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ようこそ、徒歩でいく創造の旅路へ

皆さま、はじめまして、高橋真美といいます。

往復書簡の1回目、比嘉夏子さんからご紹介に預かり、今回筆を取らせていただくことになりました。

私と、メッシュワークのお2人との出会いは遡ること2年前、ちょうど夏子さんが多様な事業を営む人々が集まるコミュニティ、Impact HUB Tokyo(IHT)の顧問に就任された頃でした。私は当時、コミュニティメンバーが共有する場所であるキッチンやラウンジ、またコワーキングスペースの空間づくりや撮影を担当していました。空間づくり、というとちょっとイメージしずらいと思いますが、分かりやすくいうと「ユーザー体験をもとに、空間のレイアウトを日々どう変化させていくか」ということになります。そしてそのユーザー体験の情報をメンバーから入手するために、メンバーの「行動を観察する方法」を夏子さんよりアドバイスをいただいていたのです。

大学ではグラフィックデザインを学び、その後は書籍や家具の販売で店舗を動き回っていたり、イギリス好きが高じて渡英、留学先で出会った友人の紹介で設立したばかりの照明ブランドの市場開拓を手伝ったりなど、相当雑多な道を歩んできた(笑)私にとって、人類学者がどのような仕事をする専門家なのかはもちろん、ひとつの学問を追求してきた夏子さん、また夏子さんから紹介された水上優さん、お2人の人となりもそこで初めて知り、尊敬とどこか憧れのような思いも抱いたのでした(実際いただいたアドバイスも、目を見張るものでした)。

その後も、お2人で開かれたオンラインセミナーに参加するなどし、より人類学への関心が高まっていった矢先のこと。なにやら夏子さんから「新しく立ち上げる会社のヴィジュアルアイデンティティをお願い出来る人を探しているんだけど…」というお話を聞き、私のこれまでの仕事を見せて欲しいというので、飛び上がる思いで「ポートフォリオ作るのでお待ちください!」と、二つ返事をしました。そのときポートフォリオを作りながら、ラブレターに似た感情を抱いたことを覚えています。結果有り難くも、私を選んでいただいたのでした。

ちょうどその頃、デザイン関連の仕事も少しずつIHTで手掛けはじめていたこともあり、更に経験を積めると意気揚々、しかも夏子さんらと一緒にプロジェクトを進められると思うと、期待に胸が高鳴るお声掛けでした。しかし、私が担当するということは、(選ばれていた可能性のある)経験豊富な他のデザイナーの方が提供する価値とは別の意味を生み出す必要があり、その戦略をどう練るか、期待を上回る不安も覚えていたのは事実でした。

そのネガティビティを前進する動力に変えてくれたのが、一冊の本でした。優さんから手渡された、社会人類学の第一人者、ティム・インゴルド氏著の「ラインズ」です。

このインゴルド氏は「メッシュワーク」の名付け親なのです。起業するにあたり、社名を迷いに迷い、迷いまくったあげく「他者に委ねてみる」ことを決意した夏子さんと優さんは、氏に「名付け親になってくれませんか?」という手紙を出していました(ストーリーの詳細はこちら)。この何ともドラマティックな出来事を機に、私はインゴルド氏を知ることになりました。人類学者の本だから、私には関係ないと思っていたのですが、驚くべきことに「ラインズ」では、デザイン史に必ず登場する重要人物のみならず、カリグラフィや五線譜、手相にある地域の伝統文様などなど、悠久の時を経て存在する、あらゆる文化芸術の営みに存在する可視不可視のラインについての濃密な洞察が描かれていたのです。

ことに興味深かったのは、2つの移動手段、他者との繋がりの中で発見と成長を重ねていく「徒歩旅行"Wayfaring"」と、機械的な動力源を使い、目的地へ最短最速で一直線に進む「輸送"Transport"」の違いについての視点です(こちらについても同上リンクにて詳しく書かれています)。私はここに、大好きな作品「デルスゥ・ウザーラ」(ロシアの探検家が原住民との出逢いについて残した手記。黒澤明が映画化したことで有名)に出てくる2名の登場人物、アルセーニエフとデルスゥを重ね合わせ、親近感を得ていました。

さらにまた、解説に登場する比較文学者の菅啓次郎氏の最後の一文は、感動的ですらありました。

そう、この本はきみのこの世界におけるwayfaringを励ましてくれる本だ。きみだけがもつ数々の線の並びと、それぞれの線の延長を。その線が、きみのまったく知らない誰かとつながるとき、何かが始まる。その何かが、世界を変える。そうして変わった世界を、見たいと思う

ティム・インゴルド『ラインズ』P.267

大学でデザインを勉強したにも拘らず、「デザイナー」として名乗った道を歩んできていない。そのような者が、2人の人類学者の思いを乗せた活動のビジュアルを手掛けるなぞ、という気後れが、この一文によって払拭されたのです。ああそうか、お2人はメッシュワークだったんだ。私が過去にデザイナー一本であったかどうかではなく、まさに曲がりくねりそれが(謎に)絡み合った網目人である私のことを面白いといって関心をもってくれ、一緒に仕事をしたいと言ってくれているのだ、と。

お2人は意図していないかもしれないですが、私は勝手に、「ラインズ」を締めくくるこの一文が、お2人からのメッセージでもあると捉えています。

というわけで、この往復書簡に参加している私の心境は、発見の連続でたいへんに触発され興奮し、ときに謎に満ちていたメッシュワークとの仕事について、少しでも多くの人に共有したい!という単純明快なものです。いうなれば、目的に向かってまっしぐらな「輸送的」機能提供者よりも、お2人の人類学的考え方に耳を傾け、食事を囲み、一緒に迷い悩んだ軌跡の集積を見つめる「徒歩旅行的」伴走者としてのクリエイション。この関わりこそが、クライアントワークではない"メッシュワーク"的デザインなのかもしれない、そんな風に今は思うのです。

と、イントロダクションなのに締め括りっぽくなってしまいましたが、次回からは優さんにバトンタッチし、実際何を私たちがしたのか、具体的に追っていくことになりそうです。

(デザイナー・高橋真美)

<高橋真美 プロフィール>
2018年より、Impact HUB Tokyo(IHT)のコミュニティビルダーとして、空間づくり、またグラフィックデザインや写真撮影などのヴィジュアル制作を担当。2022年よりIHTのインハウスデザイナーとして独立、起業家伴走の経験を活かし、小規模チームのクリエイティブサポートに取り組む傍ら、写真を主に自身の作品制作も行う。

東京生まれ、大学ではコミュニケーションデザインを学ぶ。書店員を経て英国留学、帰国後は英照明ブランドの日本事業設立および市場展開に従事後、IHTのチームメンバーとして参加する。現在は在住6年になる調布市と両親の故郷である群馬県の三市とを行ったりきたり。今再訪したい一番の土地は、極東ロシアの先住民族「ウデヘ」の住むクラスニヤール村。
@mami_tkhs
https://www.instagram.com/mami_tkhs/


つづき
第3回


メッシュワークのロゴデザイン連載一覧

第1回(メッシュワーク・比嘉)

第2回・今回(デザイナー・高橋)

第3、4回(メッシュワーク・水上)

第5回(デザイナー・高橋)


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