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「超都市」(後編)

METACITY

カンファレンス最後となる本セッションでは「超都市(メタシティ)」をテーマに、建築家の豊田啓介さんと茶人の松村宗亮さんにご登壇いただきました。

後編となる今回では、情報と物質が密接に結びついていくこれからの都市において、重要になるであろう視点が語られます。流動的なコミュニケーション、場とプロセスの共有、様式への介入。これらをデザインする際に何が必要なのか、建築と茶道の両面から議論していきます。(前編はこちらから)

本記事は、2019年1月に開催した『METACITY CONFERENCE 2019』の講演内容を記事化したものです。その他登壇者の講演内容はこちらから
・TEXT BY / EDITED BY: Shin Aoyama (VOLOCITEE), Shota Seshimo
・COVER IMAGE BY: noiz
・PRESENTED BY: Makuhari Messe

関係性のデザイン

青木:豊田さん、ありがとうございました。では、これから討議に移っていこうと思います。まず豊田さんに聴きたいのですが、最後に少し出た大阪万博の背景にある思想というのは、ボロノイやお茶のお話ともつながってくるのかなと思ったのですが、いかがですか。

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豊田:大阪万博に関していうと、70年万博というのは、まさに20世紀的な都市計画の最たるものという感じでしたよね。軸線がドカンとあって、太陽の塔というシンボルがあり、グリッドが走っている。固定された構造があって、そのなかに機能を合理的に詰め込むという発想でつくられているものです。翻って21世紀のぼくたちを見てみると、インターネットがあり、リアルな場でのコミュニケーションをしながら、同時に、チャットやメールでいくつものキャラクターを使い分けながらコミュニケーションを取ることもできる。そうしたコミュニケーションの構造に合った都市の構造や、社会の構造というようなものはどういうものかを考える機会になるだろうと思うんですね。そのときに、茶室というコンセプトはひとつヒントになるんじゃないかと考えています。茶室は刹那的で仮設的であって、あるイベントがあったら、そのイベントを引き立てるために最適化した構造を持つことができる。この特徴は、松村さんがいらっしゃるから言うのではなくて、自分が大阪万博でやるべきことに近いのではないかと思います。

青木:あらかじめスタティックに決まった建築を生み出すのではなく、周囲のものとの関係性のなかで、プロセスとしての建築や都市を生み出していく。そのことをどのように支援できるか考えておられる、という感じでしょうか。

豊田:そうですね。建築家の役割は図面を引いて形を起こす人だと思われがちですが、技術が進んでいくなかで、その背景にあるシステムをデザインしたり、その場に関係性を生み出すための仕組みをデザインしたりといった方向まで拡がってきています。お茶の席の場合、こういうことを当たり前のようにデザインしてきたのではないかと推測しています。明確なルールがあって、そのうえでどのレイヤーを崩し、どのレイヤーを守るかデザインする、それが守破離ですよね。ただ正統を守るだけではダメというのが重要なんだと思うんです。そこをどのようになさっているか、非常に興味があります。

青木:おもしろいですね。お茶の場合、いわゆる亭主といいますか、主催者やホストにあたる人がゲストの方々と関係性を構築する必要がありますよね。ぼくはその過程をどのように設計しているかに興味があります。

松村:茶事というのは、4時間くらいかかるようなもので、誰を呼ぶのかは主催者が決めることができました。しかし、だんだんいまのような時代になってくると、当然ながら不特定多数の方が参加するものになっていきますよね。そうなってきますと、まず困るのは正客という、一番最初に座る方をどなたにするのかという点です。いまお茶会にいくと、そのバックヤードでは、先生同士がどちらが先に座るかという席の譲り合いが起こっています。関係性の構築というのは、こういうところからもうすでに始まっているのですね。ただ、共通言語として、流派や道具といった情報があるので、そこから関係性をつくっていくこともできます。

豊田:ぼくはお茶の知識がほとんどありません。ぼくのようなひとが初対面で入っていったときには、どのような共通言語がありうるのでしょうか。さきほどの女体盛りの茶会の例では、たしかにお茶よりも女体盛りならわかる、共通の意味を持っているという感じがしました。

松村:女体盛りは、なんとなくわかりますね(笑)。それはともかく、豊田さんの疑問はもっともで、お茶の場合は、たしかにある程度の経験則や情報を知っていたほうが、お茶というゲームというかルールに乗っかりやすいところがあるとされています。

