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[英詩]ディランと聖書(10) ('Forever Young')

※ 旧「英詩が読めるようになるマガジン」(2016年3月1日—2022年11月30日)の記事の避難先マガジンです。リンク先は順次修正してゆきます。

「英詩のマガジン」の主配信の8月の1回目です(英詩の基礎知識の回)。

ボブ・ディランと聖書の関りを考えています。今回は、'Planet Waves' (1974, 下) に収められた 'Forever Young' です。

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'Forever Young' は本マガジンでかつて取上げました。

そこでは、主として、キーツの詩「ギリシアの甕に寄せる」'Ode on a Grecian Urn' との比較 (特に3連の 'For ever panting, and for ever young;' の行)、キリスト教の徳としての「希望」(特にその成就を妨げるものと 'surround' の語との関係)、ディランの初期の歌 'Bob Dylan's Dream' (1963) との比較 (特に 'We thought we could sit forever in fun' の行に現れた願い) などを扱いました。

その際に、聖書の関連ではイザヤ書の 'Trust ye in the Lord for ever.' にふれましたが、今回はそれをふくめ、本歌と聖書との関りについて、もう少し探ってみます。

本マガジンは英詩の実践的な読みのコツを考えるものですが、毎月3回の主配信のうち、第1回は英詩の基礎知識を取上げています。

これまで、英詩の基礎知識として、伝統歌の基礎知識、Bob Dylan の基礎知識、バラッドの基礎知識、ブルーズの基礎知識、詩形の基礎知識などを扱ってきました。(リンク集は こちら )

また、詩の文法を実践的に考える例として、「ディランの文法」と題して、ボブ・ディランの作品を連続して扱いました。(リンク集は こちら )

詩において問題になる、天才と審美眼を、ボブ・ディランが調和させた初の作品として 'John Wesley Harding' をアルバムとして考えました。(リンク集は こちら)

最近、7回にわたってボブ・ディランとシェークスピアについて扱いました (リンク集は こちら)。

最近は、歴史的には、そして英語史的にも、同時代の英訳聖書と、ディランについて扱っています。

「ディランと聖書」シリーズの第1回でもあげましたが、ディランと聖書の問題を考えるうえでの基本的文献は次の通りです。

(1) Bradford, A[dam]. T[imothy]. 'Yonder Comes Sin' [formerly 'Out of The Dark Woods: Dylan, Depression and Faith'] (Templehouse P, 2015)
(2) Cartwright, Bert. 'The Bible in the Lyrics of Bob Dylan', rev. ed. (1985; Wanted Man, 1992)
(3) Gilmour, Michael J. 'Tangled Up in the Bible' (Continuum, 2004)
(4) Heylin, Clinton. 'Trouble in Mind: Bob Dylan's Gospel Years - What Really Happened' (Route, 2017)
(5) Karwowski, Michael. 'Bob Dylan: What the Songs Mean' (Matador, 2019)
(6) Kvalvaag, Robert W. and Geir Winje, eds., 'A God of Time and Space: New Perspectives on Bob Dylan and Religion' (Cappelen Damm Akademisk, 2019) [URL]
(7) Marshall, Scott M. 'Bob Dylan: A Spiritual Life' (WND Books, 2017)
(8) Rogovoy, Seth. 'Bob Dylan: Prophet, Mystic, Poet' (Scribner, 2009)

これら以外にも、一般のディラン研究書のなかにも聖書関連の言及は多く含まれています。それらについては、参考文献 のリストを参照してください。

※「英詩が読めるようになるマガジン」の本配信です。コメント等がありましたら、「[英詩]コメント用ノート(202108)」へどうぞ。

このマガジンは月額課金(定期購読)のマガジンです。月に本配信を3回お届けします。各配信は分売もします。

英詩の実践的な読みのコツを考えるマガジンです。
【発行周期】月3回配信予定(他に1〜2回、サブ・テーマの記事を配信することがあります)
【内容】〈英詩の基礎知識〉〈歌われる英詩1〉〈歌われる英詩2〉の三つで構成します。
【取上げる詩】2018年3月からボブ・ディランを集中的に取上げています。英語で書く詩人として新しい方から2番めのノーベル文学賞詩人です。(最新のノーベル文学賞詩人 Louise Glück もときどき取上げます)
【ひとこと】忙しい現代人ほど詩的エッセンスの吸収法を知っていることがプラスになります! 毎回、英詩の実践的な読みのコツを紹介し、考えます。▶︎英詩について、日本語訳・構文・韻律・解釈・考察などの多角的な切り口で迫ります。

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これまでのまとめ

ディランと聖書の問題を扱うシリーズの概要は次の通りです。

シリーズの (1), (2), (3), (4) についての簡単なまとめは こちら

シリーズの (5), (6), (7), (8) についての簡単なまとめは こちら

(9)'Precious Angel' の聖書との関りを考えました。ディランは聴き手に霊戦でどちらにつくのか決断を迫ります。聴き手の板挟み状態をリクスは Faith in Dylan と表現します。(1) ディランにおける信 (信仰) / (2) ディランに対する信 の2つの意味があり得ます。聴き手は雅量をもってアートに接するべきだとリクスは主張します。歌の冒頭の 'Precious angel, under the sun' は下手をすると陳腐にひびきかねませんが、angel を前後から修飾する語句は、聖書 (特にヨハネの黙示録) に照らすと、特別な意味が浮かびあがります。聖書の文脈から どうずらし、どう応用することで特別な表現を生み出しているのかを考えます。


Forever Young

今回は、'Forever Young' (下) を、聖書との関りで考える。詩テクストはリクスらの校訂版を用いる。

動画リンク [Bob Dylan, 'Forever Young' (slow version) (Official Audio)]

動画リンク [Bob Dylan, 'Forever Young' (from 'The Last Waltz')]


1連〜コーラス

'Forever Young' の1連の2行 (公式詩集で3-4行) に 'do for' という句動詞 (phrasal verb) が現れる。英文学者のリクス (Christopher Ricks) はこの表現に着目する。

1連からコーラスにかけての詩行を引いてみよう。

May God bless and keep you always, may your wishes all come true
May you always do for others and let others do for you
May you build a ladder to the stars and climb on every rung
And may you stay forever young

 Forever young, forever young
 May you stay forever young

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