ミオール / Mícheál

ピアニスト。楽理・韻律・神学の交わる愛蘭詩歌へ

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[書評] 吉野奏美氏の近著

吉野奏美『霊感体質かなみのけっこう不思議な日常 10』(三栄書房、2021) この世は仮想空間で真実はその外側にある 本書では著者が知ったさまざまの人物の言葉が紹介される。その中で、サンジェルマン伯爵が仮想空間のことについて始めに発言する。 この世は仮想空間で真実はその外側にあるのです! (64頁) 同様の趣旨は他の登場人物たちも発言する。いろいろな譬えを使っても説明される。 が、はっきり言って、この言葉を理解するのは通常の3次元思考では難しいかもしれない。 この

    • [書評] 葵

      紫式部「葵」(11世紀) そらに乱るるわが魂を をめぐって 源氏物語の第9帖「葵」の全体ではなく、「そらに乱るるわが魂を」の歌(源氏物語和歌番号117番)の諸問題についてふれてみる。 この歌は六条御息所(源氏の恋人)がもののけとなって葵(源氏の正妻)にとり憑く物語の中に出てくる。弱った葵の様子を心配して加持祈祷を行わせている最中に、源氏の前で葵の声がする。 嘆きわび空に乱るるわが魂を結びとどめよしたがへのつま 大まかに言って、この歌には次の問題がある。 ① 歌のテ

      • [書評] 世界を統べる者

        矢作 直樹、宮澤 信一『世界を統べる者——「日米同盟」とはどれほど固い絆なのか?』(ワニブックス、2022) エネルギーと食糧は極論すれば日本はやがて自立できる 日米安保の背後にあるMSA協定(Mutual Security Act)について知りたい人にはおそらく必読書。(誤植をもう少し減らせば)日本人の必読書にもなり得る書。 矢作直樹(東京大学名誉教授)と宮澤信一(国際実務家)の両氏が戦後の日米関係の背後にある構造的な仕組みを中心に縦横に語り合った書。 人によっては

        • [書評] 花宴

          紫式部「花宴」(11世紀) 物のあはれと 朧月夜 源氏物語の第8帖「花宴」を読む。源氏は桜の宴で漢詩を作り、「春の鴬囀るといふ舞」を披露する。宴が終り、月の美しい晩に誘われ、酔心地の源氏は、藤壺周辺を訪ねるが戸が閉まっている。弘徽殿の渡り廊下で、ふと「朧月夜」の古歌を口ずさむ美しい声を耳にする。 歌っていた女性が源氏の近くへやって来たので、とっさに袖を捉えると、「 あな、むくつけ。こは、誰そ」(あら、嫌ですわ。これは、どなたですか[渋谷栄一訳])と言う。 そこで源氏は

        [書評] 吉野奏美氏の近著

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        • 音楽 評 / 旅(ピアノ)
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        記事

          [書評] 若紫

          紫式部「若紫」(11世紀) 源氏最愛の女性との出会いは前生の縁か 源氏物語の第5帖「若紫」を読む。藤壺が源氏の運命の女性とすれば、藤壺の姪にあたる紫上は源氏最愛の女性。 その紫上がまだ十歳のおりに、十八歳の源氏は京都・北山で見初め、後見を申し出る。だが、育ての親の尼君はじめ周囲は、源氏の申し出を酔狂と考え、まともに受けとらぬ。この難関をいかに源氏が乗越えるか。そこが本巻の見どころ。 * 本巻は興味深い内容を多く含むので、原文を含めいろいろな現代語訳・注釈を読んだ。結

          [書評] 自分を休ませる練習

          矢作直樹『自分を休ませる練習』(文響社、2017) マインドフルネスは中今そのもの 一見、外国産にみえる「マインドフルネス」は、〈ずっと昔から日本人がやってきていたこと〉と著者は述べる。それを表す言葉が神道でいう「中今」であると。 「中今」は〈今を生き切ることこそ大切という意味を持つ言葉〉だが、〈マインドフルネスは中今そのもの〉であると著者は言う。 「マインドフルネス」は新しいことでなく、〈日本人が当たり前に知っていた感覚〉であり、〈「本来の自分を取り戻す」ということ

          [書評] 自分を休ませる練習

          [書評] 空蝉

          紫式部「空蝉」(11世紀) 最後の二首の謎解き・かな 源氏物語の第3帖「空蝉」を読む。空蝉は、伊予介の若い後妻であるが、源氏は第2帖「帚木」で初めて出会う。 この空蝉という女性はおそらく源氏物語において特別の登場人物と思われる。特別というのは、空蝉、紫の上、浮舟が作者・紫式部を投影している可能性があるからだ。この説は〈古典の改め〉というウェブサイトで初めて見た。同サイトは、イェール大学や東京大学からアクセスする読者が多い、稀なる研究ページである。 * 源氏は空蝉に初

          [書評] 長生きにこだわらない

          矢作直樹『長生きにこだわらない』(文響社、2019) 「あと何年」と逆算せずに今を楽しむ 本書で著者は〈「あと何年」と逆算的に生きるのは厚かましい〉と述べる。これは神道でいう〈中今〉の考えからきている。 逆算的に考え過ぎると自縄自縛に陥ると。よって好きなことをして今日をまずは楽しむ。これを奨める。 〈「あと」とか「まだ」という言葉は脳に不要な情報〉であると断言する。 例えば、マラソンをしているとする。〈あと何キロと考えた時点で「まだ何キロ」という言葉が心を支配し、余

