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ご主人様と私のあま~い生活

 にゃーお。
 
 私は白い猫だよ。

 シロって呼ばれている。
 
 外猫だったけど、家猫になったの。
 
 早く人間になりたくて、あの人の家に入ったの。
 
 人間になるためには、人間を知らなくちゃいけないからね。
 
 

ごろにゃ~ん


 
 にゃーお。
 
 ねぇねぇ、ご主人様と私のあま~い生活を見たい?聞きたい?
 
 しょうがないな~。
 
 ちょっとだけだよ。(ちらちら)
 
 あ、あの人が帰ってきた。
 
 足音で分かるよ!

 

げんかーん


 
 お出迎え!お出迎え!(ササッと!)
 
 あ、ちょっとお色直ししなくちゃ!(ゴシゴシ!)
 
 にゃーお!
 
 私の大好きなあの人のお帰りだよ!
 
 待っていた。
 
 もう朝から夜までが長くて待ちどうしい。
 
 家猫にとって、ご主人様の帰宅は、一大イベントよ!
 
 全身でこの喜びを、あの人に伝えなくちゃ!
 
 にゃーお!にゃーお!にゃーお!
 
 しっぽブンブン!

 

とびらー


 
 扉が開いた。
 
 あの人が帰って来た。
 
 ご主人様の帰宅だ。
 
 「シロ。ただいま」
 
 あの人が靴を脱いで、
 玄関から上がると、ママも来た。
 
 お帰りのチューをする気ね。
 
 そうはさせないわ!
 
 私はジャンプすると、
 あの人の胸に飛び込んだ。
 
 「「シロ!」」
 
 あの人が慌てて、私を抱きかかえると、
 私は素早く肩までよじ登った。
 
 うにゃ~ん💝(すりすり)ごろごろ。
 
 お帰りのチューは渡さないわよ。
 
 優先権は私にあるんだから!
 
 「もう、また先にシロに抱き着かれちゃったね♪」
 
 ママが呆れ顔で、あの人の左腕を取って、寄り添う。
 
 む。今、私のご主人様に近づかないでよ。

 今は私のターンなんだから!

 終わったら、幾らでも返してあげるから。
 
 でも今はダメ。

 家猫にとって、帰宅イベントは、
 ご主人様と愛を確かめる最重要イベントなんだから!

 私はあの人との愛を確かめると、
 三人でリビングに行った。

 

りびんぐ

 「パパ、お帰り~」

 四歳の娘ちゃんが、
 テレビから振り返って言った。

 「……今日もシロと一緒に遊んでいたのか?」

 「うん。シロといっぱい遊んだ~」

 そうよ。大変だったんだから。

 毛並みもホント乱れちゃったんだから!

 でも子守も悪くないわ。
 
 母性本能って奴ね。

 「シロ、お風呂に入る?」

 ママがそう言った。
 
 そうね。そろそろ悪くないわ。

 私はこの家に入った日から、
 定期的にお風呂に入るようになった。

 おかげさまで、毛並みがピカピカよ。
 
 白く輝いているわ。

 「シロ!おいで!」

 「シロ~」

 ママと娘ちゃんが、お風呂場から呼んでいる。

 私は猫洗い用のバスタブに入る。ごろごろ。

 娘ちゃんが、黄色いヒヨコを四羽、
 入れてくれた。ぷかぷか。

  

ひよこー

 「湯加減はどう?」

 問題ないわ。
 
 ちょうどいいくらいよ。
 
 洗いなさい。ごろごろ。

 「ごしごし♪」

 娘ちゃんとママの手で優しく私は洗われる。
 
 泡だらけだわ。

 最初はビックリしたけど、今はもう慣れたわ。
 
 むしろ気持ちいい?

 「さー上がってー!タオルで拭くよ」

 私はママの手で抱き上げられると、
 タオルで優しく包まれる。

 「おくるみだー」

 「おくるみだねー」

 ママと娘ちゃんが、
 赤ん坊のように包まれた私を見て、そう言う。

 おくるみって言うのは、
 まゆみたいに赤ん坊を包む独特のスタイルね。

 

おくるみー

 「……さぁ、猫乾燥機の出番だ」

 リビングに戻ると、あの人が、
 猫のキャリーケースみたいなものを用意していた。

 ペットドライヤーケースって言う温風が出る機械で、
 濡れた猫を乾かすためのものよ。
 
 

どらいやーけーす?

