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これまでの記事で書き落としたことのまとめ,2023年2月6日


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注意

 これらの重要な情報を明かします。

漫画

『ドラゴンボール』
『ドラゴンボール超』
『マンガで分かる心療内科』
『マンガで分かる心療内科 アドラー心理学編』
『NARUTO』
『キミのお金はどこに消えるのか』
『キミのお金はどこに消えるのか 令和サバイバル編』
『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』
『鋼の錬金術師』
『銀魂』
『ウルトラマン THE NEXT』
『左ききのエレン』(少年ジャンププラス)

テレビアニメ

『NARUTO』
『NARUTO 疾風伝』
『ドラゴンボール』
『ドラゴンボールZ』
『ドラゴンボール超』
『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』

実写映画

『ターミネーター2』

テレビドラマ

『相棒』
『天国と地獄 サイコな2人』

特撮テレビドラマ

『ウルトラマンZ』

特撮映画

『ガメラ 大怪獣空中決戦』
『ガメラ2 レギオン襲来』
『ガメラ3 イリス覚醒』
『シン・ウルトラマン』

小説

『二重螺旋の悪魔』
『迷走皇帝』
『袋小路くんは今日もクローズドサークルにいる』
『悪役令嬢に探偵は向いてない』

はじめに

 今回は事実と意見、「ところ」、弱さ、「自分」の定義の問題などに注目します。

アドラー心理学は事実より意見を優先している

 私は『マンガで分かる心療内科』などを通じて、アドラー心理学、個人心理学を知って、「原因より目的」という論理に、『NARUTO』やウルトラシリーズを通じて検証しました。
 アドラー心理学では、辛いことなどの原因から後ろ向きに行動を抑制したり怒ったりするという主張に、「全員が同じ原因で同じ行動をするとは限らない」として、原因論を否定して、「怒るのは相手を支配したいなどの目的があるからだ」という目的論を重視します。
 しかし、私は『NARUTO』のうちはオビト、『プラチナデータ』の神楽、ウルトラシリーズでの「強硬派」などの過去の体験で「悪いこと」をする人間を踏まえて、辛いことという原因だけで説明の出来ないところは確かにあるものの、その目的を支えるのは本人の常識などの原因が関係していると考えました。
 オビトは仲間の死という原因だけでは、敵を殺す罪悪感の欠如が犯罪者になる前もあとも変化していないことを説明出来ませんが、それは「殺したいから殺しているだけ」という目的だけの論理にはなりません。「ナルトのような、自分と同じ目的を持ちながら法律的に争わざるを得ない敵に遭遇した経験のない」という、目的を踏まえた原因が説明に必要なのです。
 その意味で、アドラー心理学は、目的論に反論しにくい根拠の空疎なところがあります。
 これについて私は、さらに整理するために、「目的は意見で、原因は事実だ」という分類を重視します。

2023年2月6日閲覧

目的論は原因論より、行動に関して一枚上手でしかない

2023年2月6日閲覧

 私は『ドラゴンボール』原作で、タイムトラベルで並行世界が生じたのが事実、並行世界の数が推測、生み出すことの善悪が意見だと分類しており、事実はそれを悪く言う人間も良く言う人間も共通して認めること、推測は直接五感で確定出来ないこと、意見は事実や推測から快不快や願望や利害の絡む主張で、行動によって新しい事実を生み出すこともあります。
 事実からの推測、そこから生じる意見が、行動という新しい事実を生み出すのですから、行動において「原因」は「事実の条件」にはなっても、「目的」という「意見」の方が主体になりやすいと言えます。その意味で、人間の行動を説明する上で目的論は原因論より一枚上手です。
 しかし、一枚だけであり、それ以上目的論を評価するのは過大だという結論に私は至りました。

