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【 パンドラの箱が開く時 】vol.5 忘れられない恋 ❦恋愛小説❦

莉子へ

私の初めては全てあなたでした。

あの頃の私達をあなたは後悔していませんか?
あなたにとっては記憶の1ページに過ぎませんか?
あなたは今、幸せですか?

私の胸の中はあなたへ聞きたいことと、あなたへの愛で溢れています。

エレンより



夏休み最後のイベントは花火大会。
最近少しギクシャクしてたし、夏の終わりに素敵な思い出が作りたかった。

「莉子、花火大会一緒に行かない?それとも、もう先約がある?」
「もちろんエレンと行くよぉ。」
「ホント、嬉しい。浴衣着てくる?」
「うん。髪もアップして可愛くするから期待しててね。」
「莉子のうなじ、想像しただけで興奮しちゃうかも。」

私はわざとふざげて言った。

「エレンってば、エロい目で見ないでよぉぉ。」
「エロいってどんな?もしかして、こんなやつ?」

当時女子同士でブラウスの上からブラのホックを片手でつまんで外すのが流行ってた。私はふざげ心で莉子にやってみた。

「きゃっっ!」
「エレン、やめてよぉぉ。ホントに外れちゃったじゃない。」
「きゃははっ、ごめん、ごめん。」

すると莉子は赤い顔をしてじっと私を見つめてきた。

「どうしたの?」
「責任持って⋯はめてよぉぉ。」
「いやいや⋯、外すのはブラウスの上から外せるけど、はめるのは無理でしょ。」
「いいよぉ、手⋯入れてもぉ。」
「ねぇぇ、早く⋯。」

私は想定外の理子の反応にめちゃめちゃ戸惑った。でも、ここは勇気を出して・・・手を伸ばし・・・。

「エレンってホント、エロいね。冗談に決まってるでしょっっ。」

莉子がいたずらっぽく笑った。

「私をからかったの?コラー!」

走って逃げる莉子を追いかけながら、いつまでもこの関係が続けばいいと思っていた。


花火大会

待ち合わせに現れた莉子はめちゃめちゃ可愛かった。髪をアップにして、大きな花飾りをつけている。ほんのりピンク色に薄化粧をした莉子は一際目を引いている。浴衣は紫にあじさいが描かれてこれもまたよく似合っていた。

「エレン、どうかな?」
「綺麗だよ。思わず見とれちゃった。」
「ふふふっ、うれしい。」

花火が上がるまで少し時間があったから屋台を回っていると、男が声をかけてきた。

「あれ、莉子?今日はいつもと雰囲気違うじゃん。あいつらと一緒じゃないの?俺も後で合流するから。」

莉子は私をチラッと見てすっと目をそらした。また少し歩いていると同じように声をかけられ、極めつけは

「莉子、何してんだ。お前もあいつらんとこ早く行こうぜ。」

そう言って男が莉子の腕を引っ張って連れて行こうとした。
私は咄嗟に理子の体を引き寄せ、男の手を振り払った。

「なんだよ、こいつ!」
「やめて!私の友達に手を出さないで。」

莉子が大きな声を出したので男は渋々立ち去った。

その頃、花火が上がり始めた。

ドーーーーーン!
ドーーーーーン!!

私は莉子の手を引いて河川敷に行き草むらに座って花火を見あげた。

ドーーーーーン!!

莉子がどこかに行っちゃいそうな気がしてぎゅっと手を握った。

「莉子⋯。」  ドーーーーーン!!

聴こえてないのかな?
返事をしない莉子の顔を覗き込んだ。
すると大きな瞳に今にも溢れそうなほど涙が溜まってる。

莉子は立ち上がると人混みを掻き分け、人気の無い方に走り出した。
私は慌てて追いかけ腕を掴んだ。

「莉子、どうしたの?」
「⋯⋯。ごめん。私のせいで嫌な思いしたでしょ。」
「全然、気にしてないよ。」

「不良のリーダーの結城っているでしょ。あれ、私のいとこなの。今の父親と私は血が繋がってないしね。父親違いの弟なんてまだ2歳だよ。家が居心地いいはずもない。さっき声かけてきた子達もみんな似たような境遇なんだ。」

「私、エレンの輝いてる姿に憧れた。憧れが好きに変わって、一緒にいられるようになった時はホントに嬉しかった。でも私とは住む世界が違いすぎる。エレンの輝きを私が消しちゃうようで怖いの。」

「⋯終わりにしよ、エレン。」

「何で?どうしてそうなるの?」

私は莉子の腕をつかんでそばの木に体を押し付けた。そして顔を背けようとした莉子に、強引にキスをした。

莉子は泣きながら言った。

「こんなキス⋯やだよ。」
「⋯⋯⋯、ごめん。」

莉子の為に買った髪飾り。花火を見ながら髪につけてあげたかった。私はそれを花火に向かって力一杯投げつけた。

それからしばらく莉子と会わない日が続き、休み明けに受けたテストも散々だった。

その日の放課後、私は担任に呼ばれた。要は成績も下がってるし、莉子含め友達関係を見直せという話だった。

「ウルッさい!何も知らないくせに莉子の事を悪く言うな!」

頭にきて力一杯叫んだら、学年主任までやって来て更に説教された。やっと解放され廊下に出ると噂を聞きつけた莉子が待っていた。

「少し話せる。」
「うん。」

誰もいない体育館裏に移動した。

「私のせいだよね、呼び出されたの?」
「何のこと?莉子は関係ないよ。」
「嘘つかなくていいよ。さっきたまたま職員室にいた子が、見てたこと全部教えてくれたから。」

「莉子は何も悪くない。私、間違ったことはしてないよ。」

莉子が私の手を両手で握った。

「明日、土曜日だよね。うちに泊まりに来る?」
「えっ、いいの?」
「うん。ちゃんと話しよっ。」


次の日の夕方
莉子ん家に初めて行った。

「親いないからゆっくりしていいよ。」
「えっ?」
「うちの親2人でスナックしてるから夕方からいないの。」
「じゃ、毎日夜は1人って事?」
「うん。だから同じような境遇のみんなと一緒にいたりもする。田所先輩もその内の1人に過ぎないよ。」

「私、何も知らなくて⋯。」

何も出来ない自分の無力さがもどかしかった。そして色々な話をしながら夜を迎えた。

「もう遅くなったね。ベッドで一緒に寝る事になるけどそれでもいい?」
「うん。私はいいけど⋯。」
「じゃ、きて⋯。」

先に布団に入ってる莉子が私を呼んだ。布団に入った私は恥ずかしくて莉子に背を向けた。

「私がもっと大人だったらいつでも莉子のそばにいて、辛いことから守ってあげることが出来るのに。」

すると莉子が私の肩越しに手を回し体を寄せてきた。しばらくそうしていたが私は我慢できなくなり、振り向いて莉子を抱き寄せた。胸に顔を埋めた莉子の髪を優しく撫でながら、幾度もキスを繰り返す。毎日1人で寂しい夜を過ごしてるのかと思うと、たまらなく愛おしかった。

「莉子、これから寂しくなった時には必ず私を思い出して。今から私が莉子に忘れられない夜をあげる。」

「うん。」

そして私達は体を重ね1つになった。
永遠にこの時間が続きますようにと願いながら。


【  莉子が選んだ未来の選択  】

この時の私は莉子が選ぶ未来の選択に全く気づかなかった。

分かっていれば、2人の未来を変えることができたのだろうか?


𝓽𝓸 𝓫𝓮 𝓬𝓸𝓷𝓽𝓲𝓷𝓾𝓮𝓭

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