豊田:知らないと、わからない感じがしてしまいます。

松村:しかし、お茶の精神としては、そんなことはないんですよ。まったく知らない状態で、この器きれいですねとか、すごい色ですねとか、お茶って苦いと思っていたけど案外おいしいですねとか、そういう素直な感想をいただけたらそれは基本的に全部正解なんです。亭主はそれがうれしいという感じなんです。ただ一般的には、お茶をよく知らない人が主客というトップの席に座ってしまうと、なにもしらないのに上がってしまってと陰口を言われたり、帰り道にあのお茶会はどうだったとか喋ったりということはあります。そういったところは私の好きじゃないとこですけど(笑)。

青木:なるほど(笑)。ぼくは、茶の湯にはプロセスがあるという点が面白いと思っています。最初に待合があって、そこでちょっと休憩して一服する。そのあと儀式といいますかイニシエーションのように茶会がはじまる。まずは参加する方々と談話をして空気を温めつつ、徐々に露地に出ていく。こういう感覚というか精神性、メンタルモデルのようなものについても、少しお聞かせいただけますか。

松村:ありがとうございます。先ほど私の発表でもちらりと言いましたが、昔茶の湯に参加した戦国武将たちというのは、西行や鴨長明といった遁世者や世捨て人のような人たちに憧れがあったようなんです。まあ、普段は人殺しやっているような連中ですからね(笑)。あるいは、裕福な商人たちもそうです。彼らは、京都とか堺といった大都会で、母屋の奥側に市中の山居として茶室をつくりました。要するに、都会のなかにいながらトリップ感を味わっちゃおう、ちょっと非日常を味わっちゃおうというのが、お茶室というものを求める人たちの精神性かなと思います。

豊田:レイヴパーティみたいなものですよね。

松村:そうなんですよ。ちょっと行って、ウェーイみたいなところがあるといいますか。カフェインも強いですから、ぶっ飛んだんじゃないかなと(笑)。もう少し具体的に昔はこういう感じだったんじゃないかというプロセスをお話しますね。まず、先ほど言ったように母屋がありますよね。そこに集まって、一度お庭に出る。すると、ごっこ遊びのような感じですが、あたかも山の中の庵に行ったような気持ちになってくる。そこで座ってタバコを吸うと、だんだんトリップに向けて気持ちが整っていきます。それから門を開けて茶室のほうに行くと、まったく別の世界が広がっています。母屋のほうでは、変わった色や香りの木々が植えてあって世俗的な感じですが、茶室のほうでは、常緑樹の木ばかりで、一年中通して緑を感じられる、非日常的な空間なのです。ここに入ったら、蹲で身を清め、武士とか商人とかっていう普段の肩書も洗い流します。そうして誇りもなにもかも捨て去ったあとに、躙口をくぐります。そうすると完全に生まれ変わって、赤子のような気持ちで茶室のなかで遊ぶことができるのです。これが本来のお茶の精神性です。大の大人が何百年もこういう盛大なごっこ遊びをやっているわけです。いかがでしょうか。

豊田:面白いですね。いまのお話のなかには、何度もトリップという言葉が出てきましたよね。でもそれは、いわゆるドラッグでケミカルにトリップすることとも違いますよね。ケミカルではなくて、しつらえとストーリー、様式を総合するなかで、非日常の世界にトリップする。それは旅をするという意味でのトリップでもあるのかなと思うのですが。

松村:そうですね。よく言われることですが、お茶室に入ったら、信長のような偉い武将も下っ端の商人も一座建立ということで、普段のルールから離れて関係性を築くことになります。そういった意味でも、お茶会はトリップというか、普段とは違うことをやる仕組みだったのではないかと思います。

様式に介入するデザイン

豊田:様式を通じてトリップをつくるというのは、重要な視点ですよね。日本には規制やしがらみが多くてつまらないということはありつつも、別の見方をすれば、それは様式が積み重なって洗練していっているということでもあります。そこで重要なのは、どの部分を様式として活かし、どの部分を崩していくかということなのかなと思います。実は、ぼくは卒業論文を日本建築史で書いているのですが、日本建築を見ていると本当に畏怖といいますか、これは触ってはいけないというような気持ちになります。そうした古いものを残す視点と、新しいものをつくる視点とを組み合わせて、どのように体験をデザインしていくかということが自分の関心の中心にあるのですが、茶の文化はこのふたつにずっと取り組んできたというイメージがあります。

