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黒の機械兵 第一話 たびだち#1

綺麗な夕日を見ていたら、俺は転生者だということに気付いた。

「僕……俺は、地球に生きていた……!」
「はあ? トーリ何いってんの?」
幼馴染のユハが胡乱げな瞳を向けてくる。俺はこの子に好意を寄せて”いた”。今はちょっとわからないが。

「いや、すまん、なんでもないよ」
「なんでもないっていうか、何その口調。偉そうじゃない?」
「は? にぎゃーーー!」

どうも俺は……この身体の主は……この少女に相当尻に敷かれていたようだ。

美事な海老反り固めを喰らいながら、俺はそんな事を考えていた。

「で、転生って何?」
「えー、それ話すぅ?」
「」シュッシュッ
「ひぃ……話します話します」

前世……21世紀の日本。なんの取り柄もない普通の男だったと思う。歳は20代か30代……そこまでしか思い出せなかった。

「30代とかうちのパパと同じくらいじゃん……」
記憶を探るとやや渋みを帯び始めたイケメンが浮かんでくる。なるほど娘さんもきれいになるわけだわ。

「これから川遊びとかついてこないでね。叫ぶから」
そんなー。というかそんなに仲は良かったんだ。

「……ていうかさ、トーリどこやったの?」

それは、考えたくなかったが俺も考えていた。

「溶けたん……だと思う。俺の意識は”俺”でありトーリなんだ」
「ふーん……」
そうまた胡乱げにこちらを見る。やめてちょっと癖になる。ロリコンじゃなかった(と思う)のでこれは今の体の反応だ。

「私の誕生日は?」
「葉の月廿日。今は文の月の十日だから、一月と少し先だな」
「トーリの誕生日は?」
「文の月九日。あ、昨日じゃん」
「そうだよ……そこは覚えてるんだ」

当然のように思い出すわけでもなく、何か物を調べてそれを読みあげるのともちがう、一拍遅れたような記憶の繋がり方。しかし、今や、今思い出したことは絶対に忘れることはないように当然に記憶が定着している。不思議な感覚だ。

そう思っていると、ユハは泣いていた。

「なっ、なんで? どうかした? 俺がなんかしちゃった?」
「……トーリは俺なんて言わなかった。もっとおどおどしてた。でも犬に取られた帽子は取り返してくれたしそのまま川に落ちて風邪ひいても何も私を責めなかった。そこが情けなくて私は逆にバカにして責めても、全部見透かして笑ってた」

俺は、何も言えない。それは全部、知っている。だが、頭の中で動画を見ているような、そんな感覚だ。

「ごめん、ごめんねえ」

ふと口をついて出たその言葉は、昔通りらしくて……また泣かせてしまった。

それから、”今の”親にも同様の事を話し、これからのことを相談した。
意外……というか驚愕したと言っていいが……あまりにもすんなりと受け入れてくれたということだ。

もちろん、驚いてはいたが、無いことではない。くらいの事象らしく、村の医者に見せるでもなく、神官や何かに悪魔祓にかけられるということもなかった。

だから、この言葉が言われたんだ。

「それでもお前は俺たちの息子だから、これからもそう思ってくれると、嬉しい」

前世の最後の記憶に残ってる俺と同年代のはずの”父さん”の言葉に、俺は恥ずかしながらも泣いてしまった。

それが、俺が10歳になった翌日の事件だった。

【続く】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。