事業拡大が悪意か善意かは、それこそ「人による」

 『マンガで分かる心療内科 アドラー心理学編』では、「大チェーンを率いる社長が年収一億でも十億でも生活への影響は変わらないはずなのに仕事を続けるのは、多くの人を幸せにするのが自分の幸せだから」と書いていますが、それは目的を抽象化して、論理が飛躍しています。
 チェーン店の活動を続けたいという第一の目的を、「多くの人を幸せにする」という第二の目的だというのは「意見寄りの推測」であり、そう繋がっている確証は、冷静に考えればありません。
 「チェーンを大きくしたい」のは、自分の財産を増やしたいだけかもしれませんし、ライバル企業に恨みがあるからかもしれませんし、そのお金を慈善事業に使いたいためかもしれませんし、高い税金を払いたいから稼ぐ人もいるかもしれません。
 ちなみに、『キミのお金はどこに消えるのか 令和サバイバル編』では、地位財という、心理学を踏まえた行動経済学による概念を、格差の原因の1つにしています。アメリカで高収入の人間がその収入を公開されたところ、「誰に負けても良いが、自分が下だと思っているあいつにだけは負けたくない」とかえって稼ぐようになり、格差が拡大したというのです。このような経済格差を扱う心理学は、『マンガで分かる心療内科』には欠けています。
 つまり、「事業を広めるのは何故か」という行動の説明になるのは「事業を拡大したいからだ」という同語反復のような目的論だけで、それ以上抽象化した「多くの人を幸せにしたいからだ」といった目的論は、それこそ原因論と同じく「全員がその第二の目的で第一の目的を選ぶとは限らないだろう」という論理で否定されてしまうのです。
 慈善事業のために大企業を拡大する人もいるでしょうが、慈善事業のために儲からない医師になる人もいるでしょうし、ライバルに勝つためにお金だけで勝ちたい人ばかりとも限らないはずです。つまり、目的と目的の繋がりも、全員に当てはまる推測ではありません。
 自分の財産を増やしたい、ライバルに負けたくないといった行動経済学や地位財の概念こそ、「お金を稼ぐ」行動の目的という意見に含まれているかもしれず、そのためには原因という事実を重視する必要があります。
 たとえば、「貧困になれば何割が犯罪者になるのか」、「生まれの貧しい人間の何割が稼ぐ意欲を持つのか」といった統計的事実です。それを「全員がそうではないから原因論は間違いである」と言っていては、「食べるのは食べたいからだ」といった同語反復のような目的論しか残らず、その貧弱な論理に強引な「第一の目的がおそらくこの第二の目的に繋がっているだろう」という意見寄りの推測が勢いで加わってしまいます。
 その上、「チェーンの拡大は多くの人を幸せにするため」など、資本の拡大は善意であるというような、抽象的な目的を善意と悪意に分断して、話し手の気に入る相手は善意で、気に入らない相手は悪意で動いているというような先入観や偏見が生まれる危険性もあります。

軍人として真意が真逆の「上官に逆らう殺人」

 ちなみに、「私は殺したいから殺した」と自認する人間として、『鋼の錬金術師』の原作にほぼ忠実なアニメ版『FULLMETAL ALCHEMIST』のキンブリーがいます。
 この珍しいオリジナルの第1話で、かつて戦争中に上司を殺して捕らえられていた軍人のキンブリーが、同じく軍人で犯罪者となったアイザックに脱獄を誘われたときに、「君も異民族を手ひどく殺す軍のやり方が許せなかったから上司を殺したのだろう?」と尋ねられて、「私は殺したかっただけです」と笑っていました。
 のちに、アイザックとキンブリーの目的は、軍に逆らったとしてもむしろ逆だったと判明しました。
 かつてこの『FA』のアメストリス国の軍が自国の異民族のイシュヴァール人を戦争で殺したのは、宗教などは表向きの理由で、錬金術で影の権力者が自国民の命をほぼ全て奪ってエネルギーにする計画として、錬成陣に大勢の死が必要だったためで、軍は操られていたのです。軍はそのために、国の政治から言っても無駄な戦争をしており、イシュヴァール人の降伏も認めず、非戦闘員すら殺していました。人数の問題のためです。
 アイザックはその計画を知って反対して、軍の行いに反発した、むしろ善意のある軍人だったので、生きていれば主人公のエドワードに協力してもおかしくなかったのが誤解されたままでした。しかしキンブリーは、「信念」を持つ人間に敬意は払うものの殺人や爆発を楽しむ「異端」を自認する人間で戦争を積極的に行い、そのためなら同じ民族の部下すら盾にして、上司を殺したのは人間の命を使った兵器を独占するために過ぎませんでした。軍の権威に反発する行動は近いためアイザックに誤解されていても、目的の善悪はほぼ逆でした。
 しかし、そのアイザックにもキンブリーにも、「殺したいから殺した」という抽象的な論理は共通しており、目的の善悪には関係ない同語反復でしかない空疎なものが、目的論にはあります。
 それらを説明するためには、彼らの具体的な行動という事実、「アイザックは目の前の軍人を殺すのを必要な犠牲と言ったが、子供が軍人になったエドワードは説得しようとした」、「キンブリーは殺そうとしたロックベル夫妻や敵対するエドワードの信念は認めた上に、自分が死にかけても笑うところはある」などから検証する必要があります。