          [書評] 長生きにこだわらない

          [書評] 桐壺

          紫式部「桐壺」(11世紀) 世の人ひかるきみと かゝやく日の宮ときこゆ 源氏物語の第1帖「桐壺」を読む。主人公の光源氏とその運命の相手、藤壺が早くも登場する。 この両名は原文でみると〈ひかるきみ〉および〈輝く日の宮〉と世の人がお呼び申上げると書いてある(「世の人ひかるきみときこゆ」「かゝやく日の宮ときこゆ」)。 現代語訳ではこの両呼称をさまざまに訳す。 与謝野晶子の昭和13-14年の訳では「光の君」「輝く日の宮」とし、明治44-大正2年の最初の訳では「光君(ひかるき

          [書評] 世界一美しい日本のことば

          矢作直樹『世界一美しい日本のことば』(イースト・プレス、2015) 不安や後悔は「幻」であること 日本人が知っておきたい47のことばを収録した本。ばらばらな内容でなく、著者の思想が一貫して流れ、読み進めるうちに個々の言葉を有機的につなぐ、ある考えがあることが感じられてくる。 例えば、次のようなことばが取上げられる。 ◎おかげさま 人間関係をなめらかにする極意 ◎水に流す 「しつこい怒り」を手放すシンプルな法 ◎無常 この世のすべては移ろいゆく ◎住めば都 「執着」を手

          [書評] 世界一美しい日本のことば

          [書評] 伊勢物語

          坂口 由美子編『伊勢物語』(角川学芸出版、2007) 歌を詠む者は皆『伊勢物語』を熟知していた 源氏物語に大いに影響を与えた伊勢物語。その秘密を探ろうと本書を読んだら、逆に、伊勢物語じたいのおもしろさの虜になってしまった。 本書では伊勢物語のおもしろさとそれを成りたたせる時代背景がわかりやすく書かれ、伊勢物語をよりおもしろく味わえるようになる。伊勢物語が同時代および後世に広く深く影響を及ぼした理由は、あまりにもおもしろく魅力にあふれた作品であるからだということがよくわか

          [書評] 伊勢物語

          [書評] 命には続きがある

          矢作直樹、一条真也『命には続きがある 肉体の死、そして永遠に生きる魂のこと』(PHP研究所、2013) 救命医師と葬儀のプロという異色の顔合わせによる対談 生と死の現場に長年身を置いてきた二人が、自らの体験や思索などを通じて培った死生観を縦横に語り合う。 二人はそれぞれの職業上の経験をふまえて語ることも多いが、本に書かれた興味深い死生観に言及することもある。 二人が言及し、引用する本をみると、本書での議論が思い出される面がある。そこから広がる世界は本書の範囲を超えて、

          [書評] 命には続きがある

          [書評] 新編 人生はあはれなり… 紫式部日記

          小迎裕美子『新編 人生はあはれなり… 紫式部日記』(KADOKAWA, 2023) 才女批評と式部の自意識 『新編 本日もいとをかし!! 枕草子』では清少納言派だった著者が本書では紫式部派になっている。 それでも、何かにつけて、この二人の女性作家を著者が比較することはとまらない。紫式部本人も、清少納言は、他の作家たちと並んで、意識する対象だったのはまちがいない。 本書は紫式部日記をベースに、軽快なタッチで平安時代の宮中の雰囲気や、その周辺の人々の動きを、それぞれの思惑

          [書評] 新編 人生はあはれなり… 紫式部日記

          [書評] 光明瞑想

          サティヤ・サイ・ババ『サイ ババの光明瞑想』(サティヤサイ出版協会、2011) シュリ サティヤ サイババがすべての人々に推奨している光の瞑想方法 東山彰良の『わたしはわたしで』を読んでいて突然サイババが出てきた。何の脈絡もなく。しかし、サイババのことばは主人公に影響を与え、ある行動を起こさせるきっかけとなった。 べつに東山氏が日頃バジャン(サイババ賛歌)を熱心におこなっているというわけではおそらくなく、サイババの金言をネットから拾ったという体裁になっている。 それで

          [書評] 光明瞑想

          [書評] 新編 本日もいとをかし!! 枕草子

          小迎裕美子『新編 本日もいとをかし!! 枕草子』(KADOKAWA, 2023) あるある感満載のコミックエッセイ版枕草子 枕草子の約300編の章段から抜粋し四コマ漫画ふうにほぼ一題一頁でまとめ、エッセンスをさっと読めるようにしたもの。著者からみて共感する段のみを集めてある。 確かに、あるあると思われる観察がたくさんあり、現代人にもわかる部分が多い。以下、気になった段を挙げてみる。 この段には〈シキブが同じ状況で書いている日記が全然ちがっておもしろいです。〉とのコメン

          [書評] 新編 本日もいとをかし!! 枕草子

          [書評] 天皇

          矢作直樹『天皇』(扶桑社、2013) 神祇伯白川家に伝承された神道と延信王 本書(2013)執筆のころ、著者は東京大学医学部救急医学分野教授として、天皇の治療に関る医師団に属した。そんな著者ならではの貴重な証言の数々が含まれる書。 内容としては、『人は死なない』(2011)に既出の九死に一生を得た登山時の体験や、後に『日本史の深層』(2018)に展開される独特の史観などを含むが、本書には貴重な白川家の歴史に関する記述がある。 白川家のことを神祇伯白川家と呼ぶが、そのわ