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松村:お茶の場合、いまは様式がだいぶ確立している印象があるかと思いますが、当然ながら450年前にこの文化ができた頃には、みな手探りだったわけですよね。様式自体が存在しないなかで、こういうやり方のほうが連帯感が生まれるかもしれないとか、濃茶をみんなで飲むほうがいいとか、そういう積み重ねから始まっていると思います。お茶を何度もやっていると、流派の違いをはじめ、お点前の手続きや考え方にある誤差のようなものがいろいろみえてきます。そうした違いから、昔のお茶の姿みたようなものが少しわかってくることがあるのです。この作法はずっと昔から残っているようだとか、逆にこれは後からできたものだろうとか、そういうことがわかっていきます。それがわかってくると、新しいことをやるときにここは変えてしまっていいだろうという判断ができるようになりますね。

青木:大変おもしろいですね。お茶というものが、世俗のなかで自分が持っている考え方を取り払うプロセスに感じられます。たとえば、武士の世界では上下関係がはっきりしているので、対等な男同士の会話をするために、茶室でのプロセスがあったわけですよね。いままで上司部下だったふたりが、待合のような場でのダイナミックなプロセスのなかで、上下が取り払われる。そこで豊田さんに聞いてみたいのですが、こういった手法は情報技術や建築のなかにもあるのでしょうか。どちらかというと、現代は関係性が固定されている状況があるのかなと思っていまして。

豊田:茶室を、硬直化した状況を崩す技術というように抽象化するのであれば、いまはそういうことがたくさん起こっている時代なんじゃないかと思います。たとえば、ビジネスの世界に目を向けると、Uberはタクシーという固定された領域を、情報技術によって崩していますよね。ある車が刹那的に乗用車になったりタクシーになったりするシステムをつくっているわけですから。あるいは、Airbnbはホテルという領域に対して、同じことをやっています。シェアエコノミーというものは、固定されたものには実現できない価値を、情報や定義のほうを流動化したり動的なシステムをつくったりすることで価値の移動を生み出すという意味で、茶の湯の感覚とパラレルなのではないかと思います。建築や都市の世界は、まだ新しい情報社会ならではの価値がいかなる意味を持っているか、気付ききれていないと思います。デジタル技術は壁や柱を生み出すわけではなく、むしろ、つくっているものの機能や価値を突然流動化させることができてしまう。ぼくたちの事務所は、そのことに実験的に挑戦しているという感じです。

青木:いまのお話と重ねて質問したいのですが、豊田さんの最初のお話のなかで、精神空間と情報空間、物理空間という3つのレイヤーは、Common Groundというインターフェースを通じてお互いを認識できるというくだりがあったかと思います。では、建築という物理空間の側から、精神空間や情報空間にアプローチするような技術というのは、なにかありますか?

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豊田:僕はあくまで物理空間と情報空間のインターフェースとしてのCommon Groundという位置付けて話していたので、そこに精神世界が加わってくると、突然あまりにも深遠なテーマになりますね(笑)。昔から追求されてきたことですが、たとえば大聖堂のような素晴らしい建築というのは、そこに固定されているけれども、季節の変化や光の変化といったダイナミズムを織り込んでつくられてきました。現代では、そうしたダイナミックなものを取り込むインタラクティブな方法が、受動的な環境以外にも多く生まれてきています。たとえば、建築の場合は、コンピュータを使って建てるというのはまさにそうした方法ですし、電子音楽のような領域では、グラフィカルコーディングで音をつくるということが建築に10年くらい先行して起こっています。ただし、こういうインターフェースや構造というものは、本当にそこにいる人の心のなかに生まれる価値や興奮とはぜんぜん違っていますよね。構造そのものではなく、間接的に生成される興奮やリズムが本当は大切で、それは音楽でも建築でもお茶でも同じでしょう。まだ新しい技術の世界はテクニカルな可能性の探索の段階で、そこに二次的に生じる感性や精神性をいかにコントロールするかという段階にまでは至れていない面はあると思います。

青木:共感します。情報技術だけでなくデザインパターン的なアプローチとあわせて複合的に挑戦すると見えてくるものがあるかもしれませんね。

松村:豊田さんのお話は、非常にお茶に近い話だと思いました。先ほどお茶の流れを話しましたが、最初はギュッと狭い空間があり、それから急に庭が広がり、また小さい部屋に入りますよね。さっきまでお酒を飲んでワイワイ喋っていたのに、急に沈黙を強いて濃茶を練り、そのお茶を飲んだ瞬間にまたお話をする。そういう緩急というのが、お茶という超アナログな世界で感じていることなんです。豊田さんのお話を伺っていて、建築や情報技術を活かすと、そういった体験をいろいろなひとが同時にできるのかもしれないなと思いました。

