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めとての旅のはじまり 

めとてラボ」は2022年4月より東京アートポイント計画のアートプロジェクトのひとつとしてスタートしました。視覚言語(日本手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親を持つ聴者)が主体となり、一人ひとりの感覚や言語を起点とした創発の場(ホーム)をつくることを目指したラボラトリーです。
コンセプトは、「わたしを起点に、新たな関わりの回路と表現を生み出す」こと。素朴な疑問を持ち寄り、目と手で語らいながら、わたしの表現を探り、異なる身体感覚、思考を持つ人と人、人と表現が出会う機会やそうした場の在り方を模索しています。           

人が集まることから言語・文化が生まれてきたことを念頭におきながら、目と手で紡がれていく言語や文化、歴史を継承していくためにはどういった取り組みが必要になるのか。まずは、全国各地にあるさまざまな文化拠点の取り組みをリサーチしていくことからスタートしました。
今回は、そのリサーチの様子をめとてラボメンバー・根本和德がお届けします。

根本和德は、現在、福島在住。手話やろう者の生活文化の新たなアーカイブ手法とその活用について興味関心を持ち、「めとてラボ」では、アーカイブプロジェクトなどを担当。個人でも、文章から想起された心象風景を手話で表現し、おすすめの書籍をSNSで発信する活動を行うなど、手話の可能性を模索している。

国内リサーチ第1弾の場所は、「福島」

福島は、私、根本の生まれ育った故郷です。
ろう者の親の元に生まれ、両親とその友人たちが使う手や表情、身体からあふれ出る「手話」を見て育ちました。そこから育まれてきたコミュニティを体感しながら、めとてラボメンバーと一緒に話し合うことで、めとてラボの活動の何かヒントやイメージの共有ができるんじゃないか。実はそんな期待も持って、福島を最初のリサーチ場所に決めました。また、「わたしを起点に新たな関わりの回路や表現を生み出す」ヒントを探りたいと思い、福島県内にあるさまざまな文化拠点を巡りました。

今回、訪れた場所はこちらです。

・はじまりの美術館
・福島県立博物館
・西会津国際芸術村
・コミュニティカフェEMANON
・長谷川俊夫さんのご自宅
(さまざまなろう者が集うコミュニティの拠点のような場所)

それぞれの運営方法や活動のアーカイブ、外部とのネットワークづくりなど、場づくりや情報発信の工夫についてリサーチしました。

今回のリサーチメンバー
和田夏実南雲麻衣牧原依里嘉原妙根本和德
齋藤陽道(リサーチの記録撮影として関わっていただきました。※はじまりの美術館はめとてラボメンバーの撮影)

はじまりの美術館

猪苗代町にある、はじまりの美術館を訪問しました。
酒蔵を改修した趣のある建物になっています。

広い空間と奥行きを利用した美術館の空間は、展示室、ショップ、コミュニティスペースがバランスよく配置されています。そこで、館長の岡部兼芳さん、学芸員の大政愛さん、企画運営担当の小林竜也さんに美術館の運営方法やアーカイブ方法などについてお話を聞きました。また、ここでは、福島在住の湯田佳子さんに手話通訳をお願いしました。

実は、今回、はじめてのリサーチということもあって、メンバーもみんな少しドキドキしながらのヒアリングがスタートしました。はじまりの美術館では、開館前から続く「寄り合い」という仕組みがあるのだそうです。美術館の人だけではなく、さまざまな人が集まって話し合いをする場、作戦会議をするような場のようなのですが、その話を受けて、「一人ひとりのイメージが融合しながら、何かひとつのものをつくる。それをつくる大切な場所が、ミュージアムという場所なのかもしれない」とメンバーの南雲は感じていました。

はじまりの美術館では、期間ごとに様々な企画展が行われています。
訪問時の展覧会テーマは『日常をととのえる展』。
この写真は、カラフルな粘土を使って、細菌のイメージを窓に貼り付けている様子。
いろんな形の粘菌が生まれ、それぞれの表現を楽しみました。

福島県立博物館

次に訪れたのは、会津若松市の若松城(鶴ケ城)の三の丸跡に建つ福島県立博物館。ライフミュージアムネットワークをはじめ博物館外の方々と協働して取り組む事業の在り方や、人々の記憶や歴史を扱う専門家として記録・アーカイブの視点、情報アクセシビリティの状況を伺いたいと訪れました。
訪問時は、多種多様なアンモナイトの企画展『アンモナイト合戦』が開催されていました。会場入口では、実際に小さなアンモナイトの化石を触ることができる展示があり、メンバー一同大興奮!化石を触りながら、歴史を体感する方法やその伝え方、触覚の可能性など、メンバー同士で話しながら展示を鑑賞。
その後、専門員の川延安直さん、学芸員の小林めぐみさん、塚本麻衣子さん、西尾祥子さんとお会いし、情報アクセシビリティについて意見を交わしました。手話通訳ははじまりの美術館から引き続き、湯田佳子さんです。

