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暗洞に声よ響いて #10

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「あ、ああ、あの」
さっき声をかけた青年冒険者さんから、今度は反対に声をかけられた。やたらと切羽詰った感じで。
「あなた、オールコントロールなんでうか?」
噛んでるし。私は返事代わりに首を縦に振る。

「うお……そんな細かい仕草まで……じゃなくて、手伝って欲しいことがあってですね」
こんな初心者丸出しの私に? と思うが黙って聞いてみる。
「この先に有るクエストエリアのボスがオールコントロールでないと倒せないっぽいギミックが仕掛けられてて、もしよければ協力してもらえないかな、と」
そう身振り手振りで彼は言う。ただしそれは妙に演技がかっており、おそらくはエモーション機能かなにかなのだろう。
そして、少し考えてから私は言った。
「それ、稼げますか」

ステンバックと名乗った彼にスクエアと名乗る。名字から取った。
「FFとか好き?」
その旨説明もしなかったので、ステンバック氏はそんなことを言っていたが。

「直接的に入るポイントはそこまで多くないとは思いますけど、その後お手伝いするので、それでどうか」
詳細は隠して、直接ポイントを稼ぎたい旨を説明すると、そういう提案をしてくれた。応じて、分かりました。と再度頷き、マフラーを引き上げる。
『なんでしゃべらないんですか』
(うるさいよ)

そうしてパーティの作成、余り物の装備をもらったりしているうちに、導かれるままフロアの一角、広場のようなエリアの外れにある崩れた塔へとたどり着いていた。
「この先から、ですね。とりあえず攻撃は全部受け持つんで、まずは後ろから見ていてください」
そう言う彼は、円筒を開いたような大型の盾を左手に、金のエングレービングのされた銃を右手に実体化させる。

……え?
奇異の視線をつい向けてしまうが、ふざけた様子はない。その銃は形だけ見れば現代の警察の特殊部隊が持つようなものだというのに。
『タワーシールドとサブマシンガンですね。効率を考えるとこういう装備になるんでしょう』
そういうものなんだろうか。混沌とした違和感しか無い。

「じゃあ、行きます」
ステンバックさんと共に一歩踏み出すと、周りは一瞬赤い霧に包まれ、遠く後方から聞こえた人の気配が消えて私と彼だけになる。そういう区画らしい。念の為サンデイに裏とりはさせた。
セクハラとか怖いからね。

そして、目の前の壁が動いたかと思うと、それは壁ではなく初めて見る大型エネミーの姿だと気付いた。
「来ます!」
それは……巨大な卵を背負ったトカゲだった。私は手にしたロングソードを改めて構え直す。
『ドラゴンと言ってあげましょうよ』
ドラゴンでした。

【続く】

資料費(書籍購入、映像鑑賞、旅費)に使います。