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めとてラボ⇄GAYAヒアリング

めとてラボ」は、視覚言語(日本手話)で話すろう者・難聴者・CODA(ろう者の親を持つ聴者)が主体となり、一人ひとりの感覚や言語を起点とした創発の場(ホーム)をつくることを目指したラボラトリーです。
コンセプトは、「わたしを起点に、新たな関わりの回路と表現を生み出す」こと。素朴な疑問を持ち寄り、目と手で語らいながら、わたしの表現を探り、異なる身体感覚、思考を持つ人と人、人と表現が出会う機会やそうした場の在り方を模索しています。

そうした活動のなかのひとつ「アーカイブプロジェクト」では、手話やろう者の生活文化の新たなアーカイブ手法とその活用についてリサーチを重ねています。
今回は、その取り組みとして行った「移動する中心|GAYA」チームへのヒアリングの様子を、めとてラボメンバー・南雲麻衣がお届けします。

南雲麻衣は、現在、東京在住。大学まで手話を知らずに音声言語のみで育ち、大学で日本手話に出会う。ダンサーとして数々の舞台に出演。その経験を活かして、主に美術館などで視覚身体言語ワークショップを実施する。「めとてラボ」でも、美術館などをはじめアートやアートプロジェクトに関する団体との連携プログラムなどを模索している。ダンスする身体をメディアにしながら他者との間で生まれる言語以前の表現に興味がある。

ヒアリングに参加したメンバー
「移動する中心|GAYA」:松本篤、水野雄太
「めとてラボ」:南雲麻衣、根本和德、嘉原妙、和田夏実
アーツカウンシル東京:岡野恵未子、小山冴子

手話やろう者の生活文化を残すアーカイブ方法を探して

2022年からスタートしためとてラボ。
手話で対話する日常をアーカイブするプロジェクトが進みはじめています。でも、そもそもどうやって手話で対話する日常をアーカイブすればいいのだろう?
めとてラボのメンバーと話し合うなかで、手話には日本語に翻訳が難しい表現があること、動的な言語であることから、記録する方法やメディアとして「映像」がキーワードとしてよく挙がってきました。さらにそこから、家庭内で記録された映像「ホームビデオ(ホームムービー)」というキーワードも出てきました。

そこで今回、「めとてラボ」と同様に「東京アートポイント計画」のアートプロジェクトの一つであり、映像メディアとアーカイブに関する先駆的な活動を行われている「移動する中心|GAYA」の松本篤さんと水野雄太さんにお話しを伺いました。
松本さんたちは、2015年から世田谷区内で収集・デジタル化した8ミリフィルムを活用し、その時代を生きた人々のオーラル・ヒストリーをアーカイブするプロジェクトという活動をされています。

■まずは「めとてラボ」の自己紹介から

最初に、めとてラボの概要、活動方針や目的などをメンバーの和田夏実が紹介しました。

めとてラボの活動紹介や展望などを聞いたGAYAのお二人からは・・・

松本「(デフスペースのリサーチを聞いて)1階にいる人が3階にいる人を呼ぶときは、照明をチカチカとさせて知らせるというところは興味深いですね。光って大切なんだなと感じました。」

水野「『みんなが手話で話した島(ノーラ・エレン グロース)』を読んで、ろう文化を記録する方法ってどうやるのか気になりました」

とコメントをいただきました。
お二人は、手話を言語とするろう文化のなかで自然に成り立ったルールや、手話による記録の方法に興味を示されていました。

■GAYAの活動とは?

次に、GAYAの活動についてヒアリングを行いました。
特に『世田谷クロニクル』の活動についてお話を伺いました。

松本「8ミリフィルムは、フィルムの幅が8ミリメートルだからそのように言われています。映写機もコンパクトです。商業映画の場合は35ミリメートル幅のフィルムが使われ、映写機ももっと大きなものが必要になります。つまり、8ミリフィルムは、家族団欒で鑑賞して楽しむためのもの。昭和30年代から50年代くらいの間に一般家庭に広く普及したホームムービー向きの映像メディアでした」

めとてラボメンバー:和田夏実のメモより

松本さんは、公的な記録よりも、家庭で撮った何気ない日常の記録、そのなかにある大事な記録に着目し、8ミリフィルムのアーカイブを始めました。2005年当時、公の施設にアーカイブされているフィルムのなかに、「ふつうの人」が撮った戦後の8ミリフィルムは保管されにくかったようです。だからこそ、松本さんたちは8ミリフィルムの収集とデジタル化を続け、GAYAの活動ではデジタル化した8ミリフィルム映像の利活用を進めています。
映写機を持って行き、その場でフィルムを提供してくれた人と一緒に投影されるフィルムを見ながら思い出話の内容を記録していく。松本さんのお話を伺いながら、なんて素晴らしい活動をしているのだろうと思いました。

