「メディアアート x 建築の可能性」(後編)
本セッションは、多くのメディアアート作品を手がける「Ouchhh」のお二方にご登壇いただきました。
後編となる今回では、お二人が今までに手がけられた世界各地でのプロジェクトを振り返っていくことで、Ouchhhがいかにしてテクノロジーとアート、そして都市の関係性を創出しようとしているのかを探ります。(前編はこちらから)
本記事は、2019年1月に開催した『METACITY CONFERENCE 2019』の講演内容を記事化したものです。その他登壇者の講演内容はこちらから。
・TEXT BY / EDITED BY / TRANSLATED BY: Shin Aoyama (VOLOCITEE)
・PRESENTED BY: Makuhari Messe
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プロジェクトの歴史を辿る
Eylul Duranagac:ここからは各種プロジェクトを紹介しながら、私たちの歴史を辿り直してみましょう。まずは、ブカレストで最近完成した別のプロジェクトについてお話しします。これはAIを取り入れた建築のインスタレーションです。私たちはまず、3Dアニメーションと音楽をつくりました。その後AIを学習させ、3ヶ月後にこの音楽が開発されました。このプロジェクトでは、カナダのAI研究者であるMasonと共同研究を行い、104のプロジェクションを使用しました。
Ferdi Alici:これと同時期に、iMAPPフェスティバルにも招聘されました。実は科学者とのコラボレーションは初めてだったので、大きな挑戦となりました。 しかし、結果は完璧でした。
こちらはボリショイ劇場のファサードです。ここでCircle of Lightフェスティバルにパフォーマンスを依頼されたのです。これもAIを用いた音楽のプロジェクトであり、AIに私たちの音楽を聴かせることで独自の音楽を生成させます。
こちらのプロジェクトは、神経科学とサッケード(断続性運動)のアイデアから始まりました。私たちは高解像度LEDスクリーンを用いて、建築を生きているかのように変身させるメディアキャンバスをつくりだしました。私たちは街に活気や偶然性をもたらすような混乱をつくり出したいと思っており、このプロジェクトでは、これらのアルゴリズムを使って交通を乱そうと試みました。
Eylul Duranagac:また、香港では「Delta Sculpture」を制作し、香港市立大学クリエイティブ・メディア学部の佳作賞を受賞しました。この作品は国際商業センターを覆う、ギネス世界記録となる77,000㎡のLEDファサード上に制作されました。NASAのオープンソースデータから取得した星の地図と香港の地形データを組み合わせることで、地球と空の間にデータで橋を架けるというものです。リサーチからコンセプト開発、デザイン、アニメーションまでを一貫して自社で制作し、納品しました。
Ferdi Alici:次は私たちの大好きなCERNとのプロジェクトです。CERNは欧州原子力研究機関であると同時に、体験型のミュージアムでもあります。ここでは実験的な手法を用いて宇宙を理解する試みが行われています。そんな彼らが私たちに、芸術作品をつくってくれないかと持ちかけてきました。そこでできたのが「Homeomorphism」です。これは私たちの最も古い作品で、約5年前のものです。同時期に、モントリオールのSATでも同じプロジェクトを行いました。
写真のようにドームの内壁に映像を投影し、没入感の高い体験をつくりだします。映像は、ネバダ州の地形データから生成されています。私たちは作品ごとに、現実には存在しないキーワードを設定しています。例えば映像の右上の流動的な構造を表現した作品は話題になり、世界中のプラネタリウムなどから展示をしたいと言われました。 結果的に自分たちで実現したわけですが(笑)。
Eylul Duranagac:また、私たちは国立宇宙センターに招待され、全作品を展示する機会に恵まれました。
Ferdi Alici:次は「TEDxCERN」に関するプロジェクトです。このイベントは世界50の大学で行われましたが、私たちはそのローンチ動画やオープニングのビデオアニメーション、メインタイトルのシークエンスを制作しました。何百人もの科学者やクリエイティブな思想家たちが私たちの作品を見てくださいました。 2016年のテーマである「ripples of curiosity(さざめく好奇心)」をもとにイベントローンチ動画やメインタイトルを作成し、Red dot Design賞やADC賞などを受賞しました。
こちらはパリで開催された「アルタイル・パナマ」というフェスティバルに招待されたときのものです。 彼らが借りてくれた巨大な倉庫の中で私たちは「AVA」を制作しました。AVAのコンセプトは素粒子物理学から来ています。 私たちはこのドームを用いることで、素粒子物理学をより洗練された方法で表現することを目指しました。 なぜなら私たちは、この球体というミニマムな形状こそが宇宙の姿だと考えているからです。
また「AVA」はサイズ可変であり、様々な委託制作に応じることができます。昨年、メルボルンで開催されたWhite Night Melbourne Festivalでも展示を行いました。森の中に設置された様子は、まるで別世界のようで、一晩で65,000人もの人びとに体験していただけました。
ワシントンD.C.では「Parallel Universe」と名付けた回顧展を開催し、5作品を展示しました。私たちの作品は抽象的で物語性を持たない傾向がありますが、ワシントンD.C.は非常に政治的な州であったため、私たちは展示に際して検討を重ね、データを利用しつつも物語性を持たせることを試みました。しかしそれが上手くいくかどうか、確信を得るには至りませんでした。
