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☆本#163 生きてる理由を失うとき「心は孤独な狩人」カーソン・マッカラーズ著を読んで

この著者の本は以前読んだことがあって、ついにデビュー作で代表作の本作品を読んだ。
訳は村上春樹で、翻訳を始めた40年前からいつか訳したいと思っていた宝物のような作品らしい。読んでいくうちに、なぜそういうのかわかってきた。

以前、村上春樹と柴田元幸が同じ作者の本の訳を書いている本を読んだ時、過不足ないほうが後者で、前者は彼の書く小説のような表現が目についた。けど、この小説ではそれがない気がする。

とても長編で、語り手が複数いる。聾唖者のシンガー(歌手ではなく、名前)、少年っぽいティーンのミック、黒人医師のコープランド、流れ者のジェイク、食堂の主のビフ。

出だしはシンガーと同じく聾唖者のアントナプーロスの話。
2人は10年同居してるけどホモというわけではなく、後者が太って病気になって人格が変わっていって厄介人になる。けど見放すことはない。常識を逸してきて、アントナプーロスの親戚が彼を見限って離れた街の精神病院に送ることになり、ふたりは別れ別れになる。

シンガーにとってアントナプーロスは唯一の話し相手で、唯一無二の大切な人だった。

引っ越して一人暮らしを始めて、シンガーはビフの食堂へ行く。ここで、ミック、ジェイクと知り合い、交流が広がっていく。
といっても、シンガーは聞き役に徹していて、彼らを多分友達とは思っていない。

シンガーは、度々アントナプーロスに会いに行く。アントナプーロスは、もう昔とは同じじゃないけど、シンガーにとっては変わらず大切な友達なのだ。
そして、再び会いに行って、もう亡くなっていたことを知る。

シンガーは生きる理由を失い、命を絶つ。

葬式を催したのは食堂の主のビフ。シンガーは借金があったので、みんなで分散対応し、ラジオ代を引き継いだのはミックだった。ジェイクは、悩みをすべてシンガーに話していたけど、それを持ったままシンガーは逝ってしまってやり切れず町を出る。医師コープランドも、一度ジェイクと激しく口論し合い、それ以降体調が優れず、彼の娘が田舎に行くよう提案し、そうする。

シンガー以外も、いろいろあって、人種差別的問題で人が足を失ったり、妻が病気で突然死したり、アントナプーロスが病気になったり、コープランドが刑務所に入れられたり、そして、ミックも少女から大人になる。

シンガーの葬儀の参列者は多く、残されたものは未来に向かうエンディング。

独特な世界で、琴線に触れるストーリー。





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