四原因と『ターミネーター2』

 アドラー心理学を解説する書籍で、アリストテレスの四原因を解説したところがありました。
 料理で言えば材料という質料因、料理の種類という形相けいそう因、調理するなどの作用因あるいは動力因、食べたいなどの目的因があるらしく、アドラーはその中で目的因を重視したようです。このギリシャ哲学と目的論の繋がりは重要です。
 たとえば、『ターミネーター2』で人間の味方にプログラミングされて未来からやって来たターミネーターの「101型」、「ボブおじさん」は、敵のターミネーターを倒して、ターミネーター誕生の原因であるスカイネットの元を破壊したあと、スカイネットの技術で作られた自分も破壊するように仲間の人間に頼みました。彼を仲間とみなして「死ぬな。僕が何とかするから」と命令する現在のジョンに、このときは逆らっています。未来のジョンの命令を優先したようです。
 このとき、101型が高熱の中に人間の操作で入れてもらったのは、四原因から説明が付くかもしれません。
 私の分類が未熟ですが、「高熱の中に入ったのは、そうでないと分解出来ないほど頑丈な素材で、跡形もなく分解しなければならないから」というのが、ハードウェアに関わる質料因で、「プログラミング通りに動く101型は、未来のジョンに、人間に破壊してもらうように命じられていて、現在のジョンに死ぬなと言われてもそれだけは無視するソフトがあったから、自分で破壊は出来ないプログラムがあるから」というのがソフトウェア、形相因の問題でしょう。
 プログラミングの技術的な過程が作用因で、「スカイネットを生み出さないようにするため、現在の仲間がターミネーターを利用されないように何とかする、守ることは出来ないと未来のジョンが判断して消し去りたかったため」というのが目的因でしょう。

 『ターミネーター2』の、そしてその続編の苦しみが何から生まれるか、その質問にこの四原因から答えることで、論理が深くなるかもしれません。

「輪廻」や「革命」の事実と意見からの推測の混同

 事実と意見の区別で、仏教の輪廻とマルクスの『資本論』も気になります。
 釈迦ことシッダルタが死後の世界の生まれ変わりについて何と言ったのかは資料が曖昧で、「無記」という概念で「死後の世界を語っても仕方がない」というのは輪廻から脱した、悟った人間の話であり、輪廻自体は否定していないような記述もみられます。
 しかしこの議論を混乱させるのは、「釈迦は輪廻を否定したのか」が、「輪廻など人はしない」という事実の側面で否定したのか、「通常の人間の場合、輪廻はするがすべきでない」と意見の側面で否定したのかがこじれてしまうためでしょう。
 『銀魂』原作終盤で、不死身と思われていた黒幕であり主人公達の師匠である虚が、特殊な状態でついに死んだとき、その中の「償いたい」という精神である松陽が、自分の一部を取り込んで再生能力を手に入れた弟子の高杉に何かをして生き延びさせた可能性がありました。
 これについて、松陽の弟子ではないものの高杉をよく知る辰馬は、「世に奇跡など存在しない。師匠が弟子を救うのは奇跡ではなく当然のことだ」と、高杉が生まれ変わった可能性を示唆しています。
 しかしこれは「再生能力を取り込んで生まれ変わる奇跡はあるか」という事実寄りの推測と、「不死身だった師匠が弟子をその能力で救うのは奇跡か当然か」という意見寄りの推測がぎりぎりのところで混ざっています。仏教の輪廻もそのような、事実と意見の境界があるかもしれません。
 マルクスは資本が拡大する中で、(おそらく金融や商人の資本ではなく産業の資本で)労働者が経営者から賃金を取られて生活出来なくなり、やがて革命が起きるだろうと『資本論』で書いたようですが、それは「起きるだろう」であって、「起こすべきだ」ではなかったようです。ここにも、事実寄りの推測と意見寄りの推測が、おそらくマルクス主義者の中で混ざっていたのでしょう。