しかし予想外にも、この展覧会はABC/NBCのニュースチャンネルで取り上げられたのです。このスライドの背景の膨大な写真は、ワシントンD.C.のソーシャルメディアへの投稿からピックアップしたものです。このようにおそらく観客の方々は、私たちの作品と感情的なつながりをつくりだしているのだと思います。そこで、現在私たちは「Parallel Universe」をアメリカ内で巡回させる計画をしています。
これは3年前に実施したプロジェクトで、トルコのカッパドキアにあるゼルべ谷野外博物館に常設のインスタレーションを制作するものです。
私たちは谷全体にビデオマッピングを行おうと考えました。その範囲は谷の左右300m、総面積にして12,000㎡に及びます。そこでまず、谷全体を3Dスキャンし点群データを取得しました。ここから谷全体を3Dモデル化し、谷表面に投影する3Dアニメーションを制作しました。映像はビッグバンから始まる人類の歴史をテーマとしています。3ヶ月の制作期間と3ヶ月の修正期間を経て、完成までに6ヶ月を要しました。
これはイスタンブールで実施したプロジェクト「iOTA V_1」です。データ彫刻作品を制作したのですが、そのために私たちはまず音楽をつくり、それを2ビットのデータに変換しました。そしてそこからさらにビジュアルアニメーションへと変換していきます。まるでリバースエンジニアリングのような工程ですね。
Eylul Duranagac:こちらは「SUPERSTRINGS」という作品で、コンサートにおける演奏者の脳波変化をリアルタイムで視覚化するものです。脳波ヘッドセットを使って取得した脳波──デルタ、シータ、アルファ、ベータ、ガンマ──から演奏者の情動、集中、興味、緊張に関するデータを生成し、コンサート体験へとリアルタイムに変換します。
Ferdi Alici:アルス・エレクトロニカのために、dastrioのミュージシャンチームとコラボレーションして制作したバージョンもあります。音楽は有名作曲家ファジル・サイによるものでしたので、作品名は「SAY SUPERSTRINGS」としました。「SUPERSTRINGS」とは、宇宙の振動に関する有名な理論から取ったものです。すなわち、楽器が音楽の振動を生み出す時、宇宙もまた振動を生み出しているのです。創造力を喚起する素晴らしい共鳴関係ですね。演奏空間はさながら宇宙、あるいは演奏者の頭の中に飛び込んだかのようです。
「SAY SUPERSTRINGS」におけるデータの流れを見てみましょう。プラットフォームとしてはVVVVとHoudiniが用いられています。私たちは観客に向けて、2レイヤーの体験を提供しようと試みました。ひとつは演奏された音楽をリアルタイムに反映したもの、もうひとつは演奏者の脳の活動を反映したものです。観客は演奏者の脳から来る6つの異なるデータと音楽の反響を同時に体感できます。
これからの展望
最後にトルコのギョベクリ・テペで制作中のプロジェクトについてお話しします。ギョベクリ・テペは紀元前1万年以前の遺跡であり、これまで最古の高度な文明とされてきたメソポタミア遺跡より7,000年以上も古いものです。私たちはこの古代文明にまつわるデータを使ったパブリックアートをつくろうと考えています。360°LEDを備えた直方体の上で、古代文明のデータを使って訓練されたAIが生成したアニメーションを表現するのです。私たちはこれを「DATAMONOLITH」と名付けました。これには「DATA GATE」でも使用したGANや、複数のAIアルゴリズムが用いられています。
さて、非常に楽しく貴重なイベントでした。初回となる今回に参加できたことを光栄に思います。数年後にはもっと有名なイベントになっているでしょうね。私たちも応援しています。皆さんありがとうございました。
青木:ありがとうございました。東京でもコラボレーションをしたいとおっしゃってましたね?
Ferdi Alici:はい、東京の科学者と一緒にプロジェクトをやりたいです。東京には大きな可能性があると思っているので。
青木:そこにアートを用いることで、何が可能になるとお考えですか?
Ferdi Alici:私たちはアートを通じてパブリックな体験をつくり出すと同時に、都市問題を解決したいのです。例えば、大気汚染とか。私たちは普段、芸術に多額のお金を払っていますが、同時に芸術を使って問題を解決することもできるということを見せたいのです。これは、都市にとっても環境にとっても素晴らしいことだと思います。
青木:これもまた、METACITYのコンセプトの一つと言えるかもしれませんね。
Ferdi Alici:興味を持っていただけた方がいらっしゃったら、ぜひお話しましょう。
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NEXT:「ペチャクチャ・シティ」はこちらから!
登壇者プロフィール
Ouchhh
アルスエレクトロニカを始め数々の受賞歴を持つ、アート・サイエンスシーンで頭角を現しているクリエイティブ・メディア・エージェンシー。 テクノロジー・アート・サイエンスの垣根を超えた体験を生み出し、インタラクティブなメディアプラットフォーム、 AIやビックデータをつかったビジュアル生成による彫刻や絵画的表現、キネティックなパーマネントアート、ドームやVRなどの没入型の映像体験、 そして建築の外壁を用いたプロジェクションマッピングをはじめとした映像+音楽パフォーマンスなど、様々な技術を複合的に扱うことを得意としている。 特にメディアアートと建築分野で、デジタルと身体をハイブリッドな関係で結びつける空間と体験を世に送り出している。
青木 竜太|RYUTA AOKI
コンセプトデザイナー・社会彫刻家。ヴォロシティ株式会社 代表取締役社長、株式会社オルタナティヴ・マシン 共同創業者、株式会社無茶苦茶 共同創業者。その他「Art Hack Day」、「The TEA-ROOM」、「ALIFE Lab.」、「METACITY」などの共同設立者兼ディレクターも兼任。主にアートサイエンス分野でプロジェクトや展覧会のプロデュース、アート作品の制作を行う。価値創造を支える目に見えない構造の設計を得意とする。
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