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「アート系スタートアップの出現と都市文化に与える影響」(前編)

本セッションは「アート系スタートアップ」をテーマとして、日本における実践者というべき3名にご登壇いただきました。

前編となる今回では、登壇者3名の自己紹介を通じて、都市生活の文化的側面を充実させる新しいサービスと、その先にあるヴィジョンについてお話いただきます。

本記事は、2019年1月に開催した『METACITY CONFERENCE 2019』の講演内容を記事化したものです。その他登壇者の講演内容はこちらから
・TEXT BY / EDITED BY: Shin Aoyama (VOLOCITEE), Shota Seshimo
・PRESENTED BY: Makuhari Messe

青木:セッション3は「アート系スタートアップの出現と都市文化に与える影響」というテーマを設定しました。アート系スタートアップというのは、聞き慣れない呼称かもしれません。我々としては、アート分野の課題を解決するWebサービスやアプリ、想像力や表現を拡張する新しいプロダクトやツール、あるいは、既存の分野に回収されない新たな文化を作り出すようなスタートアップのことを指して、この言葉をつかっています。共通しているのは人々の創造性を信じている人たちが活動している会社でしょうか。そのぐらいのニュアンスで捉えていたただければと思います。本日はそうした会社のなかでも、新進気鋭の3名の方をお招きしました。ON THE TRIP代表の成瀬勇輝さん、都市研究者の鈴木綜真さん、MOTION GALLERY代表の大高健志さんです。それぞれに自己紹介とプレゼンテーションをしていただき、それから討議に入れたらと思います。はじめに、成瀬さんからお願いします。

日本各地のオーディオガイドをつくる

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成瀬:成瀬と申します、よろしくお願いいたします。いきなりですが、ぼくはここ1年半ほど家がありません(笑)。ホームレスかつオフィスレス。家も事務所もない暮らしをしています。ではどのように生活をしているかというと、マイクロバスを改造したものに住みながら働いています。約7mのマイクロバスを改装して、3、4人で自宅兼オフィスとして使っています。夏はとにかく車内が暑くて、みんな汗だくです。朝7時ころには日の光と共に起きるのですが、窓を開けたときに吹く風がめちゃ気持ちいいんですよ。このベンチのような場所にマットレスを置いて寝ています。プライベートな空間はありませんが、バスの上にはソーラーパネルがついていて、自分たちで電気をつくることができます。キッチンもあるので、たまに料理もします。

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去年、大地の芸術祭でこの暮らし方自体をアート作品として出展させていただきました。ディレクターの北川フラムさんは、ぼくたちの車を見て「ベッドが牢屋と同じ大きさだ」とおっしゃっておりました(笑)。ぼくたちはこの車で、日本各地の寺社仏閣を回っています。最初は奈良でスタートして、その次は伊勢に行きました。ほかに高知や沖縄にも行っています。なぜそんなことをしているのかというと、寺社仏閣や町をテーマにしたオーディオガイドをつくるためです。オーディオガイドというのは、美術館に行ったときに入り口で渡される音声案内をイメージしていただけたらよいかと思います。ぼくたちは、あのガイドを、実際にその場所に暮らしながらつくっているのです。

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このような活動を始めた背景について、自分の来歴から話していきたいと思います。ぼくはいまから8年くらい前に、アメリカのボストンにあるバブソン大学というところに留学しました。そこから1年間かけて世界中を回って、世界を変える起業家たちにインタビューを行いました。日本に帰国してからは、旅関連の本を出版し、TABI LABOというメディアを立ち上げました。世界中のニュースや情報を、SNSを通じて日本の人たちにモバイルで伝えるメディアです。そして、2年前に、ON THE TRIPという新しいサービスをはじめました。

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先ほどお話ししたオーディオガイドは、このON THE TRIPのためのものです。ON THE TRIPは、日本各地のお寺や神社、美術館に行ったときに、スマホを開くと、その場でオーディオガイドが展開されるというサービス。それから、町のオーディオガイド機能もあります。地図情報と連携して、町歩きをサポートするガイドです。こうしたガイドを、京都や奈良、沖縄のさまざまなスポットと連携しながらつくっています。たとえば、京都では20ほどの社寺と提携して一緒にガイドをつくっていて、ほかに奈良や沖縄、そして大地の芸術祭の公式ガイドなどを手がけています。