豊田:そうですね。お茶席のなかで場を共有することでしか実現しなかった興奮や価値というものを、全部とは言わないまでも、ある部分だけはリモートで共有できるかもしれない。こういう感覚を実際にデザインするとなるとなかなか具体的なイメージは生まれにくいものなのですが、例えばお茶というしくみや体験とのアナロジーで考えると、意外に見えてない世界が都市や建築の中にデザインできるようになるのかもしれませんね。

青木:プロセスの重要性と、様式の重なりに対する介入の視点というところは、情報技術や建築、都市設計の世界とお茶の世界の共通点かもしれませんね。

松村:そうですね。はじめに豊田さんが紹介されていた、畳を切る事例は、まさにお茶の世界との共通点を感じました。お茶の世界では、お茶碗が割れたときに継いでいったり、いろいろな形の石を庭の露地に敷いていったり、お茶室の建築のなかで窓や釘を位置づけたりという、配置のデザインがあります。そういうことをやるときには、自然に感じられる気持ちよさみたいなものがあるのですが、それをデジタルでやるというところには感銘を受けました。

豊田:ありがとうございます。ぼくはデジタル技術を使って、デジタルっぽく見えるものをつくっているうちはダメだと思っているのです。そうではなくて、純粋に数理的なことばかりやっているはずなのに、気がついたら感覚的で有機的なものが生まれるというところにまでいって、はじめてデジタル技術がつくる価値というものが見えてくるのかなと思っています。

松村:それはぜひ、見てみたいです。

青木:いろいろと共有できそうな点がでてきました。それでは、このあたりで、討議を終えたいと思います。ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

以上で、METACITY CONFERENCE 2019の全セッションは終了です。一連の講演と議論を通じて、みなさまの中にある「ありうる都市」の概念が拡がっていき、そしてそれを捉える言葉をまず紡ぎ出していくことが、メタシティの第一歩だと信じております。ありがとうございました。

AFTERWORD:「METACITY CONFERENCE 2019 おわりに」はこちらから

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登壇者プロフィール

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松村 宗亮|SORYO MATSUMURA
茶人/裏千家茶道准教授/The TEA-ROOM メンバー
学生時代ヨーロッパを放浪中に日本人でありながら日本文化を知らないことに気づき、帰国後茶道を開始。
「SHUHALLYプロジェクト」として”茶の湯をもっと自由に、もっと楽しく”をモットーに、茶道教室やお茶会を主宰。
茶の湯の基本を守りつつ、今の時代に合った創意工夫を加えた独自のスタイルを構築。今までに海外10カ国や首相公邸などから招かれ多数の茶会をプロデュース。
コンテンポラリーアートや舞踏、ヒューマンビートボックス、漫画等、他ジャンルとのコラボレーションも積極的におこなっている。
裏千家十六代家元坐忘斎に命名されたオリジナル茶室「文彩庵」がグッドデザイン賞を受賞。
http://thetearoom.jp/

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豊田 啓介|KEISUKE TOYODA
建築家。東京大学工学部建築学科卒業。1996-2000年安藤忠雄建築研究所。2002年コロンビア大学建築学部修士課程修了(AAD)。2002-2006年SHoP Architects(New York)。2007年より東京と台北をベースに、蔡佳萱と共同でnoizを主宰(2016年より酒井康介もパートナー)。建築を軸にデジタル技術を応用したデザイン、インスタレーション、コンサルティングなどを国内外で行う。2017年より建築・都市文脈でのテクノロジーベースのコンサルティングプラットフォームgluonを金田充弘、黒田哲二と共同主宰。東京藝術大学芸術情報センター非常勤講師、慶応大学SFC環境情報学部非常勤講師、台湾国立交通大学建築研究所助理教授、情報科学芸術大学院大学 IAMAS非常勤講師。東京大学生産技術研究所客員教授。

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青木 竜太|RYUTA AOKI
コンセプトデザイナー・社会彫刻家。ヴォロシティ株式会社 代表取締役社長、株式会社オルタナティヴ・マシン 共同創業者、株式会社無茶苦茶 共同創業者。その他「Art Hack Day」、「The TEA-ROOM」、「ALIFE Lab.」、「METACITY」などの共同設立者兼ディレクターも兼任。主にアートサイエンス分野でプロジェクトや展覧会のプロデュース、アート作品の制作を行う。価値創造を支える目に見えない構造の設計を得意とする。
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思考実験とプロトタイピングを通して「ありうる都市」の形を探求するリサーチチーム。活動にまつわる記事を投稿していきます。 https://metacity.jp/