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飯野謙次『仕事が速いのにミスしない人は、何をしているのか?』~感想

 畑村洋太郎と共に「失敗学会」を立ち上げた著者による「ミスなく速く仕事をする方法」が述べられている本を読み、フリーランス校閲者として、個人のミスを改善する方法を考えてみた。
 まずは、チェックリストとマニュアルからである。


「個人の仕事」でチェックリストとマニュアルを作る

 チェックリストを否定する人もいるが、手順が多い業務においては有効だと著者はいう。だが、チェックリスには作り方がある。具体的には「アメリカ版」がお勧めと述べられている。

アメリカ版チェックリスト
非常に小さなステップが一つずつ項目化されています。
1. 水槽 A は60°より低くない
2. 水槽 A は80°を超えていない
3. 水槽 A の水面は、赤い線より下にある
4. 水槽の水面は、青い線より上にある

日本版チェックリスト
1. 水槽温度の適正を確認する
2. 水槽内の水量を確認する

本書52ページより

 わたしのように、チェックリストが使いづらいと思う人は、「日本版チェックリスト」を作り、使っていないだろうか。個人の手順であっても、「アメリカ版チェックリスト」で書いてみると、「やるべきこと」がはっきり見えて使いやすくなるように思う。
 しかも、「水槽A」に赤い線を引いたり青い線を引いたりという、「ひと目でわかる工夫」をする手段も、どこかにまだ眠っているはず。いまの校正刷りを手放したら、著者の言うように「愚直に1作業1チェックで作」ってみよう。
 さらに著者は、「誰かに伝えるためではなく、自分のなかで仕事を管理するために」自分の仕事をマニュアル化することも勧めている。
 わたしだったら、簡単に書くとこうなる。

1. メールまたは電話で校閲仕事を受注
2. スケジュールを確認してなるべく早く返事をする
3. 初校の校正刷りが送られてきたら、翻訳物であれば原文と照合する(翻訳チェックをする)そうでなければ4へ
4. 紙で言葉や表現を中心に見る
5. ファクトチェックをする
6. キーワードや登場人物、地図等をメモしながら、pdfで他の箇所との論理的整合性を確認する
7. 紙で素読みをして朱字・鉛筆を入れる。ルビはpdfを拡大して見る
8. pdfで言葉や表現の整合性を確認して紙に朱字・鉛筆を入れる
9. pdfで素読みをして紙に朱字・鉛筆を入れる
10. Just Right!をかけて結果を判断し、紙に朱字・鉛筆を入れる
11. 不要な鉛筆や朱字を消していく
12. 校正刷りのページがそろっているかを確認する
13. 校正刷りを上下左右、きちんと揃えて発送する

 このように書き出してみると、「正しいけれどもわかりにくい」工程がどこなのかが明確になる。著者によると、「正しい方法をすべて書いてはいないが、わかりやすい」状態のマニュアルに整えるとミスは激減するという。上の例でいうと、3、4、7、8、9あたりが「わかりにくい」ところ、つまり自分の頭の中が整頓されていない状態である。
 ここのパートをもっと細かく書き出してから、自分の業務マニュアルを改善していく。具体的には「誰が読んでも同じことができるように」書いてみる。チェックリストの見直しに続いて、これもやってみたい。

「どうやったらミスが起こるか」と逆の発想で

 さらに著者は、これまでのミスを言語化するだけではなく、未然に失敗を防ぐためには「どうやったらミスが起こるか」という逆発想を勧めている。

「どうやったら失敗できるか」とあえて考えてみる

考えうるすべての要因を洗い出し、さらにその要因を作り出す可能性を考え、それぞれがどれくらいの確率で起こりそうかを考える。そして、結構な確率で出現しそうな現象があったら、その要因を潰していく。
 
日頃から思考を柔軟にして、「どうやったら失敗できるか」「どんな失敗ができるか」を考えておく必要がある

本書196, 202, 203ページ

 具体的には、紙に「起こってほしくない現象」を書き出し、どうすればそうした現象」が起こってしまうのかを書き出す。そして、その状況を作らない方法を考える。著者はそのように述べている。
 だが、わたしの含めてふつうの人は、「どうやったらミスが起こるか」とは考えられない。著者は、その原因は思考を柔軟にするトレーニングをしていないことだという。
 校正・校閲の仕事にクリエイティブさが必要だとは思ったことがなかった。これは別途トレーニングをしないといけない。

ミスの原因は4種類

失敗の原因はすべて4つに分けられる
「学習不足」とは、その名の通り、知っておくべきことを知らなかったために成功できないケース
「計画不良」これは3つに分けられる。「計画不良」「注意不足」「伝達不良」をまとめて、「計画不良」と呼ぶ。

本書221, 227ページ

 著者によると、どんなミスでも、原因は4つに分けられる。そして、「学習不足」「計画不良」「注意不足」「伝達不良」の4つの原因を取り除けば、個人の失敗に関しては恐れる必要がなくなるという。校正者としてはとくに「注意不足」に目を向けたい。

注意不足によるミスを防ぐには

「注意不足」に関しては、他人と機械の力を借りる

「作業が惰性になり、注意力が衰えたとしても、ミスにつながらないようにするには、どういうしくみを作ればいいか」あるいは「作業が惰性にならないようにするにはどうすればいいか」

本書237ページ

 フリーランスが「他人の力を借りる」というのは、たとえば同業者のコミュニティで質問したり、知り合いに相談するというのが挙げられるだろう。
 「機械の力」は、わたしでいえばJust Right!だろうか。あとは「作業が惰性にならないようにする」工夫が必要になるだろう。
 わたしは、集中力が落ちてきたと感じたら机から離れることにしている。エアロバイクを漕いだり体操をしたり、時間のあるときは散歩に行く。風呂も有効で、入浴後はすっきりして集中できる。いずれにしても、早めに「いったん離れる」のが吉である。だが、他に工夫できることはないだろうか。同業者はもちろん、他業者の知り合いにも聞いてみたい。
 さて、他の3つの原因「計画不良」「注意不足」「伝達不良」は、著者によるとひとつにまとめて「計画不良」にくくれるという。
 計画不良によるミスを防ぐには、「的確な計画を立てる」こと、そしてミスが起こったときに「計画をどう間違えたか、自分のリソース配分の何がいけなかったか、相手の何を思い違いしていたかを一つひとつ振り返」ること。そして、「どの点で読みが甘かったのかを、必ず追求してお」くことだという。
 これまで、自分のミスは記録してきた。だが「どの点で読みが甘かったのか」とまでは、そのときは追求するが、きちんと書いていなかった。そこまでやらないといけないのか。次にミスが発覚したときには、もう一度ここを読み直して掘り返すこととしよう。

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