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このサービスを立ち上げた背景には、せっかく旅をしていても、行った場所で写真を撮って終わり、ということが多いなと思ったから。日本に来る外国の方々も、日本の人も、自分自身が海外を旅したときも、よくそういうことがありました。本当であれば、その場所にどのような物語があるかを知れば、より深く旅を楽しむことができます。ぼくの場合、スペインのバルセロナにあるサグラダ・ファミリアに行ったとき、現地で活躍する日本人の石工である、外尾悦郎さんに案内をしていただいて、涙が出そうになるくらい感動するという経験をしました。そのとき、物語を知るのと知らないのとで、場所の魅力は大きく変わるということを感じました。そこで、ひとつひとつの文化財やお寺、神社、町を含めて、その場所が持っている物語を伝えることができるプラットフォームをつくりたいと考えたのです。

オーディオガイドをつくるとき、その場に滞在しながらつくっていく。それはただのホームレスなんだけれども、かっこいい言い方をすれば、ぼくたちの車は旅するアトリエであり、アーティスト・イン・レジデンスでもあると思っています。ある場所にクリエイターが滞在し、ガイドをつくって残していくわけですから。

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いまはスマホを通して表現していますが、今後はARのようなものも含めて、その場所の魅力を効果的に伝えていきたいと思っています。ちなみに、トラベルガイドとしてもっとも見られているコンテンツ、「ロンリー・プラネット」がありますよね。これを立ち上げたのはある夫婦で、彼らの旅の始まりもバンだったそうです。たまたまなのですが、すごく親和性を感じました。そういうわけで、ぼくたちは日本各地を転々としています。いまは沖縄にいますが、これから東京に戻ってくるつもりです。よかったら皆さん、バンに遊びに来てください。特にもてなしはできませんが(笑)。以上です、ありがとうございました。

基準を押しつけない都市づくり

青木:ありがとうございました。では、続いて鈴木さんにお話いただきたいと思います。よろしくお願いします。

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鈴木:こんにちは、鈴木です。よろしくお願いします。いきなりですが、この絵を知っている方はおられますか。1971年にフランスで描かれた絵で、パリの古い地域をコンバインが粉々にしているさまが描かれています。高速道であったり、単調な高層ビルであったりが、活気に満ちた地域生活を奪っていることを表現したものです。いまの日本の都市開発の様子を思い浮かべると、ぼくたちも考えさせられることがあるんじゃないかと考えています。

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そうはいっても、昔は自分もそんなことを考えず都市にアプローチしていました。イギリスの大学院で都市解析や都市モデリングという分野の勉強をしていて、世の中に溢れているデータを使って都市の分析をしていました。たとえば、交差点をノードと捉えて、ストリートをコネクションと考えると、都市はネットワーク理論で解析できるようになります。あるいは、都市のなかにいる人間をエージェントとしてモデリングして、そのひとのパラメータをいじってみれば、発現される都市の形状をみてとることができます。こういった研究が進むと、明日の都市、一週間後の都市、一年後の都市の形状を予測できるようになる。これはすごいと思っていたのですが、大学院での研究を進めるうちに、だんだんこのアプローチの危険性が気になって、これでええのかなと思うようになりました。

そう思うようになったきっかけを少しお話します。大学院では、授業が終わったあとや週末に公園で集まって議論というか談話をします。そうした仲間のひとりである大学院のときのコースメイトが今日もチェコから来てくれているのですが、彼らはみなぼくの都市モデリングにあまり興味を持ってくれなかったのです。どうしてなんだろうか、モデリングの技術には自信があったから、それに嫉妬しているのかなと最初は思っていたのですが(笑)、議論を交わしているうちに、そうではないとわかってきました。ぼく自身にも、もしかしたら都市モデリングのコースにもあった問題点は、どういう都市をつくりたいのかというビジョンに関する議論が欠けているところでした。ぼくがつくっている都市モデリングは、結局は政府や都市プランナーのような、すでに力を持っている人たちをさらにエンパワーするツールになってしまう。彼らが都市を思うがままに組み立てるための道具になってしまうかもしれないということに思い至ったのです。はじめこのことに気づいたとき、強いショックを受けました。