学芸員の川延安直さん、小林めぐみさん、西尾祥子さん、塚本麻衣子さんと対面し、
情報アクセシビリティについて意見を交わしました。

情報アクセシビリティには、福島県立博物館はまだまだこれから取り組んで行こうとされている状況とのこと。意見交換をするなかで、改めて情報アクセシビリティを考え、実施していくには、当事者との協議が必要不可欠だと再確認できました。
また、博物館のアーカイブの在り方、方法についてもお話をお聞きすることで、「めとてラボ」のアーカイブ方法について、具体的にイメージしながら考えるきっかけとなったように思います。目と手で紡がれる文化や歴史は、これまでなかなか記録・アーカイブとして残されてきていません。めとてラボにとって、目と手で紡がれる文化や歴史をどうやってアーカイブしていくのかは、大切な問いであり、その取り組みは大きなチャレンジでもあります。目と手で紡がれる文化や歴史の残し方は、写真なのか、映像なのか、文章なのか、対話を記録し続けることなのか。引き続き、考えていきたいです。

西会津国際芸術村

この日、最後に訪れたのは、電灯もすくない暗い夜道をぬけた先にある西会津国際芸術村です。 旧新郷中学校の木造校舎をリノベーションした建物になっています。

ご案内してくれたのは西会津国際芸術村ディレクターの矢部佳宏さん。
建物内を巡りながら、この場所をつくってきた矢部さん自身の想いも聞きながら居心地のよい時間を過ごしました。そして、事業設計の考え方など10年以上積み重ねてこられた活動とその仕組みづくりに圧倒されながら、1日目のリサーチは終了。

翌朝は西会津国際芸術村のイベントで、山の神様を祀る村集落の「草木をまとって山のかみさま2022」が開催されるということで、めとてラボメンバーもお祭りに参加してきました。

このお祭りは華道家の片桐功敦さんがプロデュースしていて、
草、花、実などで装飾された衣装を身にまといました。

参加者は、草木をまとって山の一部になり、大山祇神社遥拝殿まで歩いていきました。そこでは舞や楽器のパフォーマンスが行われ、山の神様が身近にいるような神聖さを感じました。この場だからこそ生まれる表現、体験できるお祭りの形だなと思いました。

コミュニティカフェEMANON

続いて、白河市中心市街地にある古民家をリノベーションしたコミュニティカフェEMANONを訪れました。中高生の自主学習や企画実施などに取り組み、高校生が主宰して立ち上げた手話のイベントも行われています。

明るい店内で、代表の青砥和希さん、手話カフェ〜しゅわしゅわ〜を企画した鈴木美緖さんと、カフェを立ち上げた経緯やそれぞれの想いを語り合いました。ここでの手話通訳は、めとてラボの活動に関わってくれている瀬戸口裕子さん。
青砥さんは、自分が話していることが同時に手話通訳される経験がはじめてのことだったようで、とても新鮮な気持ちだとおっしゃっていました。青砥さんや鈴木さんのお話を聞くなかで、EMANONという場所は、中高生の居場所でもあり、何か新しいチャレンジをしながら学び合う場になっているのだと感じました。めとてラボにとってもわくわくする場の在り方、開かれ方のヒントをもらったような気がします。

長谷川俊夫さんのご自宅

最後に訪れたのは、さまざまなろう者が訪れては語り合う場所になっている長谷川俊夫さんのご自宅です。長谷川さんの他、福島県在住のろう者も数名ほど集まり、終始手話が飛び交う賑やかな時間となりました。手話通訳の瀬戸口さんに通訳してもらいながら、「音はなく、静かなんだけど、とっても賑やか。空気が揺れるとは、こういうことなんだ!」とメンバーの嘉原は実感したようでした。

それぞれ身体性や感覚は違えど、「手話」を重ねるごとに見えてくる揺らぎ、そこから育まれてきた文化やコミュニティを体感することができました。長谷川さんの自宅で体感した風景は、「めとてラボ」が大事にしたいイメージと重なり、それをメンバーと一緒に共有できたことが、とても大切な一歩になったように思います。

福島リサーチを終えて

【「めとてラボ」noteについて】
このnoteでは、「めとてラボ」の活動について、実際に訪れたリサーチ先での経験やそこでの気づきなどを絵や動画、写真なども織り交ぜながらレポートしていきます。執筆は、「めとてラボ」のメンバーが行います。このnoteは、手話と日本語、異なる言語話者のメンバー同士が、ともに考え、「伝え方」の方法も実験しながら綴っていくレポートです。各回、レポートの書き方や表現もさまざまになるはず。次回もお楽しみに!

【関連イベント】

連続公開対談「空白を考える」第2回ネイティブサイナーmeets 福島』に、めとてラボメンバーの根本和德が登壇します。
実は、めとてラボの福島リサーチをきっかけにはじまった交流から、こちらのイベントに参加することになりました。
現地とオンラインいずれかの方法で参加できます。ぜひ、ご参加ください!!

開催日時:2023年2月17日(金)18:20~19:50

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