テールリスクと動物の「ある意味弱いところ」

 経済において、大きなマンションなどを経営していて、一部の住人に問題やトラブルが起きて、確率は低いものの起きると致命的なテールリスクという概念があると、『キミのお金はどこに消えるのか』にあります。
 「虎の尾を踏む」と言われますが、それは虎という「強そうな生き物」も踏まれると痛い、仮に負傷すればそこから全体が死ぬ可能性もある「弱いところ」があるためでしょう。「逆鱗」にも近いところがあります。
 つまり、資産の量などで「強そうな人間や法人や企業」にも、「ある意味弱いところ」があることが、テールリスクによって示されます。
 また、『左ききのエレン』少年ジャンププラス版では、「替えのきく有能は替えのきく無能を引き上げてくれるから会社員に向いている」とあります。
 動物が動く場合は、運動や循環などに部位が専門化していて、ある部位が他の代わりになりにくい、「替えのきかない有能」な細胞の集まりで、「ある意味強いところ」と「ある意味弱いところ」が偏っているのでしょう。植物は全体の構造が近く、「ある意味強いところ」と「ある意味弱いところ」の差異の少ない「替えのきく有能」な細胞の集まりで、テールリスクに当たる概念が少ないとも考えられます。一部が損傷しても再生しやすいところなどが、それを示しています。
 ある意味強いところとある意味弱いところの集まりや組み合わせによって、別の強いところと弱いところが生まれる苦しみが、仏教の「色即是空」にも通じるかもしれません。
 人間は脳が巨大化する代わりに腸が小さくなって消化能力が落ちた分を調理などの技術に頼るようになったようですし、それによる「強いところ」と「弱いところ」があるでしょう。
 だからといって、「強そうな相手」の「弱いところ」を攻撃して良いわけではありません。「強いところ」だけ責めなければならないのです。女性であろうとマイノリティであろうと、政治家は法的に強いのですから、法的に縛る必要があるようにです。

2023年2月6日閲覧

「自分しか困らない分野」のことを心配するのは悪いのか

 『袋小路くんは今日もクローズドサークルにいる』では、主人公が「自分のことしか考えていない」と認める場面があります。
 袋小路は犯罪現場に遭遇すると(それ自体が本来珍しいことですが)、事件の真相が分かるまで周りから出入り出来なくするクローズドサークルを作ってしまう呪いがあります。
 学校で女子生徒が毒で重症になったときに、クローズドサークルが発生して、「早く真相を突き止めないと、僕のせいで彼女が助からなくなってしまう」と心配して、「こんなときに自分だけの心配をしているのが嫌になるが、こればかりは仕方がない」と解説しています。

「誰も自分のxしか考えられない定理」

 私は、「人間は自分のxのことしか考えられない」と考えています。誰か他の人間や生物、あるいはロボットや環境のことを心配する精神があっても、それは自分の「法律、貨幣、遺伝子、文化」の4種の繋がりによる心配や優しさでしかないと推測しています。