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それから、ぼくはどんな都市をつくりたいのか考え始めるようになりました。いままで訪れた都市の写真を見返して、好きな場所を考えてみました。学生で暇やったので、ヨーロッパからアジア、南米の国まで、いろいろ見ました。そうしてわかったのは、自分が好きな都市の風景は、ひとつひとつが全然違っているということです。たとえば、ボストンの小道とペルーのリマの小道はだいぶ違っていますが、ぼくはどちらもなんとなくいいなと感じる。では、この感覚はどこから来ているんだろうと探っていると、だんだんと、地元の人だけが知っている都市のエッセンスが含まれた場所を素敵やなと思うのではないかと気づいたのです。

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このなんとなくいいと感じるというパラメータは、都市ランキングやGDPのような、合理化され効率化された基準をいくつ並べても、汲み取ることはできません。よい都市というのは、こうしたプランナーやアカデミアが決めた一定のクライテリアを超えているということではなくて、そこに住む人それぞれが持つ良さの基準が入り交じることで発現するのではないかと考えるようになりました。このような意味を込めて、ぼくは自分たちのグループをcity blenderと呼ぶことにしました。単純なパラメータで都市を測るのではなく、それぞれの人が持つ基準がブレンドされた状態をつくろうという思いを込めています。かわいい名前なのでとても気に入っているのですが、自己紹介のときに「綜真くんの仕事ってなんなの?」と聞かれて「city blenderです」と答えると「は?」というような顔をされてしまいます(笑)。けれども、この言葉を推していこうと思っています。

経済成長や効率化といった、限られた数のパラメータに向って、一気に突き進んでいく時間も、大事だったと思います。しかし、いまはすでにそれがある程度実現している。ですから、「都市プランナーは基準を押し付けるのをやめよう」とぼくは言いたい。このように言うと、「じゃあ都市でなにかやりたい人間はどうしたらよいのか、なにもできないのか」という声が聞こえてくるのですが、ぼくはそうではないとも思っています。ぼくたちは、都市に住む人々が、自分たちの都市空間を自由に使ったり、選んだりできるような仕組みをつくる必要があると考えています。

空きスペースの新しい活用法を提案する

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このような思いを抱えて日本に戻ってきて、日本の都市では空いたスペースをどのように使っているかを調べてみました。すると、多くの人は自販機を置いているなと気づきました。日本には全国で自動販売機が600万台もあります。こんなにやらんやろというくらい、やけくそなまでに置かれています。もうひとつは、駐車場です。ぼくが住む西日暮里の駅には、徒歩2分のところに駐車場があります。山手線沿いの駅ですから、徒歩2分圏内はどこもごった返しているのに、駐車場だけはいつもガラガラです。高齢化が進み、若者は車離れしていると言われていますが、いまでも多くの人が自分の持つスペースを駐車場にしています。

なぜこうなってしまうのかというと、別にみんな自動販売機や駐車場が好きなわけではなくて、ほかのオプションを知らないのではないかと思います。空きスペースがあると自動販売機や駐車場の営業がやってきて、副収入や節税になりますよと言われて、それにしたがってしまうわけです。しかし、本当にそれが正しいのでしょうか。いまは観光客が爆発的に増えていると言われていますし、いわゆるシェアリングサービスみたいなものが台頭している状況でもあります。もし空いている部屋があったら、それをイベント会場にも、宿泊所にも、映画館にできるでしょう。軒先にちょっとしたスペースがあったら、そこにシェアリングの傘を置いたり、ギャラリーをつくったり、ポップアップストアをつくったりできるかもしれません。オプションはいろいろあるにもかかわらず、スペースのオーナーがそういった数ある使用方法を知らなかったり、従来の自動販売機や駐車場としての利用と比較したりすることができないことが問題です。

