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黒の機械兵 第一話 たびだち#7

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次弾が放たれ、拘束が重ねられる。鉄狼は再び伏して地に貼り付けられるが、ギチ、ギチと音を立てて諦めることなく抵抗の意思を見せる。
あんなものと戦っているのか。
覚醒して以来の、どこかのほほんとした雰囲気に飲まれ、知らず勘違いしていた。そんなに甘い世界ではないのだ。

「もうすぐだ。きっともうすぐ」
そう声を掛け合いながら、第三射の用意を小父さん達が進める。だが……
「不味い。次の組のリケがいないぞ。撃てるか」
「今日は早く帰ってた。そのまま家に籠もってるんだ」
「こっちに引き付けられてるのはいいが、さすがに呼ぶことはできんよな」
小声でそう囁き合う彼らは、すでに相当疲弊して見えた。

「あの……司祭様」
「うん?」
アガツマ氏……彼もじっとり汗をかき始めていた……は視線だけでこちらに意識を向ける。
「あれ、僕らでも撃てないんですか。少しでも。手伝いでも」
「……難しいね。誰でも撃てるわけでもないんだ。いや……正式には誰とでも。か」
拘束が一本、弾ける音がした。
「似た魔力の人で組んだ組でなければ、撃つ前に……魔力が纏まらなくて消散するんだ。結構これの調整が難しくて……」
と、言ったところで、ふと何かに気付いた様子でアガツマ氏が言葉を止める。言葉も途切れ途切れで、辛そうである。
「そうか……君なら出来るかもしれない。君なら、一人で魔力を賄える。……イライゼ! シスターイライゼ! トーリくんに大筒の扱い方を」
そういうことになった。

「ここと、ここに。そう、手の平を乗せてください。そこから貴方が大筒と繋がってるような気持ちで、魔力を流し込んで。注意するのは、身体から力が抜けてくるのはいいですが、目の前が霞んできたら、すぐ手を離して」
先程測定の手伝いをしてくれていたシスターが、再び手ずから俺に操作法を教えてくれる。身体の密着なんて気にする暇はなった。
「狙いは他の人がします。流し込んで、拘束する縄のイメージ……縄、蛇、蔦……そういうイメージですね。それで、合図で撃つ。じゃあ、やってみて」
そう言われて、測定のとき以来知覚し始めた体の中の流れのようなものを、ゆっくりと動かして全身から手のひらへ、手のひらから大筒へと流し込んでいく。温かいというより熱いと言ったほうが正しい。体の力が抜けるということはなく、奥から湧き上がるものを感じた。

「トーリ坊、凄いな」
「よし、狙うぞ」
「今は時間を稼ぐのが良い。ギリギリまで待とう」
先程まで大筒に魔力を流していた小父さんたちが筒に取り付き、照準の微調整をしている。俺はといえば、込めた魔力で拘束するイメージを練っているところだった。
「あと三条……二条千切れたら、撃ってくれ。合図する」
俺は首肯でそれに答える。
バン、という音がした。太い繊維質のものが千切れる音だ。魔力で編まれたものだが、そこも同様らしい。
《ギョーーーーン!!》
鉄狼が咆哮する。強く身じろぎし、綱が切れる音がした。
「今だ!」
俺の頭の中で描くのは縄、網。そして、動くなという、強い意志。
「術式、拘束ノ網……!」
ギラギラと輝く魔力の塊が発射される。それは真っすぐ飛ばず、ホップして鉄狼の少し上へと向かってしまった。

「跳ねたぞ!?」
「それに成形できてない。塊だ」
なんで!? 驚きの声を上げる小父さんに続き、俺も心中突っ込みの声を上げる。
照準をずらすこともしてなければ、ちゃんと拘束する網のイメージで……網? もしかして縄じゃないといけなかったのか?
そんな考えが一瞬で脳内を駆け抜ける。そしてそのまま外れてしまうかと思ったその瞬間、その塊は爆発するように薄べらく伸び、同時にその面を疎にして網のような形に変形した。

キン!

そして、網の端が地面に突き刺さる。

キン! キキン! キキン!

それが六度。鉄狼の周りを囲むように激しく地面へ打ち込まれた。

【続く】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。