サンタさんの思い出 vol.3
ある年のクリスマス前。
私は台所に立つ母のところに行き、直接母に今年のクリスマスに欲しいものを伝えました。
母は、ほっと胸を撫で下ろしました。
「よかった……。あなたに"嘘"をついている気がして、本当は今までずっと、ちょっと嫌やったんよね」
──とても私の母らしい言葉です。
母の性格と母のたくさんの愛情が存分に伝わってくる印象的な言葉だったので、私はクリスマスになると決まって母のこの言葉を思い出します。
こうして、我が家のわずかしか続かなかったサンタさんイベントは、母の愛情に包まれたまま、終わりました。
子供の頃から現実的やな。
大人びた子供やな。
夢がないな。
そう思っている人もいるかもしれません。
違うんです。
私はサンタさんが大好きです。
それはもう、本当に、本当に、大好きです。
サンタさんのイラストや置物を見ると、じんわりと目に涙がたまるくらい、病的にサンタさんが大好きです。
あなたにはきっと、「サンタさんって、お父さんとお母さんだったんだ」という、ちょっぴり切ない思い出があると思います。
おともだちに言われたり、お兄さんやお姉さんから言われたり、両親からふいにカミングアウトされたりしたのでしょう。
でも、私には、それがないのです。
つまり私は、
「サンタさんって、本当は、居なかったんだ」
と思ったことが無いということです。
おともだちによく聞かれていました。
「ねえサンタさん信じとる?」
「○○くんに、サンタさんおらんって言われた」
私は幼きながら必死に、その子の夢を、その子の親の思いを、そして何より、サンタさんを守ろうとしていました。
私の友達には、中学生になっても、サンタさんを信じている子がいました。
その子は言っていました。
「これサンタさんにもらったんよ。ほんとよ。サンタさんはおるよ。だって、私のお父さんとお母さん、プレゼントくれるもん。それとは別に、サンタさんからもプレゼントがくるもん。」
私にまっすぐそう語るその子は、本当に美しく見えました。そして、素敵なお父さんとお母さんだな、と思いました。
そして彼女は続けます。
「サンタさんってね、おるって思っとる子のところにしかこんのよ」
ああ、本当にそうだな、と思いました。
"サンタさん"を象徴する言葉だと思いました。
私は、「サンタさんはおらん」と思ったことが一度もないのです。
だから私には、アラサーになった今でも、サンタさんがいます。
サンタさんが、トナカイのそりで鈴をシャンシャン鳴らして空を飛んでいるのが、私にははっきりと見えるのです。
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