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kiyofico
人の優しさが傷に沁みて痛む
思いがけず東京配属になって三週間。
新卒で入った会社は、優しい先輩に気の良い同期ばかりである。
だけど、それがつらい。
風呂に入ったら、お湯が傷に沁みて痛むように
擦り傷だらけの自分には温かさがつらいのだ。
東京の暮らしにはまだ馴染めそうにない。
知らないスーパーで、地元より20円高い食べ物を買って
経験したことのない人波に押されて通勤して
右も左もわからず、教えてもらった業務をただ一生懸命にこなして
帰るワンルームは未だ引っ越しの段ボールが残る。
雑音が欲しくてつけたテレビは、チャンネルが地元と違っていて
いつも観ていた番組はやっていなかった。
東京は寂しい街だ。
先輩が買ってくれたコーヒーや、同期の飲みのお誘いが
地元の友達からの次いつ帰るのかというLINEが
忙しさで誤魔化していた東京の寂しさを浮き彫りにする。
人の優しさに浸かると「ああ、私はこんなところも擦りむいていたのか」と気づいてしまうのだ。
いっそのこと職場の人が全員最低で、東京に同期もいなかったら良かったのにと思ってしまう。
そうしたら、東京の寂しさも感じずに済んだのに。
「こんな会社辞めてやる!」と今流行りの退職代行に依頼して東京を出ることだってできるのに。
でも人は優しい。
東京に住むのはこんなにも寂しくてつらいのに、
差し伸べられる優しさがあるから耐えられてしまう。
それがつらい。
明日は月曜日。
私はまた重い足取りで、駅へと向かうのだろう。
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