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黒の機械兵 第一話 たびだち#6

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一瞬の溜めの後に、鉄狼がこちらの建物へと突進する。果たしてあんな金属の塊の様な物体の激突に、石造りとはいえ耐えられるのだろうか?
「しまったな。さっきデモンストレーションしなければよかった」
アガツマ氏が半ばボヤくような口調でつぶやく。
「術具展開。神聖術式。其は護る光の障壁」
彼が両手で以て護持した錫杖を屋上にトンと打ち付けると、その瞬間教会が光の幕のような物で覆われた。

ゴガギャア!

その障壁は一見して布のように見えるものの、確かな防御力があるようでそれにぶつかった鉄狼から破滅的な音が鳴り響く。しかし、なんの痛痒もなさそうに立ち上がった。
そして、もう一度。そして、もう一度。

「だ、大丈夫なんですか?」
「今しばらくは、大丈夫。君の魔力が引き付けてくれるから、他の所の避難が捗るよ」
思わず問うた俺の言葉に、気軽な様子でアガツマ氏は答える。ゾッとしない話だが役に立ててるなら良いことだ。
「それに、ほら」
と彼が示すと、先程からゆっくりと引き上げていた大型の術具が屋上の一角に据え付けられていた。

「今だ、術具開放! 捕獲術式。連縛五条!」
飽きもせず体当りしていた鉄狼が何度目か分からないほど弾かれ、動きを止めたところで、数人の村の小父さんたちが大砲風の術具から輝く縄を発射させる。
その名の通り、五本の魔法の縄が緩く回転しながら迫り、鉄狼に絡みつき地面に縫い止めた。

「やっ……た?」
と俺が言う間もなく、縄は少しずつ破断し始める。
「だ、大丈夫なんですか!?」
鉄狼は関節を赤熱させながら必死に身を起こし、尚も教会に……いや、正確には俺に食らいつこうと首をもたげる。
「交代だ! 次撃つぞ!」
そう声を掛け合う小父さんたちは、よく見れば小雨を浴びたように汗まみれだった。
「大丈夫。大丈夫と信じなさい。ここの大人たちを、ね」

【続く】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。