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このように考えて、ぼくは11月からPlacyという空きスペースのマッチングサービスを始めました。「Have some space that’s place」というキャッチコピーを掲げています。これは、あなたにとって空きスペースだと思ってる場所が、もしかしたら意味のある場所になるかもしれないという思いを込めたフレーズです。実際になにをしているかというと、ユーザーが持っている空きスペースを解析して、あなたの持っている場所ならこのサービスが使える、部屋もこんなふうに変えられるし、壁も使える、屋上だって使える、というようなレコメンドを行っています。もともと専門にしていた都市解析の技術を活かして、空きスペースの解析を行い、あるサービスを使ったらこのぐらいの収益になるだろうというシミュレーションを出すこともできます。これからはユーザーの方の趣味嗜好に基づいて、活用案を提案できるようにしたいと思っています。

いまは自分の空きスペースに合った他社サービスを比較できるというサービスにしていますが、やがては自分たちのコンテンツもつくっていきたいと思っています。たとえば、日暮里では駅周辺にアート・オブジェクトが展示されています。区が持っているスペースで作品が展示されているのですが、これは民間の場所でもできるはずです。スペースのオーナーが場所を提供して、アーティストが展示料や保管料を払うといった仕組みですね。

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そういうわけで、最後に、ぼくがPlacyに込めた思いを紹介して終わりにしたいと思います。「Placyはスペースの特徴を解析して、あなたの持つ都市スペースのポテンシャルを再発見させます。重要なことは、スペースの使用方法をあなたが決めることだ。あなたが、あなたの都市スペースをデザインすることで、都市は本来あるべき複雑性や多様性を取り戻すことができる」。ぼくはこのように信じてPlacyをやっています。以上です、どうもありがとうございました。

クラウドファンディングで表現の多様性を担保する

青木:鈴木さん、ありがとうございました。では、続けて大高さんお願いします。

大高:大高と申します。よろしくお願いします。僕は、MOTION GALLERYというクラウドファンディングサイトを2011年にスタートしました。また、2年前からは、カフェやいろいろな場所で映画の自主上映ができるpopcornという会社をやっています。ほかには、2020年に埼玉で行われる埼玉国際芸術祭のキュレーターとして作家を選んだり、映画のプロデューサーをやったりと、いろいろなことをやってます。幕張生まれ幕張育ちで、ここ海浜幕張の近くに20年ほど住んでいました。ちなみに、さきほど鈴木さんがcity blenderとおっしゃっていましたが、海浜幕張はまさにその真逆にあるような都市計画をやってきた街でもあって、大学受験時には幕張の都市計画をディスる文章を解かされた記憶もあります(笑)。とはいえ、僕は幕張は大好きですけどね。

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さて、実はぼくがクラウドファンディングというお金に関するサービスをはじめたきっかけになったのは、「ペヤングソースやきそば」なんです。自分史を絡めながら、少しこのエピソードについて話したいと思います。もともとぼくはいわゆる文系の大学で政治や経済を勉強していまして、ふと大学3年生になって岡本太郎の本を読み、次にアンドレアス・グルスキーの写真を見て、アート系の仕事をしたいと思い立ちました。それまでは岡本太郎と言えば「芸術は爆発だ」というフレーズしか浮かばないくらい、アートと自分は関係がないと思っていたのですが、いざ彼の本を読んでみると大変ロジカルで頭がいい、カッコイイなと思ったのです。グルスキーに関しては、99ドルショップや巨大なビル、日本のカミオカンデを撮った写真を見て、都市活動のなかには、ひとりひとりが多様に生きているようでありながらも、なにか禍々しいものがある。そんな人間と社会、アートの関わりを捉えているところが面白いと思いました。
そうして、急にニューヨークの美術大学の大学院に行こうと決めました。それならば、学費を稼がなければいけない、英語も勉強しなければいけないということで、大学卒業後に外資系のコンサルティング・ファームで3年くらい働きました。ところが、実際にはほとんど英語を使う機会がなくて、仕方なく国内にしようということで東京藝術大学の大学院に入りました。いちおう2年間分の学費を貯めていたはずだったのですが、1年遅れてやってくる住民税を忘れていた(笑)。そうして税金で生活費の大半を持っていかれてしまって、芸大に通っている間、昼飯にペヤングソースやきそばを買おうか買わまいか真剣に悩んでいる時期がありました。そのとき、自分にとってお金ってなんだろうと考えたのです。そこでぼくがたどり着いた結論は、本と映画にかけるお金を気にしない程度に稼ぐことができれば、それで十分だということでした。家や車、時計とか、そういうものはどうでもいいなと。そういうふうに考えて、いまのサービスをはじめたのです。

