パックから中身がこぼれ始め、哀しみワサビが目に沁みて、意図せず涙が出てきました。
なにも、なくなっちゃうんだな・・・・お金はまだしも、この家や、父親や、ここでの思い出まで・・・

すると今度は電話のベルが鳴りました。この時、夜の11時を過ぎていました。
 
 
義理歩兵「もしもし・・・」
 
声の甲高いチンピラ風の男性「オイ、あんたんとこの社長さんどこ?出せよ、話があんだよ」
 
義理「ここにはいません」
 
甲高チンピ「そこがどこかわかってんだよこっちは!いねえっつうならあんたに代わりに話しさせてもらおうか?あぁ?」
 
義理「私には関わりのないことですよ」
 
甲チンピ「関わりねぇじゃねえんだよ!すっとぼけてもらっちゃ困んだよ、人の金使っておいて知らねえじゃねえだろゴルァ」
 
義理「私は使った覚えがありません」
 
甲チンピ「てめえんとこのオヤジが使った金だろ、娘のあんたもその銭で飯食ってんだろが!とにかく今から行かしてもらうわ、首洗って待ってろや」
 
義理「(首洗って待ってろ!?何言っちゃってんのコイツ・・!!)勝手にしろよアホ。来たって意味ねえよ。」ガチャン!
 
 
すると一分後・・また電話が鳴る。
 
 
大卒歩兵「もしもし」
 
落ち着いたエリート風の口調の男「もしもし、私は〇〇の~という者ですが、先程はうちの支店の社員がお電話で大変失礼なことをしたようで、誠に申し訳ありません。そちらに哲学ヤクザ社長さんはおいでですか?」
 
大卒歩兵「さっきの電話でいないって言ったけどね」
 
エリ調「そうですか。実は負債に関しての大事なお話がございましてね。失礼ですが、あなた様は哲学社長さんとどういったご関係ですか」 
 
大卒「・・・何の用なのアンタ。」
 
エリ調「実は貸付に対しての今月分の返済がなかったもので、ご契約の変更のご相談をさせていただきたくてですね。
今ならば、私の方で支店の方からのしつこい催促などが行われる前に、それを止めて穏便な形でお話することができるんです。」
 
大卒「話をする気ないんで」
 
エリ調「しかし、そうなると毎日そちらに行って、お話が進むまでご自宅の周りでお願いをしなくてはならなくなりますが」
 
大卒「やりたきゃやれよ。」ガチャン!
 
 
1分後、同様に電話が鳴る。
 
 
甲チンピ「あんたら、契約の話断っただろ。それじゃー明日の朝一番で行かしてもらうわー」
 
 
始まった、始まった、本当に始まってしまった・・・・・・・・・・・・・・・・・

 
私たちは、義理歩兵の親類の経験から知っていました。
甲チンピとエリ調がグルであること、彼らは身内に借金返済の契約をさせたいために本当に家に来ること、抵当に入った家にこのままいても、取立てに来られれば、家の中に缶詰になること、
 
 
つまりは、今から逃げなくてはならない、ということを。
 
 
「来たって無駄だっつってんだろ!!」

電話を叩き切って、それから始まった5時間に及んだ「夜逃げ」の間の記憶。

私の脳細胞に残る断片映像を再生すると、

まったく音声の録音の伴わない無音の静けさの中、

ダンボールに乱暴に服を詰めるシーン、
子供の頃の宝物だったぬいぐるみを諦めて投げるシーン、
下着類をグシャグシャに袋に詰めるシーン、
ゴミのように散乱した試作アロハをバッグにしわくちゃに詰めるシーン、
丁寧に使いきったことが誇らしくて保存しておいた小学校のノートを直視できなかったシーン、
 
切なかったのか、可笑しかったのか、腹が立っていたのか、悔しかったのか、
 
噴出したアドレナリンに感情を抹殺された自分の、

思い出の宿ったものたちを冷徹に見捨て続ける、過去の記憶へのリンチのような乱暴で残酷な行いをとぎれとぎれに見ることができます。
 
鮮明じゃない記憶のくせにいつまでも色あせず、
今思い出しても心をあの瞬間にロックオンさせるビビッドな記憶です。
 

荷物をまとめたあとは叔母に電話で事情を話してグルメ官能を預かってもらい、
 
まとめ上げた最低限の荷物の「一時的な置き場所」をタウンページで探ってみるもなかなか見つからずに悪戦苦闘し、

朝日が差してくるほんの少し前に、大卒歩兵の、
のちに「ノーベル夜逃げ賞」を与えられた思いつき

「ドラクエに倣って困ったときは教会に頼ろう」案

に最後の望みをかけて、一番近いキリスト教会に電話をして、最初はエリ調のように穏やかに、結局は甲チンピ風の圧力をかけてイエスと言わせ、車に詰め込んだ荷物を教会の駐車場にぶちまけて、
 
家に戻り最後に自分たちに必要な最低限のものを車に積み込んで、
 
もういよいよ出なくては合法的に借金の取立てができる時間になってしまうという時になって飼っていた鶏たちを思い出し、
 
義理歩兵「鶏っこ達・・置いでいったら死んでしまうべな・・」
 
ホオアカ「んだども、どうにもならねべ?!」
 
義理歩兵「あんまりかわいそだ、、、車さ乗せで行ぐべ?!」 
 
ホオアカ「な、なに?!お前(笑)頭おがしなー」

大卒歩兵「おっかあ、義理歩兵先生は言い出しちゃったら聞かねっす」
 
こうして話はきっちりとまとまり、私たちは隙間なく詰め込まれた荷物と、三羽の鶏と共に、「夜逃げ」ならぬ「朝になっちゃった逃げ」、灰色のアスファルトの荒野へ行くあても計画も現金もない旅に出たのでした。

夜逃げ直後の生活とは、そしてそこから這い上がるために起こしたアクションとは?! 

次回は旅先からの、現場リポートをお届けいたします。

乞うご期待!つかここで「乞」の字傷つくわ!!!
 
 
つづく・・・・・・・・・・・

毎日無料で書いておりますが、お布施を送っていただくと本当に喜びます。愛と感謝の念を送りつけます。(笑)