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新潮文庫に惚れなおした夏。


今年もこの季節がやってきました…


新潮文庫の100冊 2022!


ラインナップの中から本を買うと、キュンタのしおりがもらえたり、
その年だけの限定プレミアムカバーが出たり。
書店めぐりや読書が楽しくなるイベントです。

 よく「読書の秋」というけれど、書店を見るかぎり、他社の文庫フェスを併せても夏が一番盛り上がっているように見えるのは私だけでしょうか。
夏休みがあるからかな…?
2、3年くらい前から意識して、楽しみになりました。



Premium Cover 2022

 私が特に楽しみにしているのはプレミアムカバー。
新潮文庫の作品のいくつかが、その年だけの限定特別仕様の装丁で発売されます。どの本が選ばれるのかワクワクしますね。
デザインがカッコよくて、毎年1、2冊は買ってしまいます。


 今年はこちらの8冊が選ばれました。

・銀河鉄道の夜/宮沢賢治
・こころ/夏目漱石
・人間失格/太宰治
・妖精配給会社/星新一
・檸檬/梶井基次郎
・思い出トランプ/向田邦子
・シャーロックホームズの冒険/コナン・ドイル
・悲しみよこんにちは/フランソワーズ・サガン

日本文学多めかな。

 『こころ』や『人間失格』はここ数年連続で選ばれている印象ですね。
新潮文庫の売れ行きランキングでも、1位と2位に入っているようです。
もはや日本人のバイブル??

 私も『人間失格』はプレミアムで持っています。
同じプレミアムでも、タイトルが横になったり、縦になったり、文字色やフォントが変わったりするので、毎年買ってコレクションしているファンもいたりするのかな??


 個人的には『悲しみよこんにちは』が入っているのが衝撃でした…
昨年の暮れに読んだばかりで、

プレミアムが出るならこっちを買いたかったー!

という新潮文庫あるあるに直面しています…。


タイトルを裏切らない悲しさのあるお話ですが、名作です。
まだ読んでいない人はこの機会に読んでみるのもいいかも・・・。



今だから選ばれた?? 『妖精配給会社』

 イベント開始とともに早速一冊買ってきました。
星新一の『妖精配給会社』です。

 星新一もプレミアムカバーの常連さんと言ってもいいかもしれません。
でも、一番よく選ばれるのは『ボッコちゃん』で、『妖精配給会社』が選ばれたのは初めてだと思います。
めずらしい。

 新潮文庫から出版されている星新一の本は、40冊近くあるようで、創作したショート・ショートの数は1001篇といわれています。
 平易でわかりやすい文章で、読書が苦手という人や、ちょっと難しい本に疲れた、という人にもおすすめです。
とはいえ、お話には社会風刺が効いていたり、「まさにこれは現代にも通じるのではないか?」と感じられるような、未来予測的なことも書いてあって、とても深さがあります。


 ちょっとずつ読み進めているのですが、『おそるべき事態』というお話が、とても刺さったので、最後に紹介します。


 日本によく似たどこかの世界で、「とある精神病」が流行しています。
繰り広げられるのは、それを憂慮する、病院の院長と精神科医の会話。

 しかし、この2人の会話から見えてくる精神病の実態は、私たちの感覚では、どうも「病気」とは思えないことが、事例として書かれています。
具体的には…

自分の作った科学技術が戦争に利用されないか心配して開発を進められない科学者

事故になったら取り返しがつかない、と入念に点検を行うエレベータ技師

候補者それぞれの理念や公約をきちんと理解し、どの政党に入れるべきかよくよく考えて選挙投票に臨もうとする人

などなど。

 こういった人たちが、「良心病」という名の精神異常と認定され、他の人に伝染することがないように隔離対象となっているのです。

彼らの良心はいきすぎた良心。
考えてもしょうがないことを考えて、世の中の巡りを悪くする。

 精神科医は院長からの要望に応じ、研究を進め、治療法を発見することに成功します。こういった「過度の良心を持つ人々」の増加は食い止めることが出来ました。

「最も鉄道事故による死傷八名、工事での死傷五名、監督官庁への贈賄の発覚が二件、下請け業者からのリベート問題五件、従業員の不正二十件、駅員や乗務員と乗客のごたごた三十五件がともなっている。しかし、これまでの平均値で、とくに騒ぐほどのことではない、そうだ。」
「なにはともあれ、事態をすべて正常に戻せて、何よりです。」

 2人は治療法発見後の世界をこのように評価し、このお話は幕を閉じます。



「おそるべき事態」というタイトル。
何がおそるべき事態なのか、色々深読みできそうです。
 来週は選挙!というくらいの時期に読んだので、個人的にはものすごくタイムリーに感じました。


どこの政党に入れるのがいいか、真面目に考えることが病気だなんて!
異文化レベルの驚きです。
けれども、この小説の中身は今の世の中の在り方と、あまり変わらないのかもしれない。


 精神病として問題視はされてはいないものの、人が傷つかないことより、目先の利益が優先されること。

 知床の海難事故や、今まさに起こっている政治の問題を思い起こします。
「そんな綺麗事言ったって、世の中回らないからさ」みたいな、合理性やスピードを求めて、「考えること」を切り捨てていった結果。
起こってしまったことってたくさんありますよね…。
 逆にそのしょうがなさに立ち向かっている人がいるということにも気がつかされます。


 読んだ時に、これは今読めてよかったお話だな、と思いました。


そして、ふと「偶然なのかな」という気になりました。

 数ある星新一作品の中で、なぜ、今年は『妖精配給会社』がプレミアムカバーに選ばれたのか。
選ばれていなかったら、私はこれを、この時期に、選挙のあるこの夏に、手に取ることはなかったと思うのです。
考えすぎかしら…。

 もし意図的に選書されていたら、こんなにかっこいいことはないと思います。今だからこそ、読みたい本ってきっとありますよね。

勝手に新潮社さんに惚れ直した夏でした。
表題作『妖精配給会社』もおすすめです。
100冊、まだ読んでないものもたくさん。
おすすめがあったら教えてください。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。









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