AHA![Archive for Human Activities/人類の営みのためのアーカイブ]が取り組む8ミリフィルムのアーカイブには「収集」「公開」「保存」「活用」の4つがあり、そのなかでもGAYAの活動では「活用」に力を入れているそうです。
収集した8ミリフィルムを媒介とした対話の場の活動を世田谷区にある生活工房で実施させてもらっているという。

■8ミリフィルムを媒介に多世代が対話する場を生み出す

次に、ある一家の8ミリフィルム上映会の様子を紹介してもらいました。
映写機を持って、家族のみんなと鑑賞会を開催。投影される8ミリフィルムが撮影された時にはまだ生まれてなかった孫も一緒に鑑賞し、かつてあった取り壊された家を思い出したり、当時こんなものあったねという話で盛り上がるようです。松本さんたちのお話を聴きながら、その風景は、めとてラボが見たいと思う風景と重なっていくところがありました。

他にも地域の人々との鑑賞会も実施していて、8ミリフィルムを提供してくれた人が語りながら、参加者と一緒に当時の映像を鑑賞しています。参加者のなかには若い人もいて、質問したり対話したり盛り上がるそうで、こうした鑑賞会では、松本さんはファシリテーターを務めています。また、こうした取り組みは、福祉施設の職員と利用者との対話の活性化にも活用されていて、映像メディアを媒介に、世代を超えてさまざまな人が対話する場が生み出されていることを知りました。

実は昔と違い、今の生活や手話という言語の意識も日々変化しています。
これまでなかなか歴史として記録が残されにくかったろう者の生活文化や手話という言語。
公的な記録も少ない歴史のなかで、先人たちは何を思い過ごしてきたのだろう。きっとろう者が撮影した8ミリフィルム、ホームビデオなどを鑑賞しながら、昔と今の時間を行き来し、浮かんでくるさまざまな記憶を語り合うことは、とても有意義な体験が生まれるんじゃないか。さらには、この時に語り合い共有した記憶も合わせて記録することで、アーカイブとして貴重なものになるのではと思いました。それはきっと、今を生きる私たちのヒントにもなるはず。
GAYAの活動を聴きながら、こんなことを私は思いました。

■記憶と記憶が移動する

松本さん曰く「移動する中心」とは
その人の記憶が他の人の記憶になり、記録と記憶が移動する、引き継がれる・・・それが中心を移動するということ
、という話が印象に残りました。

その時に、私が思ったのは「継承」という言葉です。
記憶を受け継ぐものとして映像が重要な役割を担いますが、それだけではなく、その記憶の持ち主である本人から出てくる言葉、つまり「語り」も大事な要素だと感じました。
めとてラボで映像を用いたアーカイブ企画に取り組む時には、「映像」だけでなく、話者の「語り」もアーカイブし、継承していきたいなと思いました。

■活動に共感してくれた人と一緒に取り組むための仕組みづくり

サンデー・インタビュアーズの活動も紹介してもらいました。
世田谷で収集された昭和のホームムービーを利活用するコミュニティ・アーカイブのプロジェクトで、「移動する中心|GAYA」の一環として取り組まれています。この活動は、メディエーターとなる人、仲間づくり、仕組みづくりも含め、GAYAだけではなく、GAYAの活動に賛同する人も関わってもらうという意識が感じられました。

めとてラボからGAYAに質問

仕組みづくりもとても魅力的なGAYAの活動。お話を伺うなかでいろいろな質問が交わされました。

南雲「8ミリの古いフィルムをどうやって修復しているのでしょうか?」

松本「専門家に依頼してフィルムを修復する方法が多いです。なかにはどうしても修復不可のフィルムも出てきます。でも、中身を少しでも観てみたいと思うフィルムの持ち主。そんな時は苦肉の策で、虫眼鏡を使って小さいフィルムを覗きながら、即興の上映会をするということもたまにあります。人の記憶ってすごいんです。フィルムの切れ端を見ただけで、いろんなことが思い出されていくんです」

「記憶のなかでもう一度その映像が再生されること。記憶の再生方法」という話は、とてもグッときたと嘉原さん。
私たちも今後、いろいろな方に協力を得て、「ホームビデオ」を提供していただきながら活動する場合、第三者の立場からその提供者に、その人の人生や記憶に介入するということを考えると、提供してくれた人の要望や気持ちを尊重し、丁重に取り組んでいきたいと思いました。

