見出し画像

「困った人」への対処法2~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識1✕抽象化能力2

個々人の思考スタイルは、「具体的知識」と「抽象化能力」の組み合わせで決まると私は考えています。
「具体的知識」にも「抽象化能力」にもそれぞれ0~4までのレベルがあり、たとえば具体的知識レベル3✕抽象化能力レベル1、具体的知識レベル4✕抽象化能力レベル3、などのように、バランスによってその人の思考スタイルが決まります。

自身の思考スタイルを知ること、コミュニケーション相手の思考スタイルを知ることは、円滑な人間関係、効果的なコミュニケーションを実現するためには重要です。

具体的知識と抽象化能力のレベルが2以下の組み合わせの思考スタイルだと誤解が生じたり、話が噛み合わなかったりとミスコミュニケーションが発生しやすくなります。レベル2以下同士の場合はなおさらです。

今回は具体的知識レベル1✕抽象化能力レベル2の思考スタイルについてご紹介します。

具体的知識1×抽象化能力2の思考スタイルの特徴

思考の利き手は抽象にあります。抽象化能力レベル2ということは、複数の具体的な事例から、適切な抽象化の軸に従って、パターン認識、概念化をすることができます。自身が持っている具体的な知識を広く活用することも可能です。
自身も抽象化能力に自信を持っていることが多く、また、周囲もそれを認めています。抽象化能力レベル2以上あると、学習の効率も高くなります。
一方で、適用判断力が不十分なことによる失敗をしがちです。

具体的知識レベル1ということは、対象を正しく識別できないのですが、その理由は2種類あります。1つ目は解像度が低い、2つ目は視野が狭い場合です。

症状の出方が異なりますので、それぞれご紹介いたします。

具体的知識レベル1✕抽象化能力レベル2

「フワフワした話をする人」

具体的知識レベル1(解像度が不十分)✕抽象化能力レベル2(自分なりの概念化、パターン認識はできるが、適用判断力が不足)

  • 物事の詳細を正確に把握できていないのに、抽象的な概念を使って説明しようとする

  • 実態を伴わない理論や一般論を語る

  • 具体的な質問をされると途端に曖昧になり、「それは表面的な問題です」「もっと大きな視点で見るべきです」などのように、はぐらかすような回答をしがち

  • 「本質的には」、「原理原則として」、「パラダイムシフトの視点で」、「グローバルスタンダードでは」、「イノベーションの観点では」など、聞こえの良い専門用語らしきものを多用する傾向

やりとりの例:品質管理部のOさん

部長:「この商品の不具合の原因は何でしたか?」

Oさん:「はい。品質管理の本質とは、プロセスの継続的改善にあります。デミングサイクルでいうところの...」

部長:「いえ、具体的な不具合の原因を聞いています」

Oさん:「そうですね。マネジメントシステム理論によれば...」

「フワフワした話をする人」の特徴

このタイプの人は、抽象的な概念を理解し操ることはできますが、物事の詳細を正確に把握できていない状態です。対象を漠然としか見られず、あいまいな理解のまま抽象的な話を展開してしまいます。

本人は理論や概念をよく理解しているつもりなので、議論も抽象度の高いレベルで行おうとしますが、その理論や概念の具体的な意味や適用方法については十分な理解ができていません。その結果、実務的な質問をされると途端にあいまいな回答しかできなくなります。

また、抽象的な議論を好む傾向があり、具体的な事実の確認を求められても、すぐに抽象的な話に逃げてしまいます。実態のともなわない理論や一般論を語ることに満足してしまい、具体的な理解を深める必要性に気付けていません。

「フワフワした話をする人」の取り扱い説明書

このタイプの人は上司にも同僚にも部下にも存在します。特に総合職では、抽象化能力が評価され、出世しやすい傾向があり、上司になっているケースも多々あると思います。

このタイプが上司の場合、気をつけないといけません。

いかようにも解釈できる抽象的な指示が多く、それに従ったつもりで完成させても、完成品を見て「ちょっと違うな……」という抽象的なフィードバックを受けてやり直しが頻発するリスクがあるのです。上司には抽象的なイメージしか無く、感覚的なフィードバックしか返さないので、どう修正して良いかもわからず、部下としては右往左往することになります。

最終的には「ちょっと違うな……」といったバージョンのものが、「これでも良いや」と採用されることもあります。やり直しの時間は一体何だったのだろうと思うことがしばしば起こってしまうのです。

こういったことを回避するためには、抽象的な指示を具体的にどうするかを必ず確認し、具体的な実行計画や数値目標を提案し、合意を取ることが必要です。また、定期的に具体的な進捗報告を行い、現状認識を共有することも大切です。

このタイプの部下や同僚が抽象的な話題に入ろうとしたら、必ず具体的な事実の確認を求めなければなりません。「それは具体的にどういうことですか?」と掘り下げる質問を繰り返しましょう。

理論や概念を説明させる際は必ず具体例を添えるよう指示したり、現場での実践経験を積ませて具体的な観察と記録を習慣づけさせることも効果的です。

「自分だけの理想にのめり込む人」

具体的知識レベル1(視野が不十分)✕抽象化能力レベル2(自分なりの概念化、パターン認識はできるが、適用判断力が不足)