2023年2月6日閲覧

 自国を守りたいのは自分と同じ法律で繋がった自国民のためでしかなく、仕事に励むのは自分と貨幣で繋がった同僚や取引相手や顧客のためでしかなく、環境や家庭を守るのは人間の遺伝子による生物学的な繋がりのためであり、宗教や友人関係による優しさは自分の文化のためでしょう。
 自治体は国ではなく条例で繋がった共同体で、学業は仕事の前の段階で、恋愛は家庭の前の段階です。人間は自分という生物に不利だが一部の生物に有利な無酸素環境を守る意欲までそうそうないでしょうし、ロボットを仲間だとみなす人間も、キリスト教の影響を受けていれば、人型ロボットを動物型、工業用ロボットより優先するでしょう。
 この4種の繋がりには、いずれも「他国」、「他業者や商売仇」、「他の家庭」、「異教徒」などの外側の人間がいます。
 自分の眼を使わなければ何も見えないように、自分の耳を使わなければ何も聞こえないように、人間は自分の「何か」を通じてしか何も考えられず、あくまで他者のことを考えるのは、自分とその存在の繋がりに注目しているのでしょう。というより、人間の思考とはあくまで「繋がりの組み合わせ」で、その根や分岐点の一部を適当に「自分」と呼んでいるに過ぎないと今の私は考えています。これも「色即是空」に通じるかもしれません。

「自分しか困らない分野」はなくせない

 その意味で、袋小路が自分だけの心配をしているというのは、「自分の利益のためなら他にどのような損害を与えても構わないと考えている」、「純度100パーセントのエゴイスト」ではなく、「自分しか困らないある分野の心配をしている」のでしょう。
 『迷走皇帝』や『二重螺旋の悪魔』の敵はある意味で前者でした。
 しかし、「自分しか困らない分野がある」人間とは、いつ誰がそうなっても不思議ではありません。何故なら、「利害の繋がりの数や程度」は曖昧であるためです。
 感染しない病気にかかれば、人間はまず「自分だけの心配」をせざるを得ず、自分の家庭や職場や国に負担をかけざるを得ません。袋小路もそのような状態でしょう。
 「自分が病気にかかると他の人間にも迷惑がかかるから、自分は他の誰かのためにかからないようにする」という主張もあるでしょうが、それは「自分のため」を「自分達のため」と拡張出来るだけの利害の繋がりがある人間に限ります。
 その「利害の繋がり」を相手に解釈してもらう余地がなければ、人間は「自分のことしか考えていない」という、本来万人に当てはまる要素をその人間だけの悪徳のように解釈されるのでしょう。

 そこで、例として、『相棒』の出雲、『サイコな2人』の望月、『ウルトラマンZ』のヨウコを挙げます。
 

2023年2月6日閲覧

『相棒』の「子供みたいな」刑事

 

 『相棒』で突然何者かに撃たれた女性の白バイ警官の出雲は、そのまま事件を捜査する刑事になり、自分の恨みを晴らすためか事件を解決するためかが曖昧になって孤立する傾向があります。
 女性が刑事になるのを快く思わない伊丹や、その伊丹を「女心分からない」と表現したこともあり、撃たれた経験のある芹沢も先輩として、出雲に厳しく当たります。「身内がやられて黙っていないのは警察もヤクザも同じだ」と憤る内村も、「俺は古風な人間だから」と出雲の刑事になるのに批判的でした。
 伊丹は金目当てで撃った実行犯に最初はいつも通り憤ったものの、教唆犯が権力で逮捕されなかったときに、出雲に「青臭い」と言うなど、きわめて横暴になっています。芹沢が撃たれたときには上司に逆らってでも主犯の逮捕にこだわったにもかかわらず、です。
 シーズン19は、かなり伊丹や芹沢や内村のパワハラ、セクハラのひどい描写がありました。シーズン20以降は緩和されていますが。
 出雲を「目障りだから」と撃たせた資産家の加西が、権力によって逮捕されずに済み、激しく憤る出雲は、「チキン野郎」と言ったり、刑事の職場を「女性を受け入れない=古い=弱い」という論理で「化石みたい」と言ったり、徐々に残忍になっていました。
 また、「自分は子供みたいなことを言っている」と泣き崩れたときもあり、「子供は自分のことしか考えない」と認識しているのでしょう。
 『天国と地獄 サイコな2人』で孤立する女性刑事の望月にも似たようなところがあります。この作品では「サイコパス」の犯罪者を追いかける中で、望月が特殊な状況で徐々に自分の利益や保身にこだわっていると恋人や犯罪者にすら言われています。恋人に「たいていつも自分ごとじゃん。若干サイコパス気味で、ひとごとで怒るのは珍しい」と言われています。

