見出し画像

つなぐラボ|「手話通訳コーディネーター」

めとてラボ」は2022年4月より東京アートポイント計画のアートプロジェクトのひとつとしてスタートしました。現在は国内リサーチ(福島、愛知)、デフスペースリサーチ、アーカイブプロジェクトといった活動に取り組んでいます。

しかし活動をしていく中で、情報保障の設計や通訳・翻訳の在り方に課題がいくつかありました。そこで、通訳・翻訳を専門とする方々へインタビューを行ったり、つたえあうことへの工夫について考えていく「つなぐラボ」が誕生しました。
今回は、「つなぐラボ」の活動の様子をめとてラボメンバーの大高有紀子がご紹介します。

大高有紀子は、生まれつきろうだが、聴者の世界で育ち、口話と読話(口話…ろう者が口で発話すること。読話…相手の口の動きを読み取って会話内容を理解すること)でコミュニケーションをとってきた。手話は大学入学後に身につけたが、手話で得られる情報量のほうが口話・読話で得られる情報量よりはるかに多いことを知り、情報量の差にショックを受け、情報保障の大切さを実感。「めとてラボ」では、つなぐラボの活動の一環として「手話通訳コーディネーター勉強会」の企画を担当。2023年度からめとてラボの手話通訳コーディネーターとして活動していく。

■手話通訳コーディネーター勉強会

つなぐラボの活動として「手話通訳コーディネーター勉強会」をオンラインで開催しました。参加者はめとてラボメンバー、アーツカウンシル東京のプログラムオフィサーのほかに、めとてラボで手話通訳として関わってくださっている方々も一緒に、まさにみんなで考えていく良い機会となりました。
今回、日本手話講師の方にお越しいただき、手話通訳コーディネートについてワークショップも交えながら講義していただきました。

ワークショップでは、

①手話通訳が読み取り・手話で通訳しているときにどんなことを感じるか?

②もし、あなたが手話通訳コーディネーターになった場合は、どのようにコーディネートするか?

という2つのテーマについて、ろう者・聴者チームに分かれてディスカッションし、それをまた全員揃って全体で共有しました。

講義では、コーディネーターの役割と仕事の流れに沿って、以下を挙げ、それぞれのポイントについてお話しいただきました。

⓵ 依頼~当日前
・会議の目的やろう者の希望に合わせた通訳の確保
・通訳がなぜ必要なのか、通訳するために必要なことやものについて依頼者に説明
 
⓶ 当日(コーディネーター立ち合いの場合)
・立ち位置の確認(ろう者、通訳者はどこに座るのが良いか?)
・機材の確認(マイクテスト)
 
⓷ 通訳終了後
・フィードバック

「めとてラボ」メンバー同士の気づきとこれから

勉強会全体を通して、最も印象に残ったのは参加メンバーからの気づきでした。
ワークショップでも多くの意見が出てきましたが、質疑応答でもろう者として、聴者として、あるいは手話通訳者として…と様々な立場から見た気づきや質問がたくさん出てきました。
「通訳者が通訳中に何を考えているのか知りたい」「通訳をしているときにろう者が主催側に聞きたそうな顔をしているときがあるがコーディネーターが気づいてくれると、通訳者としてはとても安心できる」同じめとてラボのメンバーでも考えていることってこんなに違うのか…!と驚きの連続でした。

また、⓵のワークショップでは、ろう者と聴者の2チームに分かれて実施しましたが、両チームから共通の意見が出てきました。それは「不安があること」。通訳の内容について「こちらが話していることがどこまで伝わっているのか、相手の話していることをどこまで通訳できているのか、という不安な気持ちが実は同じだったのです。
講師はこのことについて、なぜ不安が起きているのかを考える必要があり、その要因のひとつとして、自分の中にある通訳の理想像とのずれが起こり、それが不安を引き起こしているのだろうと述べていました。
ろう者と聴者の会話のリズム、会議の進め方にも違いがあります。ろう者と聴者の違いやこうした不安があることを理解し、お互いに安心して参加できるためには手話通訳コーディネーターが重要になってくるのです。

めとてラボのメンバーは先述した通り、様々な立場のメンバーがいます。このことについて、講師からは「めとてラボのように、メンバーが手話通訳コーディネーターを兼任して活動している場合は、まず自分の立場をはっきりと依頼主や依頼する手話通訳者に伝えることが大切です。プロジェクトメンバーとして話しているのか、手話通訳コーディネーターの立場から話をしているのか、その立場を明確にすることが大切」と何度も話されていました。

「つなぐラボ」には手話通訳者もプロジェクトメンバーとして活動しています。私は「メンバーなんだけれど通訳してもらっている…。メンバーとして、このラボをどう感じているんだろうか?」と、ずっともやもやが残っていました。そのもやもやは、実は私だけではなく、他のめとてラボメンバーも手話通訳者も同じように感じていたということも、この勉強会を通して知ることができました。
このことについて、講師は「手話通訳者にメンバーとして意見を聞きたい場合は『通訳としてではなくメンバーとして、あなたはどう思う?』というように立場をはっきりとさせてから意見を聞くことも大切」というコミュニケーションのアドバイスもいただくことができました。

また、通訳終了後のフィードバックは、ただやって終わりではなく、手話通訳者からの視点と主催者からの視点で振り返りを行い、通訳環境設計の課題点を見つけて次に活かしていくことが重要であることもこの講義を通して学びました。
めとてラボも様々なメンバーがおり、多様な視点から課題を見つけ、アイデアを作り出すというところは、こうした手話通訳コーディネーターの仕事・役割にも通じるものがあるなと感じました。

まだ始まったばかりの「つなぐラボ」ですが、今回の「手話通訳コーディネーター勉強会」は「通訳者とろう者、聴者をつなげるためには?つなぐとは何なのか?」について考えることができ、良いスタートを切ることができました。
 これから、めとてラボのプロジェクトはどんどん活動的になっていくと思います。「つなぐラボ」も「つなぐ」ことの大切さを忘れずにこの活動に伴走していきたいです。

【「めとてラボ」noteについて】
このnoteでは、「めとてラボ」の活動について、実際に訪れたリサーチ先での経験やそこでの気づきなどを絵や動画、写真なども織り交ぜながらレポートしていきます。執筆は、「めとてラボ」のメンバーが行います。このnoteは、手話と日本語、異なる言語話者のメンバー同士が、ともに考え、「伝え方」の方法も実験しながら綴っていくレポートです。各回、レポートの書き方や表現もさまざまになるはず。次回もお楽しみに!

【関連記事】