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『闇の底にて与えられん〜発達障害の陰陽』第2話「メンタルの限界」(note創作大賞ミステリー部門)

メンタルの限界

昼間に妻がメッセージ送信してから、夜のコンサル開始時刻まで。

その間、
妻から俺に対する説明、釈明、弁解、言い訳、、、そのたぐいは一切無し。

つまりは夫婦の会話はゼロのまま、コンサルが始まった。

「あの話には、明確な意図があったんです。」

赤賀さんからの説明は、こうだ。

昨晩の通話メンバーの中に、ご家族の中に発達障害の疑いのある方がいらして、接し方にご苦労なさっている方がいらっしゃるということだった。

今日になって、その方に赤賀さんが連絡して聞いてみられると、「私の大変さも、それが原因だったのかもしれません。分かってホッとしました」というようなこと仰られていたそうだ。

また赤賀さんのご家族でも、配偶者の発達障害で引きこもられた方がいらっしゃるとか…

要は、おそらく、そういう方の気づきを促すために、赤賀さんはお話をされた、という事だったのだろう。

「克己さんは、いかがですか?どう感じられましたか?」

「僕は、正直申し上げると、、、うちの長男も発達障害ですし、やはり少し気になりました。ですが、ご事情も伺いましたので、、、大丈夫です。」

長男の覚は、広汎性発達障害の診断を受けている。
覚の子育てについては、3歳の頃から赤賀さんに相談していて、この春やっと何とか私立の高等専修学校に入学することになったばかりだ。

妻は、赤賀さんのお話をちゃんと理解出来たのかどうか…ぼーっとした表情のまま、
「今回のように、これからはNOを言うようにします」とだけコメントした。

全く…妻の話は唐突で、意味不明だ。これで意思の疎通が出来ているのだろうか。

そして、赤賀さんはさすが冷静だ。

「…では、これまでのことで、NOを言いたかったことはありますか?」

「……………」

妻の沈黙は長い。無視してるようでもある。突然反応して、

「………あ。少しお待ち下さい。画像で送りますので。」

妻が操作すると、俺のiPadの画面にも、画像が表示される。

いつものSNSグループの画面のスクショだ。
どうやら、以前のやり取りの様だ。
読んでみると


奥様(千佳さん)自体(未検査ではありますが)いわゆる、グレーゾーン、スペクトラム、があると思っています。
奥様は自分の個性には多分気づいていないか、、都合のいい時だけ“私もそういう感じなので“というような立ち位置をとったりで、
会話が成立しないことも、勝手な解釈での暴走もあります。
(夫婦間でもそうみたいです)

赤賀さんの奥さん、真未さんが書かれたメッセージだった。

相手は片付けコンサルタントの、ひろママ。

日付を確認すると、去年の8月、もう7ヶ月も前だ。今さらじゃないか。

「止めて欲しかったです。プライバシーの侵害だと思います」

「これからはNOを言える自分になります。」

繰り返しだ。それは分かったから。

「会話が成立しない」と書かれたまんまじゃないか。

赤賀さんは落ち着いていて、
「これは…一発アウトですね。クライアントの秘密を他人に伝えてしまっている。

真未が担当していて、私は知らなかったけれど、それでも、これは申し訳ない。」

さらに千佳は言った「愛の無い書き方です。」

赤賀さん「まぁ、そうですね…」

真未さんは黙って、とても困っている様子が伺える。

「真未さんはお前に愛があるやろ!」
俺はたまらず妻に言った。

隣で涙ぐんでいる千佳が腹立たしい。そんなことも、分からないのか、と。

今まで、どれほど助けていただいのか…恩を仇で返す典型か。

赤賀さんは冷静に仰った。
「夫婦で大きな認識の違いがありますね。」

今度は真未さんが
「次のテーマは、夫婦関係のコンサルにしましょうよ。」と。

それから話題は、俺のコミュニケーション課題の話になったが、正直あまり覚えていない。

翌日の午後、千佳はSNSにメッセージを投稿した。

その後、赤賀家でのお話し合いはいかがだったでしょうか…?😊
例の件について、御社として、どういうご対応なさるのか、またお知らせくださいませ。
こちら連日外出など用事ありますので、急ぎません。
日曜の次回コンサル時にご説明いただければ、と思います🙏
あと、
次回の夫婦コンサルには、一旦、真未さんにはご遠慮いただきたいと私は感じておりますので、お伝えさせていただきます。
よろしくお願い致します🙇‍♀️

仕事でバタバタしている合間に千佳のメッセージを見つけて、俺は赤賀さんに電話して千佳の態度を詫びた。

全く、常識外れな…世話がかかるやつだ。

それで、次回コンサルは5日後に決まった。
その時まで、千佳に話しかける気にはなれなかった。

千佳への対応を赤賀さんと相談するため、何度かやり取りをした。

本当に、面倒をかける。
今回のことで、俺のメンタルはさらに限界に近づいた。

10年以上の間、何度も千佳と一緒に受けて続けてきた、赤賀さん夫妻のコンサル。

春分の日をまたいだ日曜。
俺たち家族の運命を変えた日。

夫婦がそろったコンサルとしては、この時が最後となった。


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