『ウルトラマンZ』で「弱さ」を「悪さ」にすり替える隊員

 また、『ウルトラマンZ』では、女性隊員のヨウコが、「私は自分のことしか考えていないのではないか?」と悩んでいた可能性があります。
 ウルトラシリーズではしばしば、防衛組織の上層部などにより「危険な」兵器が作られて暴走したり敵に奪われたりしますが、『Z』でそれに当たるD4レイは、比較的ましになっています。
 というのも、D4レイは異次元人ヤプールの空間破壊の能力を複製して、最初は敵もろとも周囲の空間及び発射するロボットとパイロットのヨウコに負担のかかるものでしたが、2回目は周囲への被害が抑えられて、ロボットとヨウコにだけ負担がかかるように改良されていたのです。
 ヨウコは、実は敵に操られていたクリヤマ長官の命令で迷いながらも撃っていましたが、明言のないものの、「ここで撃つのをためらうのは、私が自分のことしか考えていないからではないか?」と考えた可能性があります。
 何故ならヨウコは、ウルトラマンと敵の要素が融合して生まれた「黒いウルトラマンの顔の剣」であるベリアロクを偶然ロボットの手に持ったときに、協力を気まぐれで渋るベリアロクに「どうせ敵を斬れないんでしょう?」と挑発していたためです。元々ウルトラマンや敵から生まれて、人間に恩などないベリアロクに、協力する義務はないにもかかわらず、です。
 『相棒』の出雲が自分に害をなして罪を償わない上に権力を笠にきて逆に警護を要求したときに「チキン野郎」と言ったのは、おそらく「悪い」ことの一部を「臆病さ」や「弱さ」にすり替えた残忍さを持ったのでしょう。これは右京がシーズン14で、それなりに大義を持って行動していたテロリストの本多がいつの間にか売名のために犯罪をするような主張をして「あなたの言葉は軽くなった」と言ったり、副総監の衣笠が友人の息子で警官として不道徳な言動を繰り返すが優秀な青木年男について「頭は悪くないが、出来が悪い」と言ったりしたように、「弱いこと」と「悪いこと」の区別をするのが難しくなったとみられます。
 ヨウコも、「自分に協力しない悪さ」を「弱さ」にすり替えて挑発しているのは通じます。
 一般的に弱い立場の女性が過酷な仕事で「強くなるのが良いことだ」と目指しているうちに、悪いことと弱いことの区別が出来なくなっているところが、出雲、ヨウコの共通点であり、残忍さです。

 話題を戻しますと、ヨウコは「弱いことが悪い」というような主張をベリアロクにしてしまった手前、自分が自分とロボットにだけ負担がかかり、周囲に被害の出ない兵器を撃てないのは、周りより自分の心配をしているからではないか、耐えられない弱さが悪いのではないかと考えた可能性があります。

逆恨みする子供と怪獣

 ちなみに、子供が怪獣と一体化あるいは相互作用を持つと、人を殺しておきながらその自覚がなく、人間を守る主人公の方が「私達を攻撃している」と逆恨みのようなことをする例があります。
 『ガメラ3 イリス覚醒』の綾奈や、漫画『ウルトラマン THE NEXT』の有働のようにです。
 『ガメラ3』で、人間を捕食するギャオスから人間を、被害を出しながらも守ったガメラに、家族が巻き込まれたからと恨む綾奈は、「ギャオスも仲間をガメラに殺された」と倒錯した主張をして、ギャオスの変異したイリスを育ててガメラに復讐したものの、その過程で無関係の人間を殺したことにあとで気付き、謝罪しました。そのガメラの重傷によって、やがてギャオスに負けて世界が滅んだ可能性すらあります。これは世紀末の作品として、取り返しの付かない展開として描かれたかもしれませんが、そうならないために、「自分が攻撃していることに気付かず、されたことばかり考える子供」にならないようにする必要があります。子供にも「ある意味強いところ」があると言えます。
 『ウルトラマン THE NEXT』の有働もまた、人間を一方的に殺す宇宙生物「ザ・ワン」に吸収されて、自分が多数の人間を殺している記憶を消されて子供の意識になり、ザ・ワンから人間を守ろうと攻撃する巨人について、「こいつが僕をいじめている」とみなす状態になり、その憎しみがかえってザ・ワンを強くしていました。
 出雲やヨウコ、望月も、そのような「子供みたいに自分のことしか考えない」状態だと自認していたかもしれませんが、それは「自分」の定義や境界線を狭くされたためでしょう。