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MOTION GALLERYやpopcornは、ヨーゼフ・ボイスの社会彫刻という概念に影響を受けています。彼は日本でも人気があって、生きていたらみんなが芸術家なのだ、というようなことを言い始めた人です。ただし、巷でよく言われるような、誰しもが芸術家になれるというようなライトな話とは違います。そうではなくて、たとえば、ひとりひとりが都市のなかでなにかを消費するということは、ただ安いとか楽だとかそういうことではなくて、創造的選択であって、そうした選択の集合体の帰結が社会をつくるのだから、そこまで考えて行動しよう、というような少々説教臭いことを言っている。社会というのは彫刻作品のように、ひとりひとりの活動によって形作られていくのだということを言ったのです。ぼくは、これってまさにクラウドファンディングそのものじゃないかと思っているのです。

クラウドファンディングとは、そもそもどうして存在しているのでしょうか。映画や現代アート、本や音楽といったクリエイティブな領域では、いまなかなか作品をつくることが難しくなってきています。簡単に言ってしまうと、非常に小さなお金で自分たちができる範囲の小さなものをつくるか、誰もがわかるようなヒット作を原作に持ってきて非常に大きな予算でつくるか、そのどちらかになってしまっているのです。多様性を担保するのが表現であるはずなのに、お金の面で多様な作品をつくりだすことができなくなってしまっている。成瀬さんのようにバスのなかで暮らすというような、本当にオルタナティブな活動、これからマジョリティになっていくかもしれないようなものにお金が投下されない。特に映画のような分野では、こういうことが非常に起きています。

好き嫌いとは別の次元で、ちゃんと多様なものが生み出される環境が社会の豊かさなのだとしたら、そうした豊かな多様性を担保するのがクラウドファンディングです。

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もともとは、新しいチャレンジを支えるリスクマネーとして投資というものがあったはずなのです。そもそも投資が始まったのは、コロンブスの大航海時代に、船一隻出すことがあまりにハイリスク・ハイリターンだったので、みんなでお金を出し合うというところからです。そのときの投資判断の基準は、船長の目がいいとか、気合が入っているみたいな理由だったわけです(笑)。帰ってくるかもわからないし、技術的な検証もできないなかでやっていました。しかしいまは、デリバティブのような手法がどんどん広がって、美人投票のようなものになってしまっています。いい会社かどうかではなくて、みんなが買おうとしているかどうかで会社を選ぶというように基準が変わってしまって、多様なものが生み出しにくい社会になってしまっている。これがぼくのもともとの仮説です。たとえば、ものづくりの場合であれば、生活者からの売上によって評価をするべきだと思うのですが、いまはつくるためのイニシャルコストを担保する金融機関や投資家が評価するようになってしまっている。本当に生活者がほしがっているものかどうかなんてわからないのに、金融の専門家が過去のデータに基づいて当たる当たらないということをやっているから、多様なものが生まれてこないのです。とりわけ、最近では生活者の趣味も分散し多様になってきていて、なにが正しいかわからなくなってきているにもかかわらず、です。

