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便利な訳語。なるべく使わないで! #3

 今日は「便利だけどなるべく使わないで!」の3つ目、「行う」について説明しよう。

~を行う

 以下の英文と訳文がある。

To capitalize on digital opportunities and avoid digital threats, businesses must proceed based on knowledge — not guesswork.
このデジタルなチャンスをつかみ、デジタルの脅威を避けるために、ビジネスは推測ではなく、知識によって行う必要があります。

 この英文ではbusinesses proceedが主語と述語動詞。「ビジネスは(を)行う」と訳されている。見た瞬間、「ああ、また『~を行う』」かと思った。「行う」を使った訳文があまりに多く、見飽きているのだ。
 「行う」はとても多くの動詞の代わりに使えるので、あまりに便利な日本語である。けれども訳文が平坦になるし、訳文の意味が曖昧になる。どの翻訳講師も、多用するなと言っていると思う。
 だが、25年前から減る気配がない。実際にはどう直せばよいかがわからないからかもしれない。そう思い、今日は具体的な言い換え例を提示する。

英和辞典のproceedの語義は……?

 例文に戻ると、述語動詞はproceedである。英和辞典を引いてみよう。

【新英和大辞典】
(1) (中断後)〔…を〕続ける, 続けて〈…〉する (continue) (2) 〈物事が〉進行する, 進む

【ジーニアス英和辞典】
➊ ⦅正式⦆SV〈人が〉〔…を〕続ける, 続行する;〔計画などを〕進める〔with〕
➋ ⦅正式⦆SV〈仕事などが〉続く, 進行する

【ウィズダム英和辞典】
1 (かたく)続行する;人が〈物・事〉を続ける(continue);〈物・事〉に取りかかる
2 〈人が〉次に…する[し始める]
3 (かたく)前進する

 3つのどの辞書にも、第1~第3義に「進む」「進める」とある。ここではそれを使えばよいのではないか。
 「行う」を「進める」にした訳文でbefore→afterを確認してみよう。

このデジタルなチャンスをつかみ、デジタルの脅威を避けるために、ビジネスは推測ではなく、知識によって行う必要があります。
⇒このデジタルなチャンスをつかみ、デジタルの脅威を避けるために、ビジネスは推測ではなく、知識によって進めていく必要があります。

 このほうが意味が明確になる。そう、わざわざ「行う」を置くのではなく、辞書の語義をそのまま使えばよかったのだ。

いつも「進む(進める)」が使えるわけではない

 この例文はproceedだから「進める」が使えたが、いつも「行う」の代わりにそれができるのか。もちろん、そんなことはない。
 では、どうしたらよいか。「行う」の代わりに使える語をいくつかストックしておけばよい。次の4つのうち、どれかがぴったりくることがほとんどだと思う。

行う
⇒進める、遂行する、実施する、実行する

 「行う」をこれらに置き換えて訳文に入れてみて、いちばんぴったりな語を選べばよいのだ。
 というわけで、今回の文では「行う」を削って「進める」とした。ずっとクリアな文になったと思う。
 では最後に、「~より」を減らすための今日のポイントを再掲しておく。

  • 「行う」→「進める」「遂行する」「実施する」「実行する」にする

 「行う」を多用しないためには、まずはこの置き換えを試してみてほしい。そうしているうちに、もっとぴったりの動詞を使える時があり、そうした語も使えるようになると思う。

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