「弱い立場」は、「自分達」が狭くなりやすい

 しかし私は、弱い立場の人間ほど「自分」あるいは「自分達」の範囲が狭くなり、損害が周りと繋がりにくくなるのですから、「必要な利己主義」が増えるのは当然だと考えます。
 『二重螺旋の悪魔』の「エゴイスト」の敵も、『シン・ウルトラマン』の人類のように「自分達が唯一無二」の状態で、その「自分達」同士の争いを失くすために「自分」に変化したことで、発生した苦しみを他の生命に押し付けたところがあります。その「ゲーム」の様子は、日部さんの最新作『悪役令嬢に探偵は向いてない』で、「ゲームの悪役とゲームのプレイヤーも、内部の人物を人と思っていない意味で似たようなものだ」という主張に通じるかもしれません。

エントロピーと合成の誤謬

 経済学では、個人がそれぞれ合理的に行動しても、全体で非合理的なふるまいをする「合成の誤謬」という概念があります。
 分子の集まりでも、個々の分子には時間を反転しても同じ動きをする対称性がありながら、全体では、エネルギーの状態を表すエントロピーという値が増える一方になり対称性が崩れる、高温の物体から低温の物体へと熱が移る、合わさると生まれる未知の性質があります。
 『二重螺旋の悪魔』で「自分達しかいなかった」とも言える存在が「自分」に変わったときに寿命が生まれたのも、エントロピーによるものですし、複数の存在が合わさるときに、エントロピーや合成の誤謬のような、未知の性質が生まれることはあるようです。仏教で、何もないところから全ての性質が生まれる「空」にも通じるかもしれません。

まとめ

 今回はあまりまとまっていませんが、「自分」の定義、複数の存在が合わさることで生まれる「ところ」などに鍵があるかもしれません。


参考にした物語


漫画

鳥山明,1985-1995(発行期間),『ドラゴンボール』,集英社(出版社)
鳥山明(原作),とよたろう(作画),2016-(発行期間,未完),『ドラゴンボール超』,集英社(出版社)
ゆうきゆう(原作),ソウ(作画),2014(発行),『マンガで分かる心療内科 アドラー心理学編』,少年画報社(出版社)
ゆうきゆう(原作),ソウ(作画),2010-(発行期間,未完),『マンガで分かる心療内科』,少年画報社(出版社)
岸本斉史,1999-2015,(発行期間),『NARUTO』,集英社(出版社)
井上純一/著,飯田泰之/監修,2018,『キミのお金はどこに消えるのか』,KADOKAWA
井上純一/著,アル・シャード/企画協力,2019,『キミのお金はどこに消えるのか 令和サバイバル編』,KADOKAWA
井上純一(著),アル・シャード(監修),2021,『がんばってるのになぜ僕らは豊かになれないのか』,KADOKAWA
荒川弘(作),2002-2010(発行),『鋼の錬金術師』,スクウェア・エニックス(出版社)
空知英秋,2004-2019(発行期間),『銀魂』,集英社(出版社)
沢樹隆広(漫画),円谷プロダクション(監修),2008,『ウルトラマン THE NEXT』,ウェッジホールディングス(出版社)
かっぴー(原作),nifuni(漫画),2017-(未完),『左ききのエレン』,集英社