次に根本さんからの質問。

見ず知らずの人に8ミリフィルムを簡単に渡してくれないと思うが、どうやって距離を縮めていったのか気になるという。

松本「チラシやホームページで募集します。こちらから飛び込みで各戸に訪問してフィルムを探すということはしないです。」

根本「参加者同士ではどういう話をしているのですか?」

松本「ふたつの立場に分かれると思う。提供者と参加者。提供者は映像のなかにいる登場人物。参加者は映像のなかにいる人とは全く関係ない人。それぞれの立場で感想は違いますね。」

続いて、和田さんからは手続きに関しての質問がありました。

和田「今後、めとてラボで映像を誰かにお借りする場合、どんな内容の契約書を交わしたらいいか悩んでいます。GAYAではどうしていますか?」

松本「GAYAはウェブサイト『世田谷クロニクル』に公開されている映像を利活用した取り組みなので、特に誰かと借用書を交わしたりするようなことはありませんが、『世田谷クロニクル』を制作した『穴アーカイブ』というアーカイブプロジェクトでは、いろんな手続きがあります。まずは提供された8ミリフィルムをデータ化した後、映像を公開する際などは、ご家族の個人情報が含まれるため、鑑賞会などの公開にあたっての覚書を交わしました。さらにウェブサイトに公開する際もあらためて覚書を交わしています。

なお、デジタル化した後は、現物のフィルムはご本人に返しています。本来ならば現物もアーカイブしたいのですが、生活工房も私たちのNPOもそのような体力も予算も機材もありません。せめてもの措置として、各戸にてフィルムを『自家保存』してもらいたいというお願いと、提供者の住所・連絡先などを記入したカルテをつくって、フィルムそのものがアーカイブできるような環境が整えば連絡できるようにはしています。」

手話によるコミュニティ・アーカイブにむけて

水野さんからも、めとてラボがこれからどういうアーカイブをやっていくのか関心があると質問がありました。

水野「めとてラボでは、どのようなホームビデオを集めようとしているのでしょうか?」

和田「今まで、手話の自然なおしゃべりの様子を残した映像記録が少ないんです。主に残っている記録といえば、例えば講演会や手話ポエムなどの記録映像が多いですね」

そう言って、和田さんがご自身の小さい頃の自分自身とお母さんとの手話でのやりとりの映像の一部を見せながら、手話とからだの記憶の重なりについて話をしました。

和田「めとてラボメンバー曰く、例えば『仕事』の手話について。昔のろう者が働けるところといえば印刷工場が多かったんですが、そこで紙を集める動作から『仕事』という手話ができたそうです。そういった、手話と歴史のつながりのところを紐解いたりするには、ホームビデオがとても良い方法だと思っています。私たちの歴史を見てみたいという意図があります。

根本「ろう者が手話で会話している様子の記録はなかなか見られないんですね。社会に対してありのままの手話で話す様子を知ってもらえたら。そのためにもホームビデオは保存した方がいいと思うんです。」

めとてラボのアーカイブの取り組みの目的を伝えたところ、水野さんより「コミュニティ・アーカイブをつくろう!(佐藤知久・甲斐賢治・北野央 著/晶文社)」の本を紹介いただきました。

簡単に紹介すると、コミュニティ・アーカイブとは、研究者やアーキビストといった専門家によるアーカイブではなく、自分たちの属するコミュニティは自分たちでアーカイブするという考え方や運動のことです。保存や活用方法など具体例が載っているので、大変参考になる文献でした。

GAYAのお二人からは、めとてラボの「一人ひとりの感覚や言語を起点に創発の場をつくる」という考え方は、GAYAの活動とも近いものを感じる。
場所や考え方などさまざまな世代にあったプログラム開発をしているので、ぜひ何か一緒にやりましょう、と仰っていただきました。

あっという間に時間がすぎ、ヒアリングを終えました。手話によるコミュニティ・アーカイブの重要さを確信できたヒアリングになりました。

【「めとてラボ」noteについて】
このnoteでは、「めとてラボ」の活動について、実際に訪れたリサーチ先での経験やそこでの気づきなどを絵や動画、写真なども織り交ぜながらレポートしていきます。執筆は、「めとてラボ」のメンバーが行います。このnoteは、手話と日本語、異なる言語話者のメンバー同士が、ともに考え、「伝え方」の方法も実験しながら綴っていくレポートです。各回、レポートの書き方や表現もさまざまになるはず。次回もお楽しみに!

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