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クラウドファンディングというのは、そこで自分がつくりたいものを生活者に直接プレゼンし、イニシャルコストを先にもらってしまおうという考え方です。たとえば、映画でいえば、キラキラ系で自分個人としては超つまらなそうなんだけれども、みんなから投資をたくさん集めていて、その隣に自分が大好きだけれども絶対売れなそうな小難しい映画があるとしましょう。もし自分が投資をするとしたら、すでに投資を集めているキラキラ系の映画のほうが儲かりそうですから、そちらにお金を出したくなるはずです。しかしクラウドファンディングであれば、3000円出したらそのチケットがついてくるというような仕組みになっているので、美人投票ではなく、純粋に自分が応援したいと思う映画にお金を出しますよね。映画がどれだけヒットしたとしても、返ってくるものは同じチケットですから、おもしろそうなほうを選びます。このように、クラウドファンディングであれば、投資のような美人投票ではなくて、自分がこの社会をどうしたいのかという意志に基づいたお金の流れをつくれるのではないかと考えています。そうしてMOTIONGALLERYのクラウドファンディングで生まれた作品のなかには『カメラを止めるな!』のような大ヒット作品もあります。

映画が上映できる場所を多様に

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popcornというサービスは、映画におけるこうした状況を、さらに活性化するためにスタートしました。映画の場合、クラウドファンディングで多様な作品が生まれてくるようになったら、映画館でそれが上映される必要があります。しかし、いまは映画館がどんどん減っていて、一本あたりの上映期間も短くなっている。単純にいうと、映画館は儲からない産業になっているのです。とりわけ、ミニシアターがどんどん潰れているというニュースもあります。ミニシアターが潰れてしまうと、せっかく多様な作品が生まれてきても、それを上映する場所がないということになります。とりわけアート的な作品やマジョリティにウケない作品は、クラウドファンディングでお金を集めて作品をつくることができても、なかなか上映できず、お金を回収することが難しい状況になってしまっているのです。

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しかし、みんなが映画を見なくなっているというわけではないのです。ドライブインシアターや野外上映は大変流行っています。popcornを一緒にやっているナカムラケンタがよく言っているのですが、自分たちで面白いものをつくりあげようという行動はたくさん生まれてきているのだと。そうであるならば、上映機会を増やす活動をみんなでつくっていこうというのが、popcornの考え方です。たとえば、カフェやバーで映画好きな人がナイトタイムに上映会を開催する。古い作品であってもなんであっても、おもしろいやり方で体験込みで上映したら、ロードショーではないので、作品を長く見られるのではないかと考えました。

NetflixやAmazonプライムのようなストリーミングサービスとなにが違うんですかとよく言われます。たしかに、いまっぽいのは絶対そっちなんですよね。しかし、小難しい映画をNetflixで見るかというと絶対見ません。ぼくもNetflixを通じて、『あいのり』とか『TERRACE HOUSE』とかのファンになりました。家のなかで、いつでも途中で見るのを止められる環境では、疲れるような映画は見ないんです。みんなで一種の軟禁状態のようなところで、つまらないかもしれないけれども逃げられないというような状況がなくては、複雑な映画は見てもらえないのです。社会が便利に楽にカスタマイズされている現代の状況のなかでは、自分の趣味と違うものを強制される映画館のような体験は大変貴重です。

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popcornはそんな体験を擬似的にではあっても、いろいろな場所で、コストを掛けずにできるようにしたい。そんな地平を切り開いていきたいと考えています。このような理想を実現するために、popcornでは権利処理の仕組みなどをいろいろ工夫して、地方の20人から30人規模の会場で赤字でない上映会が開けるようにしています。

このように、MOTION GALLERYのクラウドファンディングでお金を集め、popcornで劇場公開が終わった後の旧作の上映会をやっていくなかで、自分たちで映画をつくってみようということで、映画のプロデュースも始めました。その第一弾作品が『あの日々の話』という映画です。2018年の東京国際映画祭で入選もした作品で、4月に渋谷のユーロスペースで公開が始まります。内容としては、先ほど小難しい映画の話をしましたが、これは本当にバカみたいな映画です。サークルの幹事長選挙の後に、みんなでオールしてカラオケをやるという与太話のような作品ですが、本当に笑えます。社会性も、ないようである。舞台演出家の平田オリザがやっている青年団出身の、玉田企画という劇団がつくった演劇を映画化したものです。演劇を映画にするのは、簡単そうにみえて難しくて、大失敗するものが多いのですが、これはきちんと映画というフォーマットに翻訳するチャレンジをしています。大賀や村上虹郎といった有名な人もちょっと出ています。最後はほとんど宣伝になりましたが(笑)、ぜひ見てみてください。よろしくお願いします。

NEXT:後編はこちらから!