  • 限られた経験や狭い視野からの観察だけで、大きな理論を組み立てようとする

  • 自分の見ている範囲だけで一般化してしまう

  • 考慮すべき要素を見落としたまま、壮大な提案をする

  • 口ぐせは「私の経験から導き出された普遍的な法則として...」、「これさえ実現できれば全てが解決する」、「細かいことは後で考えれば良い」、「理想を追求することが何より大切」など。実現可能性を問われると「そういった現実的な制約にとらわれてはいけない」

やりとりの例:業務改革プロジェクトメンバーのPさん

部長:「全社的な業務改革の案を考えてきてください」

Pさん:「はい。私の部署では紙の使用量が多いので、ペーパーレス化を全社展開すれば、会社の収益性は劇的に改善するはずです」

部長:「他の部署の業務の実態は?システム投資は?教育コストは?」

Pさん:「そういった細かいことは、理想の追求の前には些末な問題です」

「自分だけの理想にのめり込む人」の特徴

このタイプの人は限られた範囲での観察や経験から、大きな理論を組み立てようとします。自分の見ている範囲は詳しく見えていても、それが全体のごく一部に過ぎないという認識が欠けています。

抽象化能力自体は高いため、自分の限られた経験から理論を構築することはできますが、視野が狭いため、重要な要素を見落としたまま一般化してしまいます。その結果、実現可能性の低い理想論を展開することになります。

また、自分の見ている範囲での成功体験を過度に一般化し、異なる状況下でも同じように通用すると考えがちです。実現のための具体的な課題を指摘されても、「理想の追求の妨げとなる些末な問題」として軽視する傾向があります。

「フワフワした話をする人」と似ていますが、両者の違いは、「フワフワした話をする人」が既存の抽象的な概念や理論を多用するのに対し、「理想論を語る人」は自分の限られた経験から大きな理論を作り上げようとする点にあります。前者は詳細が曖昧なまま語り、後者は重要な要素を見落としたまま語る傾向があります。

両者の共通点は抽象的な議論を好む点ですが、前者は詳細が見えていないことが問題なのに対し、後者は全体が見えていないことが問題です。そのため改善アプローチも異なり、前者には詳細な観察と記録を習慣づけることが、後者には視野を広げ多角的な検討を促すことが効果的です。

特に視野狭小タイプは、自分の見ている範囲内では詳細も見えているため、解像度不足タイプよりも自説に確信を持ちやすく、周囲の指摘を受け入れにくい傾向があります。

「自分だけの理想にのめり込む人」の取り扱い説明書

このタイプが上司の場合はかなり厄介です。持論に自信を持っており、それを曲げようとしません。ただ、その持論は限られた情報を元に作られたものであり、必ずしも正しいものとは限りません。

上司自身がそれに気づくような問いかけをする必要があります。

そのためには、提案に対して「他部門への影響は?」「コストは?」など多角的な質問をしたり、実現可能性の検討を段階的に行うことを提案したり、関係者との調整機会を積極的に設定したりする必要があります。

部下や同僚の場合は、様々な立場からの検討を促し、視野を広げる機会を作ったり、理想と現実のギャップを具体的に示し段階的な実現プランを考えさせたり、他部門との協業機会を増やし異なる視点に触れさせたり、チームでの検討の場を設け多様な意見を出し合ったりするのがオススメです。

 

今回は具体的知識レベル1✕抽象化能力レベル2の思考スタイルについてご紹介いたしました。

次回はこれ以外の「困った人」が見られる思考スタイルについてご紹介いたします。

参考
1 なぜ、あの人との会話は噛み合わないのか?
2 会話の「噛み合わなさ」の正体
3 「同じミス」を繰り返す人は、「同じミス」だと思っていない
4 質問にきちんと答えられない人
5 思考にも「利き手」がある
6 「茶色い毛玉」か、「うちのミースケ」か?~「具体的知識」のレベル
7 「視野を広げる」ための4つのアプローチ
8 多角的な情報収集~「解像度を上げる」ためのアプローチ(1)
9 何がわが子に起こったか? 「観察」と「記録」と「分析」~「解像度を上げる」ためのアプローチ(2)
10 「抽象化能力」のレベル
11 活躍し続けるベテランは「パターン認識力」が優れている~抽象化能力を支える力1
12 「新入社員が辞めていくのは、新人教育が不十分だから」では、不十分な理由
13 上司の“武勇伝”には、「適用判断力」が欠けている~抽象化能力を支える力2
14 「工場長、本当にその方法で大丈夫なのでしょうか?」適用判断力~抽象化能力を支える力2
15 なぜ、上司によってこんなに評価が異なるのか?抽象化調整力~抽象化能力を支える力3
16 思考スタイルは抽象化能力と具体的知識の組み合わせで決まる
17 「困った人」への対処法1~思考スタイルを知ることで人間関係を楽にする 具体的知識1✕抽象化能力1

いいなと思ったら応援しよう!