めとての旅のはじまり
人が集まることから言語・文化が生まれてきたことを念頭におきながら、目と手で紡がれていく言語や文化、歴史を継承していくためにはどういった取り組みが必要になるのか。まずは、全国各地にあるさまざまな文化拠点の取り組みをリサーチしていくことからスタートしました。
今回は、そのリサーチの様子をめとてラボメンバー・根本和德がお届けします。
国内リサーチ第1弾の場所は、「福島」
福島は、私、根本の生まれ育った故郷です。
ろう者の親の元に生まれ、両親とその友人たちが使う手や表情、身体からあふれ出る「手話」を見て育ちました。そこから育まれてきたコミュニティを体感しながら、めとてラボメンバーと一緒に話し合うことで、めとてラボの活動の何かヒントやイメージの共有ができるんじゃないか。実はそんな期待も持って、福島を最初のリサーチ場所に決めました。また、「わたしを起点に新たな関わりの回路や表現を生み出す」ヒントを探りたいと思い、福島県内にあるさまざまな文化拠点を巡りました。
今回、訪れた場所はこちらです。
それぞれの運営方法や活動のアーカイブ、外部とのネットワークづくりなど、場づくりや情報発信の工夫についてリサーチしました。
はじまりの美術館
猪苗代町にある、はじまりの美術館を訪問しました。
酒蔵を改修した趣のある建物になっています。
広い空間と奥行きを利用した美術館の空間は、展示室、ショップ、コミュニティスペースがバランスよく配置されています。そこで、館長の岡部兼芳さん、学芸員の大政愛さん、企画運営担当の小林竜也さんに美術館の運営方法やアーカイブ方法などについてお話を聞きました。また、ここでは、福島在住の湯田佳子さんに手話通訳をお願いしました。
実は、今回、はじめてのリサーチということもあって、メンバーもみんな少しドキドキしながらのヒアリングがスタートしました。はじまりの美術館では、開館前から続く「寄り合い」という仕組みがあるのだそうです。美術館の人だけではなく、さまざまな人が集まって話し合いをする場、作戦会議をするような場のようなのですが、その話を受けて、「一人ひとりのイメージが融合しながら、何かひとつのものをつくる。それをつくる大切な場所が、ミュージアムという場所なのかもしれない」とメンバーの南雲は感じていました。
福島県立博物館
次に訪れたのは、会津若松市の若松城(鶴ケ城)の三の丸跡に建つ福島県立博物館。ライフミュージアムネットワークをはじめ博物館外の方々と協働して取り組む事業の在り方や、人々の記憶や歴史を扱う専門家として記録・アーカイブの視点、情報アクセシビリティの状況を伺いたいと訪れました。
訪問時は、多種多様なアンモナイトの企画展『アンモナイト合戦』が開催されていました。会場入口では、実際に小さなアンモナイトの化石を触ることができる展示があり、メンバー一同大興奮!化石を触りながら、歴史を体感する方法やその伝え方、触覚の可能性など、メンバー同士で話しながら展示を鑑賞。
その後、専門員の川延安直さん、学芸員の小林めぐみさん、塚本麻衣子さん、西尾祥子さんとお会いし、情報アクセシビリティについて意見を交わしました。手話通訳ははじまりの美術館から引き続き、湯田佳子さんです。
情報アクセシビリティには、福島県立博物館はまだまだこれから取り組んで行こうとされている状況とのこと。意見交換をするなかで、改めて情報アクセシビリティを考え、実施していくには、当事者との協議が必要不可欠だと再確認できました。
また、博物館のアーカイブの在り方、方法についてもお話をお聞きすることで、「めとてラボ」のアーカイブ方法について、具体的にイメージしながら考えるきっかけとなったように思います。目と手で紡がれる文化や歴史は、これまでなかなか記録・アーカイブとして残されてきていません。めとてラボにとって、目と手で紡がれる文化や歴史をどうやってアーカイブしていくのかは、大切な問いであり、その取り組みは大きなチャレンジでもあります。目と手で紡がれる文化や歴史の残し方は、写真なのか、映像なのか、文章なのか、対話を記録し続けることなのか。引き続き、考えていきたいです。
西会津国際芸術村
この日、最後に訪れたのは、電灯もすくない暗い夜道をぬけた先にある西会津国際芸術村です。 旧新郷中学校の木造校舎をリノベーションした建物になっています。
ご案内してくれたのは西会津国際芸術村ディレクターの矢部佳宏さん。
建物内を巡りながら、この場所をつくってきた矢部さん自身の想いも聞きながら居心地のよい時間を過ごしました。そして、事業設計の考え方など10年以上積み重ねてこられた活動とその仕組みづくりに圧倒されながら、1日目のリサーチは終了。
翌朝は西会津国際芸術村のイベントで、山の神様を祀る村集落の「草木をまとって山のかみさま2022」が開催されるということで、めとてラボメンバーもお祭りに参加してきました。
参加者は、草木をまとって山の一部になり、大山祇神社遥拝殿まで歩いていきました。そこでは舞や楽器のパフォーマンスが行われ、山の神様が身近にいるような神聖さを感じました。この場だからこそ生まれる表現、体験できるお祭りの形だなと思いました。
コミュニティカフェEMANON
続いて、白河市中心市街地にある古民家をリノベーションしたコミュニティカフェEMANONを訪れました。中高生の自主学習や企画実施などに取り組み、高校生が主宰して立ち上げた手話のイベントも行われています。
明るい店内で、代表の青砥和希さん、手話カフェ〜しゅわしゅわ〜を企画した鈴木美緖さんと、カフェを立ち上げた経緯やそれぞれの想いを語り合いました。ここでの手話通訳は、めとてラボの活動に関わってくれている瀬戸口裕子さん。
青砥さんは、自分が話していることが同時に手話通訳される経験がはじめてのことだったようで、とても新鮮な気持ちだとおっしゃっていました。青砥さんや鈴木さんのお話を聞くなかで、EMANONという場所は、中高生の居場所でもあり、何か新しいチャレンジをしながら学び合う場になっているのだと感じました。めとてラボにとってもわくわくする場の在り方、開かれ方のヒントをもらったような気がします。
長谷川俊夫さんのご自宅
最後に訪れたのは、さまざまなろう者が訪れては語り合う場所になっている長谷川俊夫さんのご自宅です。長谷川さんの他、福島県在住のろう者も数名ほど集まり、終始手話が飛び交う賑やかな時間となりました。手話通訳の瀬戸口さんに通訳してもらいながら、「音はなく、静かなんだけど、とっても賑やか。空気が揺れるとは、こういうことなんだ!」とメンバーの嘉原は実感したようでした。
それぞれ身体性や感覚は違えど、「手話」を重ねるごとに見えてくる揺らぎ、そこから育まれてきた文化やコミュニティを体感することができました。長谷川さんの自宅で体感した風景は、「めとてラボ」が大事にしたいイメージと重なり、それをメンバーと一緒に共有できたことが、とても大切な一歩になったように思います。
福島リサーチを終えて
【関連イベント】
『連続公開対談「空白を考える」第2回ネイティブサイナーmeets 福島』に、めとてラボメンバーの根本和德が登壇します。
実は、めとてラボの福島リサーチをきっかけにはじまった交流から、こちらのイベントに参加することになりました。
現地とオンラインいずれかの方法で参加できます。ぜひ、ご参加ください!!
開催日時:2023年2月17日(金)18:20~19:50