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【 パンドラの箱が開く時 】vol.4 忘れられない恋 ❦恋愛小説❦

エレンへ

エレンは眩しく輝く太陽のような人。
太陽が輝けば輝くほど陰が濃くなる。
あなたのその輝きを、私が曇らせることがありませんように。

莉子より

❦この手紙を27歳になった今でも大切に持っている。



季節は夏を迎えていた。

2人の想いが通じあったあの日から、学校に行くのが今まで以上に楽しいものになった。
部活は惜しくも県予選で負けてしまって引退が決まった。
あとは夏を楽しみ、その後の受験に備えるだけだ。

「エレン、プール一緒に行こうよぉ。」
「かわいい水着、着てくれるの?」
「いいよぉ。エレン好みの着てあげる。ふふふっ。」

後ろから腰に抱きついてきた莉子が言った。

「花火大会も一緒に行こうよ。莉子の浴衣姿見たい。」
「ふふ、浴衣脱がしてもいいよぉ。」
「ホントに?でもその前に…。」
「何ニヤけてんの?何?なに?」
「花火見ながら初めてのキッスしよっ」
「恥ずかしい。やめてよぉ〰️。」
ふふふっ。

こんなたわいも無いやり取りをする毎日が何よりも楽しかった。


莉子の別の顔を知るあの時までは。


莉子とはほとんどの休憩時間を一緒に過ごした。でもたまに私のとこに来ないこともあった。それはそれで自分のクラスでの用もあるだろうし特に気にしていなかった。
すると女子たちの噂話が聞こえてきた。

「また来てるよねぇ。体育館横の非常階段。あそこ近づかないほうがいいよ。」

「ねぇ、それって何の話?」

「あー、莉子と仲いいエレンに言うのもなんだけどさぁ。今年卒業した不良で有名な田所先輩。その人と数人の男子がよく非常階段のとこに来て、うちらの学年の不良グループと休憩時間一緒にいるんだよねぇ。」

「それが莉子と何の関係があるの?」

「えっ、だって莉子もその不良グループの一員でしょ?リーダーの結城さんとはいとこだし。莉子と仲良いから、てっきり知ってると思ってたけど。」

「えっ、それホントなの?」

「嘘だと思うなら今もいるから見てきたら。田所先輩が3年の時、莉子と付き合ってるって噂があったから会いに来てるんじゃない?今も付き合ってんのかな?」

私は全く知らなかった。
不良グループとつるんでるって噂はあったけど単なる噂だと思っていたし、田所先輩と莉子が付き合ってたって話も初めて聞いた。

私は急いで非常階段に行ってみた。
すると噂通りそこに莉子がいた。
目立つ不良だった田所先輩の顔は私も覚えてる。

あの人と莉子が付き合ってた?

楽しそうに談笑してる目の前の莉子が、私の知ってる莉子だとは到底思えなかった。

帰りのHRが終わると普段通りの莉子が、ぴょんぴょんしながら声をかけてきた。

「エレン、一緒に帰ろぉぉ。」
「うん。」
「エレン、何か浮かない顔してる?」

莉子が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
私は思い切って聞いてみることにした。

「あのさぁ、今日非常階段のとこで見たんだぁ、莉子のこと。」

莉子の足が止まる。

「私全然知らなかったんだけど、あの人達と仲良かったの?」

莉子は下を向いたまま黙ってる。
私は話を続けた。

「田所先輩とも付き合ってたって聞いたけど、ホント?」

「エレン、それ聞いてどうするの?」

「どうするって…。私の知らない莉子の姿を見た気がして不安なんだ。私の知ってる莉子とホントに同じ人なのかなって。」

「どっちも私だよ。」

「やめたら?あの人達と付き合うの。」
「エレンにはわからないよ。」
「分からないって何が?言ってよ。」
「ごめん、私、帰るね。」

そう言って莉子は走って帰った。

次の日、莉子は何事もなかったような顔をして私のところに来た。

「エレン、昨日のドラマ見た?」

私は聞きたいことが山ほどあったけど、莉子の顔を見たら何も聞けなくなった。

「莉子、あのさぁ、土曜の夜歩行者天国になるじゃん。バレー部のみんなで行こうって話してるんだけど、一緒に行かない?」

「エレンごめん。その日はちょっと。」

「そっか。莉子の私服姿が見れると思ったのになぁ。」

私は努めて明るく言った。

次の日、バレー部のみんなと歩行者天国に繰り出した。夏の夜風が気持ちよかった。私は気分転換もしたかったし楽しもうと思った。
みんなで屋台のたこ焼きを食べてると、ひときわ目立つグループがやってきた。陽気にめっちゃ騒いでる。
すると友達の1人が言った。

「えっ、あれ、莉子じゃん。」

そこには韓国系ファッションに身を包み、メイクまでした莉子がいた。元々が美人だからメイクをしたら更に華やかで、行き交う人々の目を引く。とても中学生とは思えない。
私が普段見てる、坂道系の清楚なファッションをしてる莉子とは別人だ。
私は莉子に声をかけることができず、なぜだか自然に涙が溢れそうになった。
そんな私を莉子は静かに見つめていた。

次の日の日曜、私は莉子を呼び出した。

「ごめんね。呼び出して。」
「ううん。」
「昨日びっくりした。」

莉子は黙って聞いている。

「あれが莉子のホントの姿?あっちの友達といる莉子がホントの莉子なの?」

「…………。」

「黙ってないで何とか言ってよ。」
「エレンの目の前の私だけを見てよ。」
「そんなのムリだよ。」
「…。私の事嫌いになった?」
「嫌いになんかならないよ、どんな莉子でも好きは変わらない。ただ私の知らない莉子が、私のそばからいなくなりそうで怖いだけ。」

私は莉子に手を伸ばし抱きしめた。

「エレン、泣かないで。」
「泣いて…ないよ。」

抱き締めてる手を莉子の頬に当てた。

「莉子…。キスしていい?」
「初めてのキスは花火大会って…。」
「今キスしないと莉子がどっかに行っちゃう気がするから…。」

私たちはお互いの存在を確かめるように、初めてのキスを交わした。

私のファーストキスは2人の涙の味がした。


莉子が何か言ったのか、それからあの不良達が非常階段に来ることは無くなった。

その頃、莉子は私にこう言った。

「エレンにはいつも輝いていて欲しい。
私のせいで曇ることがないように。
田所さんとは付き合ってないよ。
嘘じゃない。」

「私ね…、エレンだけを愛してる。」

この頃、莉子から短い手紙をもらった。短い文に込められた想いが辛かった。


𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭

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