テレビアニメ

伊達勇登(監督),大和屋暁ほか(脚本),岸本斉史(原作),2002-2007(放映期間),『NARUTO』,テレビ東京系列(放映局)
伊達勇登ほか(監督),吉田伸ほか(脚本),岸本斉史(原作),2007-2017(放映期間),『NARUTO疾風伝』,テレビ東京系列(放映局)
内山正幸ほか(作画監督),上田芳裕ほか(演出),井上敏樹ほか(脚本),西尾大介ほか(シリーズディレクター),1986-1989,『ドラゴンボール』,フジテレビ系列
清水賢治(フジテレビプロデューサー),松井亜弥ほか(脚本),西尾大介(シリーズディレクター),小山高生(シリーズ構成),鳥山明(原作),1989-1996,『ドラゴンボールZ』,フジテレビ系列(放映局)
大野勉ほか(作画監督),冨岡淳広ほか(脚本),畑野森生ほか(シリーズディレクター),鳥山明(原作),2015-2018,『ドラゴンボール超』,フジテレビ系列(放映局)
入江泰浩(監督),大野木寛ほか(脚本),2009-2010,『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCHEMIST』,MBS・TBS系列(放映局)

実写映画

ジェームズ・キャメロン(監督),ジェームズ・キャメロンほか(脚本),1991,『ターミネーター2』,トライスター・ピクチャーズ(配給)

テレビドラマ

橋本一ほか(監督),真野勝成ほか(脚本),2000年6月3日-(放映期間,未完),『相棒』,テレビ朝日系列(放送)
中島啓介(プロデュース),平川雄一朗ほか(演出),森下佳子(脚本),2021,『天国と地獄~サイコな2人~』,TBS系列

特撮テレビドラマ

田口清隆ほか(監督),吹原幸太ほか(脚本),2020,『ウルトラマンZ』,テレビ東京系列(放映局)

特撮映画

金子修介(監督),伊藤和典(脚本),1995,『ガメラ 大怪獣空中決戦』,東宝(配給)
金子修介(監督),伊藤和典ほか(脚本),1996,『ガメラ2 レギオン襲来』,東宝(配給)
金子修介(監督),伊藤和典ほか(脚本),1999,『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』,東宝(配給)
樋口真嗣(監督),庵野秀明(脚本),2022,『シン・ウルトラマン』,東宝

小説

梅原克文,1998,『二重螺旋の悪魔(上)』,角川ホラー文庫
梅原克文,1998,『二重螺旋の悪魔(下)』,角川ホラー文庫
梅原克文,1993,『二重螺旋の悪魔 上』,朝日ソノラマ
梅原克文,1993,『二重螺旋の悪魔 下』,朝日ソノラマ

梅原克哉,1990,『迷走皇帝』,エニックス文庫

日部星花,2021,『袋小路くんは今日もクローズドサークルにいる』,宝島社
日部星花,2022-(未完),『悪役令嬢に探偵は向いてない』,プリ小説

https://novel.prcm.jp/novel/hUGR86LAer4DnOGOCjpM

2023年2月6日閲覧

参考文献

マルクス(著),エンゲルス(編),向坂逸郎(訳),1969,『資本論 1』,岩波文庫マルクス(著),エンゲルス(編),向坂逸郎(訳),1969,『資本論 2』,岩波文庫
池上彰,2009,『高校生から分かる「資本論」』,ホーム社
佐藤優,2014,『いま生きる「資本論」』,新潮社
岸見一郎,1999,『アドラー心理学入門』,ベストセラーズ
高橋英一,1989,『動物と植物はどこがちがうか』,研成社
中村元,2003,『現代語訳 大乗仏典1』,東京書籍
金岡秀友/校註,2001,『般若心経』,講談社学術文庫
鈴木炎,2014,『エントロピーをめぐる冒険 初心者のための統計物理学』,講談社
室田武,1983,『君は、エントロピーを見たか?』,創拓社
ジェレミー・リフキン/著,竹内均/訳,1990,『エントロピーの法則 地球の環境破壊を救う英知』,祥伝社
花岡幸子,2016,『経済用語図鑑』,WAVE図鑑
ダニエル・E.リーバーマン/著,塩原通緒/訳,2015,『人体600万年史 科学が明かす進化・健康・疾病 上』,早川書房
ダニエル・E.リーバーマン/著,塩原通緒/訳,2015,『人体600万年史 科学が明かす進化・健康・疾病 下』,早川書房
岸見一郎,2017,『アドラーをじっくり読む』,中央公論新社


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