 ちょっと高そうな代物だけど、
 あったかい風が吹いて、心地よいの。

 私が中に入ると、
 あの人がスイッチを押して、温風が吹き始めた。

 ま、こたつの中とあんまり変わらないから、
 問題ないわ。15分くらいで乾くし。

 

ディナーよ

 その後は、猫缶でディナーを楽しんで、
 リビングで寛いだわ。

 そして私は、あの人の腕の中で抱かれて、
 優しく撫でられるの。

 そうよ。
 
 優しく撫でなさい。
 
 もっと撫でなさい。

 猫は撫でれば、撫でるほど、
 いい猫になるんだから。

 人の愛情で、猫は育つのよ。
 
 その瞳に、輝きが増すのよ。

 うにゃあ。

 

すまほー 

 あの人は、SNSで、
 猫に関する記事を読んでいた。

 猫を18匹飼っている人の話だ。

 地域猫、外猫の問題を扱っている。凄い。

 ああ、この人は、遠からず、
 猫の世界に行くわね。

 ム〇ゴロウさんみたいな世界に行くわ。
 
 動物の神様の世界よ。

 そこで私たちの面倒を見るの。
 
 生まれ変わりを管理するわ。

 動物に取り囲まれていると、
 人は幸せになれるのよ。成仏するわ。

 神仏は、人間のお供として、
 私たちをお作りになった。

 特に犬と猫。
 
 猫は自分から人の家に入るわ。

 家猫は、神様がそうセットしたのよ。
 
 これは本能よ。

 人間のコンパニオン・アニマルとして、
 そう造られている。

 にゃーお。

 深夜になった。
 
 

おねむー

 寝るわ。
 
 あの人の寝室に向かう。ごろごろ。

 猫は本来、夜行性だけど、
 人間と一緒に暮らしていると、同じサイクルになるの。

 私は先に枕の近くで丸くなると、
 あの人もやってきて、軽く撫でてから寝た。

 おやすみ。いい夢が見られますように。ごろごろ。

 

おやすみー

 明かりが落ちて、私は目を瞑った。

 身体が軽くなった。
 
 何だろう?
 
 心地よい?

 天から光が射した。
 
 道を照らしている。
 
 

みちー

 三人の人影がある。
 
 歩いている。

 あの人とママと娘ちゃん?だ。

 でも娘ちゃんは成長して、
 大人になっている?制服姿だ。

 あの人もママも、ちょっぴり歳を取っている。

 これは未来の世界?
 
 私は?私はどこ?

 いない。私はいない。
 
 これは私がいなくなった後の世界だ。
 
 

おもいでー

 うん。でも私の存在が消えた訳じゃない。
 
 私の話をしている。

 ちょっと寂しいけど、別にいいわ。
 
 あの人たちが幸せなら。

 ふと見上げると、
 上天を覆い尽くすオタマジャクシの群れがあった。
 
 

ぐんこーん

 群魂だ。
 
 猫の魂の群れだ。
 
 一つに纏まる。
 
 大きな光だ。
 
 


たいれーい


 
 あの中に私もいる。

 個性化する前の猫の大霊だ。
 
 下手な霊人よりエネルギー量はでかい。

 Big Catというか、大型のネコ科の動物みたいだ。
 
 権能だってある。
 
 眠りを司る?夢の守り手?

 宇宙にまで連なっていて、
 神様の猫?みたいになっている。
 
 神獣の一種?白虎?

 

あめのぬこのおおかみ?

 なに?これが私たちの正体?
 これが私たちの本当の姿なの? 

 そうだ、と謎のヴォイスが聞こえたような気がした。
 肯定の気配がある。

 じゃあ、どうやったら、人間になれるの?

 「白猫よ。動物が人間に進化する術を知りたいか?」

 今度はハッキリ、上の方から声が聞こえた。
 
 私は頷いた。
 
 それは知りたい。

 「では、これを見よ」

 

Le chien de montagne des Pyrénées

 それはあるピレニアン・マウンテン・ドッグの物語だった。

 白熊みたいにでかい犬だ。
 
 山岳救助犬と言って、人さえ運べる。

 凄かった。
 
 危険を顧みず、冬山で人間の命を救っている。

 

らぶー

 画面がまた切り替わって、黒いラブラドールが出て来た。

 全身IOTを装備して、
 お年寄りの電車移動を補助している。

 黒犬が自分でボタンを押して、
 人間の声のアナウンスを出している。

 全身義体化した犬みたいで、ちょっと面白い。
 
 今、こんなのいるんだ。

 「どうだ?」

 どうだ?って言われても、私は猫よ。
 
 こんな事、できない。

 「ではどうする?」

 私は人間の傍にいるわ。
 どんな時も傍にいて、その人の苦しみを抜きたいの。


よあけー

 謎のヴォイスは、微笑んだようだった。

 「よい心がけだ。ゆめゆめ忘れるな」
 
 夢だけに、夢オチなんてないよね?

 そこで朝になった。6:30だ。

 私は頭を起して、周囲を見渡す。

 何か見ていたような気がする。 
  
 何だったっけ?う~ん?

 それよりも朝食の時間よ。
 
 皆、起きて、起きて。

 私はあの人の頭に近づくと、
 頬にすりすりした。

 ああ、あの人のひげと私の猫ひげが混ざって、
 微妙な感触だわ。

 にゃーお。

 起きて、起きて、朝よ。
 
 起きないなら、チューしちゃうぞ。

 「……もう朝か?まだ6:30じゃないか」
  
 あの人は起きると、私を抱き寄せて、そう言った。

 でも幸せでしょ?来来!My Sweet House!


まったねー

私は白い猫だよ 4/5


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