登壇者プロフィール

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成瀬 勇輝|YUKI NARUSE
ON THE TRIP代表。
早稲田大学で経済学を学び、ビジネス専攻に特化した米ボストンにあるバブソン大学に留学。その後、1年かけて世界中の起業家にインタビューをするウェブマガジン、NOMAD PROJECTを実施。帰国後は、世界中の情報を発信するモバイルメディアTABI LABOを創業、共同代表取締役に。 2017年より、あらゆる旅先を博物館化するオーディオガイドアプリ「ON THE TRIP」をスタートし、現在に至る。 ON THE TRIPのオフィスはマイクロバスを改装したバン。日本各地をバンで滞在しながらガイド制作をしている。
旅の経験から、書籍『自分の仕事をつくる旅』 (ディスカバー21)、『旅の報酬』(いろは出版)を上梓。オフィスであるバンをアート作品として、大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ2018に出展。

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鈴木 綜真|SOMA SUZUKI
1993年4月生まれ。京都大学工学部物理工学科を卒業後、MITメディアラボのDIgital Currency Initiative/Open Music Initiativeにてブロックチェーンで音楽の著作権を管理するプラットフォームの開発に参加。その後、ロンドン大学UCL Bartlett School修士課程で都市解析を学ぶ。音楽やイマジナビリティの観点から、街のパーセプションを解析し 都市における感覚的知覚に価値をもたらすことをテーマに研究を行いながら、2018年9月に日本へ帰国。2019年5月に、音楽で場所を検索する地図プラットフォームを開発する株式会社Placyを創業。2020年6月より、Wired Japan「Cultivatying CityOS」連載。

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大高 健志|TAKESHI OTAKA
MOTION GALLERY代表、POPcorn共同代表、さいたま国際芸術祭2020キュレーター、映画プロデューサー。
1983年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、’07年外資系コンサルティングファーム入社。戦略コンサルタントとして、事業戦略立案・新規事業立ち上げ等のプロジェクトに従事。
その後、東京藝術大学大学院に進学。制作に携わる中で、 クリエイティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、’11年にクラウドファンディングプラットフォーム『MOTION GALLERY』設立。以降、20億円を超えるファンディングをサポート。2015年度グッドデザイン賞「グッドデザイン・ベスト100」受賞 。
2017年、誰でも自分のまちに映画館を発明できるプラットフォーム『POPcorn』設立。日本各地の場所・人・映画をなめらかに繋ぐ事で、特別な場所にみんなが集う時間がまちに次々生まれるべく挑戦中。
また、様々な領域でプレイヤーとしても活動中。
現代アート:2020年開催「さいたま国際芸術祭」キュレーター就任。
映画:『MOTION GALLERY』の映像制作レーベル MOTION GALLERY STUDIOのプロデューサー。第一弾長編映画『あの日々の話』は第31回東京国際映画祭「日本映画スプラッシュ」部門選出。

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青木 竜太|RYUTA AOKI
コンセプトデザイナー・社会彫刻家。ヴォロシティ株式会社 代表取締役社長、株式会社オルタナティヴ・マシン 共同創業者、株式会社無茶苦茶 共同創業者。その他「Art Hack Day」、「The TEA-ROOM」、「ALIFE Lab.」、「METACITY」などの共同設立者兼ディレクターも兼任。主にアートサイエンス分野でプロジェクトや展覧会のプロデュース、アート作品の制作を行う。価値創造を支える目に見えない構造の設計を得意とする。
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