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今しか書けない文章がつなぐ未来

あの日、あの時しか書けない文章があると思っている。同じ出来事でも、当日に書くのと一ヶ月後に書くのでは湧き上がる言葉が違う。瞬発性が生む躍動感、熟成が生む奥行き、どちらが優れているわけでもない。

書きたいときに書くのが一番いいのだろう。そのときを逃せば、二度と生まれないかもしれない。


3年半ぶりに実家へ帰ってきた。そこでほぼ確信を持ったのだ。私はしばらく家族についてエッセイは書けないと。身近な人について文章にするときは、つくづく距離感が必要だと感じた。

たとえ長年一緒にいた家族であろうと、数年ぶりに再会すれば調整が求められる。それぞれ生活をしていたのだから、意見や考え方がぶつかるのは当然だ。私はアメリカで親になり、両親は日本で年老い、心身ともに変化が大きい。そのため、実家に帰ってきた当初は、父母とのケンカが多かった。

再会した喜びに、戸惑いや苛立ちが混ざり、互いに折り合いをつけていく。

かつて、ここでについて書いたことがあった。「この頑固親父め…」などと悪態をつく今では、あんなに純粋な気持ちでは書けない。私にとって時間と距離は、相手に対する淀みや歪みを整えてくれるものだった。

でも、だからこそ書いておいてよかった。今の私には、あの文章は絶対に生み出せないだろう。長い時間と遠い距離を介すことで、感謝や慈しみを持てるようになった。その心が書かせた文章である。

そして、綺麗事のようなそれは、私にとってさまざまな感情を削ぎ落とした先の、本当の気持ちなのかもしれないのだ。

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結果的に提出が間に合わなかったけれど、#真夜中インター 企画の『あなたの創作とのエピソード」』で、私が一番に思い浮かべたのは、これまで何度かちらりとnoteにも書いた「大好きだった人への手紙」だ。

非常に重い若気の至りだが、恋人と別れるときに渡した手紙を、彼がたいそう褒めてくれて「こういう仕事をしたらいいよ」と返してくれたことが、私を編集の道に進ませた。

そんな始まりを経て。情報ばかりを取り扱う雑誌やWebサイトを10年と作っていたら、自分の感情を綴るのがだんだん気恥ずかしくなり、というより書きたいともさほど思わず、思わなかったはずなのに、ある日唐突に「ようやく向き合おう」なんて心境になった。

あの頃は、想像もしていなかった。何気なく始めたプラットフォームの場で、こんなにも多くの「心を通わせ合える人たち」と出会う未来を。

帰省後、ここにいるMicaとして、いろんな人と会うことができた。満ちるような楽しい時間を、いっぱい過ごした。ふと、不思議な気持ちになる。創作について熱く語り合ったり、推しに対する感情を共有したり、空の下ビールで乾杯したり。私は、そうやって一緒に過ごしている相手の本名も知らないのだ。

とくに必要性を感じないからだし、もし要する場合は伝えていい。そのぐらい信頼できる人たち。なぜそう思えるのだろう。これを文章の力と呼ぶんだろうな。


地元では10代の頃から付き合いのある友人たちとよく集まった。3年半の間ほとんど連絡を取らなかったのに、会えば一瞬で戻れる。みんなSNSをやらない。書く人も一人とていない。インターネットを介さない間柄に、どこか安堵している。

しかし同時に、私は書くことや作ること、考えることについて語れる友人を、ずっと欲していたのだと思う。ここでやり取りさせてもらっている方々は、私にとってそんな友達。

だからといって、友達作りのためにnoteを書いたり続けたりするかといえば、ちょっと違う。あくまでも自分や世界と向き合い、文章を綴った先にある出会いと関係性を大事にしたい。

何を書くのかも、何を目指すのかも、わからなくて、でも、その時期ごとにやりたい方向性を模索しながら見つめていたら、わからないからこそ思わぬところに辿り着けた。


あの日渡した、失恋ラブレターからつながる未来に、こんな弾むような乾杯の瞬間が待っているなんて。

書いていてよかったな。

本当はたくさんの写真を載せたいけれど、世の中の状況を考慮して乾杯の象徴となった一枚を。


直接お会いできた方以外にも、普段は時差で参加できないverdeさん主催の「大人相談会」にお邪魔させてもらったり、アメリカ組と久々にテキスト会話したら何だかホッとしたり、日本にいるからこその、仲間と話す楽しさを味わった。

どうしてこんなに優しくて温かい人ばかりなんだろうね。


これまでの人生からは考えられない絆の作り方を知った。それだけで、充分に続けてきた意味があった。

書いておいてよかったし、書いていてよかった。今回、移動面でご対面が叶わなかった人、私の勇気が足りずお誘いできなかった人とも、いつかお会いできると信じて。

そして、こうやって会いたい人に会えたのは、協力してくれた両親のおかげだ。実家生活の最後に短い手紙を書いて渡した。そこにのせた一番の気持ちは、やっぱり感謝なのだった。

湧き上がる思いを言葉にして書き留め、自分や相手へ届ける。ずっと変わらずにやってきた行い。その連なりは、またどんな景色を見せてくれるのだろう。わからないから、これからも続けてみたい。

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